45. お母さん、5日目でお呼出し決定
続々と皆さん帰られて、お昼休みが終わった。
ただでさえ華やかさ漂う造りの教室、ただでさえ華やかな雰囲気のクラスメイトさんたち、それが更にキラキラ倍増の一時だったなぁ。
3大勢力さまが去られた後の教室は、キラキラの名残はあるものの、落ち着いた空気を取り戻し始めていた。
一舎さんは5限目ギリギリにふらっと戻って来られて、そのまま6限の終わりまで寝ていらした。
合原さんとお友だちさんたちも、ギリギリに戻って来られた。
顔色が優れないように見えた…光の加減か、気の所為かも知れないけれど、大丈夫だろうか。
ついさっきまで、ここに会長さまたちがいらっしゃったこと、報告したほうがいいのかなぁ。
最前列の席に座る、小柄な背中を見つめながら、今朝からの違和感は消えなかった。
ともあれ、時間は流れる。
6限目の業田先生の授業は、これまで受けた中で1番ハードだった。
HRの時はゆるやかな雰囲気の業田先生、授業となると途端に、弁舌達者でやる気満々の教師さまに変身!
授業の内容は充実しており、そのハイスピードな展開を即座に脳内処理できる、理解が早い御方にとっては、とても面白いものなのだろうなと、想った。
そう、羨ましく想っただけだ。
板書と教科書についていくのが精一杯です…
矢継ぎ早に繰り出される質問に、当てられないことをひたすら願う、極度の緊張とスリルに包まれた時間でした…はぁ…
業田先生の授業だけではないけれど、俺、ほんとうにヤバい…
入学5日目にして早くも撃沈です、心が折れそうです。
終了のチャイムが鳴った時、どれだけほっとしたことでしょう。
予想通り、そのままHRになって、特になにごともなく解散となった。
「前、悪ぃ。用事あるからこのまま出る」
今日もぐっすり寝倒しておられた美山さん、HR終了と同時にスッキリしたお顔でこちらへやって来られた。
「あ、はい!わかりました」
「武士道、来んだろ?」
「はい、たぶん…」
「なら良いが…てめーが目付けられてんのは変わってねー、気を付けて帰れよ」
「お気遣いありがとうございます」
「いや…」
美山さん、気にかけてくださっているんだなぁ。
晩には戻ると言いおいて、去って行かれる背中を見つめながら、心がほっこりした。
確かに昨日より緩和されているとは言え、時折、いろんな視線を感じる。
ほとぼりが冷めるまで、自分でちゃんと気をつけないと。
「美山って何気に良いヤツだよなー知らんかった」
その様子を見ていおられた音成さんが、感心したように呟かれた。
「はいー親切な御方と同室になれてよかったですー」
「まー前にとっちゃ良かった…のかもな。結果良けりゃ全て良し、ってとこか」
「???はい」
「じゃー俺も部活行って来るー」
「はい!いってらっしゃいませ、音成さん。今日も授業が終わる度、フォローしてくださってありがとうございました」
「いえいえーこちらこそメシ食わせてもらってるし、お安い御用!俺の復習にもなるしな!」
わー、爽やか!
さすがスポーツマンさんだなぁ。
「機会があれば、部活風景を観てみたいですー」
「おー、いつでも来いよ!来週、練習試合あるし」
「はい、ぜひ!」
また明日と声をかけ合いながら、軽快に去って行く音成さんを見送った。
クラスの皆さんとも挨拶を交わしながら、さて…
昨日は早く来てくれた仁と一成、今日はどうだろう。
それとも、幹部の子たちか、まだ会えていない「ホーム」作成途中の誰かが来てくれるのかなぁ。
「また放課後ね〜」って、お昼に一成が言ってたけど。
教室にいるってメールか電話しようかな。
俺から皆のところへ行ってみようか…って、皆のクラスを聞いてなかったっけ。
後で確認させてもらおうと想いながら、携帯電話を開いた、その画面に影が落ちて、なんだろうと顔を上げたら。
合原さんと、合原さんのお友だちさんが、硬い表情で俺の席の前に立っておられた。
「前陽大、状況が変わった」
「合原さん…?」
「……だから、大人しくしてろって…気を付けろって言ったのに…」
一瞬、合原さんのお顔が歪んだ。
その左右の腕を、お友だちさんたちが支えるように触れている。
ぎりっと唇を噛み締め、きっと顔を上げた合原さんは、昨日と同様、どこかビジネス然とした雰囲気に変わっておられた。
「言ったよね?『全親衛隊は、一昨日の食堂並びに今朝の出来事を、黙認する』って」
「はい…」
「黙認、出来なくなった」
う…!
「いつも誰かが一緒とは言え、前陽大、君は柾昴様筆頭に皆様とお近付きになり過ぎた。昨日の放課後、柾様と親密な会話を交わした、加えて今日の昼休み…君にもよく身に覚えがあるだろう?」
何故ご存知なのだろう…!
親密という単語に、引っかかるものは大いにあるけれど、何故?
どこかから常に見られている、というか、学校内が広いだけに逆に人目に触れない場所がない、ということなのだろうか。
合原さんの瞳は、会長さまの名を語ってもキラキラしていなくて、沈鬱に冷めていた。
そうあるべく努めていらっしゃるように見えた。
きっとピアノを弾くのが好きなのだろうと想った、きれいな指先が、僅かな時間だけ俺を指した。
「親衛隊統括隊長が、状況説明を強く望まれている。同行願う」
盛りを過ぎ始めた桜が、ふわりと、窓の外を舞っていた。
2010-12-07 09-28筆[ 208/761 ][*prev] [next#]
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