43.お母さんを囲むお弁当の会


 その5分後。
 ほんのわずか、5分のことだ。

 「美味いわー…この五目豆、最高ー…」
 「ひじき煮も味がよく染みてる〜…」
 「「「「総長も副長もジジ臭いっ」」」」
 「ふむ…?普通のロールキャベツじゃないな…」
 「「りっちゃん、ズル〜い!」」
 「…おにぎり、うま。」
 「俺の好きなツナマヨ〜はるちゃん、覚えててくれたんだぁ〜愛って素晴らしいぃ〜」
 「ほう、アスパラガスのソースが美味い。箸が進む」
 「委員長、偏食為さらないで下さい」
 「……蛸……?」
 「副委員長、俺も気になっております」
 「前、マジ天才ー!どれもこれも美味いわー」
 「っち…どうしてこうなる…」
 ああ、美山さん、俺も同感です。
 心の底から、同感です。


 どうして、こうなっちゃったのでしょう?


 皆さんがそれぞれ携帯電話を手にし、メールなり電話なりされてから、数分後。

 歓声の海を抜けて、風のように登場なさった、皆さんの代表を務められている方々。
 つまり。
 入学式のお昼ごはんの光景、再現、といったところだろうか。
 仁と一成が率いる、武士道幹部。
 会長さまと副会長さまが率いる、生徒会さま。
 委員長さまと渡久山先輩が率いる、風紀委員会さま。
 3大勢力さま御一行、勢揃い。

 颯爽と教室に入るなり、すぱん!っと前後の出入り口、廊下側の窓が閉められ、出来上がった奇妙な空間。
 トップに立たれる皆さんは、一様に、大きな紙袋を持参されて来られた。
 中身は、既にここへ集合していた皆さんの為のお昼ごはんだった。
 トップさんなのに、後輩さんたちの為にお昼ごはんを調達なさって来られるとは…
 不思議な印象を受けた。
 通常なら逆だろう。
 わーい!と紙袋に集い、ちゃんと好みのものを手にホクホクする、教室待機組の皆さん。
 トップさんなのに、好みのものを買って来られるなんて、なんてきめ細やかな配慮なんだろう。
 武士道はもちろんだけど、皆さん、やっぱりすごく仲がよろしいみたいだ。 

 ちょっと感動している内に、サクサクと、物事は展開して行った。
 一致団結、皆さん手慣れた様子で椅子や机を寄せ集め、それぞれお好きな場所へ落ち着かれた。
 そうしている内に、音成さん率いる購買組が帰って来られて、この光景にちょっと目を見開きながらも、用意された席の空いてるところへ落ち着かれた。
 「はるる〜用意できたよ〜」
 「いつでもいーぜ」
 のほほんとした一成と仁の言葉に誘われるまま、「いただきます」の音頭を取り、始まってしまった不思議な昼食会。
 今日のお弁当は、おからと鶏ミンチのミニロールキャベツをメインに、蒸した春野菜の梅マヨソース添え、五目豆、ひじきの煮物、昨日好評を頂いたタコさんウィンナーと厚焼き卵、おにぎりたくさんだ。
 
 まさかこんな大人数になるとは、予想もしていなかったものだから、すぐなくなりそうだ。
 こんなオールスターでお昼ごはんを食べることになるとは。
 教室内という、通常より広い造りの学校とは言えども、限られた四角い空間の中で間近に接すると、食堂の時とはまた違ってオーラに気圧されるというか…始めはおっかなびっくりだったけれど。
 皆さん、購買などで買ってきたごはんを食べながら俺のお弁当にも箸をつけ、パクパク食べてくれて、おいしいおいしいと言ってくださっている。
 これがおいしい、あれがおいしいと、競うように食べてくださっている。
 おいしく食べている人の顔を見るのが、ほんとうに好きだ。
 まして、俺の作ったものに、舌鼓を打って頂けること程、しあわせなことはない。
 
 中学校のお昼休みを想い出した。

 懐かしい、しあわせな記憶。
 こんなふうにクラス中の皆が…皆もうずっと長い付き合いだったから、もっと容赦はなかったけれど…おいしいっていっぱい食べてくれたっけ。
 明日はあれ作って来て!とか、今日のこれをまた食べたいとか、いろんなリクエストを聞いたり、わいわいにぎやかで、すっごく楽しかった。
 高校に上がって、また、こんなふうに楽しい時間が戻って来るなんて。
 「お前の弁当だろ。食わねえと、こいつら容赦ねえから全部食われるぞ」
 黙々と食事なさっておられた会長さまが、箸の止まっていた俺に気づいてくださった。
 その瞬間、はっとなって固まる皆さんに、大丈夫ですと笑った。
 
 「皆さんのおいしい顔が見られたら、それが何より嬉しいことなので…遠慮なくたくさん召し上がってくださいね。差し出がましいようですが…いつか料理で生計を立てられたらと想っておりまして、忌憚なきご意見をお聞かせ頂ければ幸いです」

 笑ったら止まらなくなって、頬が緩んだまんまになってしまった。
 一瞬、硬直なさった皆さんは、揃ってぶんぶんかぶりを振ったあと、こくこく頷かれた。
 「「「「「全部、美味い」」」」」
 しかし、見事なまでに揃っている。
 やっぱり3大勢力とかなんとか分かれていても、仲がよろしいんだなぁ…微笑ましく想いながら、お礼を言おうとしたら。


 「厚焼き卵の味と焼き加減が甘い」


 会長さまの容赦のない一言に、びしいっと空気が音を立てたような、緊張感が走った。
 「「「こーちゃん、ヒドっ」」」
 「…ひどいっ。」
 「昴…酷いな」
 「「「「「「知ってたけど残虐非道!!何様?!」」」」」」
 「「「「1番食べてる癖に厚顔無恥」」」」
 いろんな声が飛んできて、今朝も一生懸命お手伝いして、卵焼きを作ってくださった美山さんの眉間には、それはもう深い深いシワが刻まれている。
 だのに、会長さまは一向にどこ吹く風、その反応の意味がわからないと首を傾げておられた。
 卵焼きの残りを頬張りながら…男前が食べると普通の卵焼きが、特別に上等で洒落た食べものに見えるのは何故ですか?…きょとんと俺を見返した。


 「前陽大が言ってるのは、プロ目指してるって事だろ。なら、山本シェフにガチで接してた意味もわかる。本気でプロ志してる奴にお世辞言ってどうすんだよ、なあ?お前の事だから、出来合いの食材アレンジする様な緩いもんじゃなくて、ちゃんとした料理を提供したいと考えてんじゃねえのか。この弁当、1品1品の行程が整ってるし、素人の組み合わせじゃねぇ。
 …の割には、厚焼き卵は頂けねえ。所謂『お家ごはん』の範囲なら文句無しに美味いけど、外に出すなら、もっと強火でちゃっちゃと焼かねえとジューシーにしっかり仕上がらねえ。味も砂糖入れ過ぎ、万人受けは難しい。仕上げに巻きすで巻くとびしっと整うけど、まぁ、朝っぱらから弁当にどこまで手間掛けるかって所だな」


 なんですって…!



 2010-12-05 22:59


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