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 「詳しい話の前に、ちょっと顔洗わせてー」
 勧められるままソファーに腰を下ろし、先程のものよりも座り心地がいい!と感動していたら、お偉いさん御2方共、簡易キッチンの近くにある扉の中へ姿を消された。
 ???
 扉の奥からかすかに、じゃーじゃーと水を流す音が聞こえて来た。
 ほんとうにお顔を洗っているご様子だ。
 なんだかさっぱり状況が掴めないまま、とりあえず、ソファーの素晴らしさを堪能することにした。
 いいスプリングだなあ…
 いくつか並べてあるクッションも、硬めで好みだ。
 シンプルな部屋の中は、やっぱり落ち着くなあ。

 のんびりしていたら、扉が開く音が聞こえて、慌てて姿勢を正した。
 「あーサッパリした!」
 「待たせて済まないね」
 とんでもないですと、返事をしようと振り返って、ぽかんとなった。
 文字通り、純度100%のぽかん、だ。
 空いた口が塞がらない、とはこのことだろうか。
 戻って来たお偉いさん御2方の、劇的な変貌に、とにかく驚いた。
 声は同じだ。
 雰囲気も、硬さが抜けてリラックスしたご様子はあるものの、同じだ。
 お顔が、違う…!!

 1番のお偉いさんらしい御方は、栗色の長い髪に、人工的な白い肌、あまり自然に見えない桃色の頬と唇、描いたと想われる眉、瞬きする度に揺れるたくさんの睫毛、髪色に合わせた、大きな栗色の恐らくカラーコンタクトを付けた瞳、といったお顔だった。
 それが今は、焦茶色の短い髪とつぶらな瞳、程よく灼けた肌、程よく血色も良く…と、すべてが自然に落ち着いておられる。
 お偉いさんに呼ばれてついて来られた御方は、淡い金髪に近い茶色のふわふわした長い髪に、こちらも人工的な白い肌と、お偉いさんとよく似通ったお顔だった。
 それが今は、黒い短い髪と瞳、色白な肌…と、こちらも自然な色味に落ち着いておられる。

 劇的なビフォーアフターの変化に、どういった言葉を発することもできず、俺はただ、黙っていた。
 お偉いさん方に感じていた、違和感の意味がわかった。
 
 「あはは、ごめんねー、ビックリしたよね?」
 「それはビックリするよね。事情は今から詳しく話すけど、先ずは自己紹介しましょうか」
 「よしきたー!改めて『はじめまして』、前陽大君。俺は3年の富田一平(とみた・いっぺい)、柾昴の親衛隊長であり、各親衛隊を束ねる統括隊長でもありまーす。よろしくねー」
 「『はじめまして』、俺は2年の織部心太(おりべ・しんた)といいます。副会長、日景館莉人の親衛隊長であり、統括副隊長も兼任しています。よろしく」
 朗らかに笑い、茶目っ気たっぷりにウィンクまでなさる、とみた先輩。
 穏やかに微笑んでおられる、おりべ先輩。

 「は、はい…はじめまして…?前陽大です、よろしくお願い致します」
 なんだかよくわからないままに、返事を返したら、先輩方は吹き出された。
 「昴が言ってた通り、面白い子だー」
 「ですね」
 会長さまが、言ってた通り…?
 「君のその様子だと、まだ何も知らされていないんだろうね?」
 「だから我々も動かざるを得なかったのですが…前君、無理に連れて来て悪かったね。緊張したでしょう」
 元は気さくな御方なのだろうか、とみた先輩の雰囲気はすっかり一変し、面白そうに笑っておられる。
 おりべ先輩は、堅苦しい雰囲気は消えたものの、細やかに配慮してくださった。

 首を傾げた俺に、御2方の笑顔は絶えない。
 「取り敢えず、先にお茶入れようぜー」
 「そうですね、話はそれからにしましょう」
 踵を返しかけたおりべ先輩に、とみた先輩がお声をかけた。
 「織部君、待った!美味いお茶に関しては前君に一家言ありそうだし、さっきから彼、簡易キッチンの方を気にしてる」
 う…!
 バ、バレてました?
 「ああ、そうですね。客人にお願いするのも妙な話ですが…前君、良いかな?」
 
 俺に断る理由はありません。

 かくして、僭越ながら他所さまのキッチンに立たせて頂き、知る限りの知識を駆使し、アンティークの茶器で入れたホカホカの紅茶と、出してくださったホワイトチョコレートがけラスクで、ほんとうのお茶会が始まったのでした。
 「美味い!!」
 一口飲むなり、それ以上の言葉はないとばかりに感嘆してくださったとみた先輩。
 「美味しい…こんなに美味しい紅茶、初めてかも知れない…」
 ゆっくりと味わって、ため息混じりに呟いてくださったおりべ先輩。
 「ありがとうございますー、お口に合ったなら幸いです。先程は知ったような口を聞いてしまいましたが…紅茶にあまり詳しくないもので恐縮です。この銘柄、ほんとうにおいしいですね!勉強になります」
 
 御2方はぶんぶんと首を振られた。
 「いやいや、言うだけの事はある。今まで飲まされて来た紅茶の全てを否定したいぐらいだ」
 「まったくですね。前君の入れ方を見て、本当に勉強になったのはこちらですよ。あれだけ丁寧に入れるからこそ、こんなに美味しくなる…奥が深い」
 「恐縮です」
 喜んで頂けたようで、よかった。
 紅茶のかぐわしい香りと、あったかさと、和やかな空気に、心底ほっとなった。
 おひとつ頂いたラスクも、すっごくおいしい。
 おいしいお茶の時間、しあわせだー…
 まったりしていたら、とみた先輩にくすくす笑われた。

 「昴の言う通りだ。和むな、前君」
 「本当に。すごく癒されますね」

 え?
 また、会長さまの言う通り???
 親密な眼差しを向けられて、戸惑った。
 とみた先輩も、おりべ先輩も、にこにこ、笑顔が途切れない。
 「君には話しておこうと想った。本当の親衛隊について、ね」
 「そう言われたからでもあるけれど、前君本人に会って、我々も心からそう想いました」
 「だから先ず、俺達の本当の姿を見せたんだ。この方が話し易い」
 「ずっと変装していると堅苦しいしね。気味が悪かったでしょう」
 
 さっきも言っておられた。
 ほんとうの、親衛隊って…?


 
 2010-12-13 23:59筆


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