48.ようこそ、白バラワールドへ
お偉いさん御2方は、慣れたご様子で2階へ上がって行かれた。
ずいぶん昔に建てられたものなのだろうか、掃除も手入れも行き届いているけれど、螺旋階段を1段上がる度、ぎしりぎしりと重々しい音が響いた。
理事長一族さんたちの、使用人さんのための建物、かあ…
明かり取りが十分に取ってあって、特にこの階段付近の天井は、光が十分に射しこむようになっている。
オフホワイトが、入ってきた光をやわらかく受け止めている。
住み心地は悪くなさそうだ。
今は親衛隊さんの集まりだけに使われているためか、生活感がなくて、調度品が堂々と存在しているのにどこか殺風景だけれど。
工夫したら、ちゃんと人が住んだら、とてもいい家になりそうだな。
お偉いさん御2方の、小柄で華奢な背中を追いながら、そんなふうに感じていた。
2階の部屋数は、1階に比べてそう多くはないようだった。
1階よりも各部屋広々と取ってあるようだ。
御2人方は迷いなく、硬い無言を保ったまま、階段を上がって1番奥の部屋へ向かわれた。
観音開きの扉の上にかかってあるプレートが目に入った。
「白薔薇の間」…?!
扉が大きく開かれ、先に入るように、やはり無言のまま指し示された。
恐縮しながら、部屋の中へ1歩踏み出して、驚いた。
てっきり、さっき通された部屋と同じぐらい、もしくはそれ以上に、華やかで豪華な造りなのかと想ったら。
部屋の広さは同じぐらいあったけれど、ここは、とてもシンプルだった。
言ってしまえば、俺好みの部屋、だ。
黒い机が整然と並んでおり、その上には最新のものだろうか、デスクトップパソコンの薄型ディスプレイが5台程、周辺機器といっしょに並んでいた。
天井、壁共にオフホワイトの無地、壁のちょうど俺の腰から下ぐらいの位置に、白いバラと抽象的な模様がストライプになった、年季を感じさせるレトロな壁紙が貼ってあるのが、この部屋の唯一の装飾と言えそうだ。
床はきちんと手作業で組み合わされたようなフローリング。
大きく取られた窓辺には、レースのカーテン代わりに白いリネンのカーテンと、防音効果がありそうな分厚いモスグリーンのカーテン。
中央には、簡易ベッドになりそうなぐらい、大きな黒いソファーセット、ざっくりした粗い生地の白いラグが敷いてある。
壁面の一部に設置された、機能的な書棚には、たくさんの冊子とファイルが詰まっていた。
そして、ちいさな簡易キッチンと、極めてシンプルな2段冷蔵庫が、片隅にひっそりと存在していた。
あちらこちらに観葉植物が置いてある。
オフホワイトと、黒と、植物の緑、ところどころに差し色がある、とてもシンプルな部屋。
はい。
探検したいです。
とても、探検したいです。
きょろきょろ、うずうずしていたら、急に背後から、ばたんっ!と大きな音が聞こえ、飛び上がりそうになった。
なにごと?と振り向いたら、お偉いさん御2方が勢いよく扉を閉めたようで、それはいい、それはとにかく。
何故、なにかのスパイ映画のように、御2方ともそれは険しいお顔で、扉にぴったりと張りついておられるのでしょうか。
「……あ、あのぅ…?」
「「しっ…!静かに…!」」
「……はい、すみません……」
どれぐらい、そうなさっておられただろうか。
御2方はごく真剣な面持ちで、扉に張りつき、気がお済みになられたのか、揃ってふうっと息を吐かれた。
「……織部、何も問題はないよね…?」
「……ええ、白薔薇の君、誰も怪しんでおりません」
緊張感漂うやりとりの後、またも同時にふうっと息を吐かれた…まるで、優月さん満月さんのように呼吸が合っている。
一瞬の沈黙の後。
「「はああっ…疲れた〜!!!!!」」
……???
あああ〜…!と、両腕を天に伸ばし、深呼吸すること3回、身体の各関節を回す・伸ばすこと3回。
それで身体の自由が戻って来られたのか、御2方のお顔から、今までの緊張感や険しさがすっかりなくなってしまった。
「「ったく…やってらんねーっつーの!!」」
なにかに悪態を吐くがごとく、それぞれ吐き出した後、くるっとやにわに俺を振り返った。
「お待たせ、前君」
「改めて…ようこそ、『本当の』親衛隊へ!」
にっこり、屈託なく笑う御2方は、とても自然体な雰囲気をかもし出されておられた。
2010-12-12 22:13筆[ 211/761 ][*prev] [next#]
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