7.お母さん、国王さまと面談


 王子さま…こと副会長さま、ひかげだてりひと先輩にお礼を述べて、目の前の扉をノックした。
 「理事長室」と、門柱と同じ瀟洒な文字が刻まれたプレートのかかった、重厚な雰囲気の木の扉は、ノックの音すら重々しく響いた。
 「入りなさい」
 すぐに中から声が聞こえた。
 去り行く副会長さまの後ろ姿に、もう一度お辞儀してから、扉の把手に手をかけた。

 「ひかげだてりひと」って、どんな漢字を当てるのかな…
 ちょっと聞いてみたかったけれど、初対面で、しかもなんだか大変な役職の先輩に、気安くお窺いするわけには参りません。
 生徒の代表、生徒会さまのことだったら、なにかで知ることもできるだろうか。
 そう考えながら部屋の中へ入った途端、ガタンっと、大きな音が聞こえた。
 「はるくん…!!よく無事で…!!」

 マホガニーの一枚板の大きな机に手をつき、今にも駆け寄って来そうな勢いで立ち上がられた、その御方へ視線を向け、ほっとした。


 「失礼いたします、理事長さま………今朝ぶりです、十八(とわ)さん」


 こちらの、十八学園の理事長を務める、十八嘉之(とわ・よしゆき)さん。
 俺の母親の再婚相手さんだ。
 眉目秀麗の代名詞のような十八さん。
 黒に近い茶色の髪と瞳、風格ある口髭を有する、ものすごくダンディーで頼れる紳士だ。
 百八十近い長身、スマートな体躯に優雅な身のこなし、磨き抜かれたセンス…格好いい大人の男そのもの。

 目の前に存在する、こんな華やかで素敵な御方が、俺などのために血相を変えたり、朝は寝癖をつけて起きてこられたり。
 そんな意外なところも、十八さんの魅力に繋がっているのだと思う。 
 思わず頬が緩んでしまった俺の側へ、十八さんがおろおろと近寄ってこられた。
 「心配したんだよ〜…中々来ないから…」
 「心配かけてごめんなさい。ありがとうございます」

 「いや…それは当然の事だから良いんだけどね。はるくんはしっかりしてるけど…何せこの学園は、」
 「『いろいろ問題があるから』でしょう?」
 「はは…もう聞き飽きたよね…?」
 「いいえ、そんなことないです。それに、心配してもらえてうれしいですから」
 ぽんっと、肩に、十八さんの大きな手。
 「取り敢えず座って話そうか…長時間歩き続けて疲れたよね。荷物はその辺りに置いて、そこへ座っていて。お茶でも入れてくるよ」

 大きな黒い革張りのソファーを勧められるまま、遠慮なく荷物を置かせてもらい、十八さんに提案した。
 「理事長さま直々にお手を煩わせるわけには参りません。俺がお茶を入れますね。給湯室はどちらですか?」
 「はるくん〜…」
 「それに十八さん、お湯も沸かせないでしょう?」
 「…最近、沸かせる様になったよ…?」

 まぁ、十八さんったらイジイジしょぼしょぼしちゃって、お可愛らしい。
 大人の男性が見せるこういう隙って、なんだか微笑ましい。
 「はいはい。でも、お仕事中なのにまた火傷したら大変ですから。ね?俺に任せてください」
 「はるくん〜…」
 「十八さん、なにが飲みたいですか?」
 「ん〜……じゃあ、お言葉に甘えてお任せしようかな…はるくんのお茶、美味しいし…確か、良いダージリンがあったと思うんだけど」
 「わかりました」

 十八さんに案内されて、広い広い理事長室の一角、給湯室と言うより簡易キッチンの名が相応しいスペースへ向かった。



 2010-03-25 10:35筆

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