42.


 一瞬、静まり返った出入り口近辺。
 直後、すぐに複数の声が被り、皆さんしかめっ面になってしまわれた。
 「「「「「げっ、武士道!」」」」」
 「「「「「げっ、生徒会1年組!」」」」」
 「「「「「げっ、風紀委員!」」」」」
 そんなしかめっ面の皆さんと対照的に、廊下からは「きゃー!!」というたくさんの歓声が聞こえている。
 クラス内からも「きゃー!!」の声と、硬直して無言になる反応が起こっていた。
 一体なにごと?!

 「胸クソ悪ぃな…」
 「…戦るか…?」
 「いやいや、ちょい待ちー!」
 「総長、副長にお母さんの送迎を言付かっている。使命を忘れるな」
 「「「「お母さ〜ん、2人共待ってるよ!行こ〜」」」」
 と、黒いやんちゃな空気を出しながらも、すべてをスルーした武士道幹部の皆。
 
 「…はると、ダメ。盗られる。イヤ。」
 「武士道なんかに負けるなー!」
 「前陽大は僕らとごはんだー!」
 「はるちゃ〜ん!はるちゃ〜ん!はっるちゃああ〜ん!」
 と、こちらも武士道の動向に、はっとなりながらも、負けていない生徒会の皆さん。
 会長さまと副会長さまはいらっしゃらないようだ。

 「何と…互いにトップ不在とは言え、3大勢力が1年A組にて一同に会するとは…」
 「此れは由々しき事態。どうしましょう、副委員長?」
 「困ったな…けれど、委員長から必ずお連れする様に言われている」
 「「強硬突破あるのみ、ですね」」
 と、他を慎重に見やりながら極めて冷静な、お揃いの黒縁眼鏡の皆さんは風紀委員さんたちだろう。
 渡久山先輩が中央にいらっしゃる形で、他の御2方が守るように脇を固めていらっしゃる。
 こちらも委員長さまはいらっしゃらない。

 ほんとうに、一体なにごと…?

 「「「「お母さん、早く早く〜!」」」」
 「「前陽大はゆーとみーと手を繋ぐんだい!」」
 「…はると、俺と。つないで。」
 「前君、急で申し訳ないがご同行願いたい」
 「俺のはるちゃんに誰も触るんじゃねぇよ!!はるちゃ〜ん!!」
 ぽかんと、ぼんやりしていたら、皆さんは堂々と教室内へ乗りこんで来られた。
 クラス内は急に騒然となった。
 四方八方から手を差し伸べられ、口々に話され、目を白黒させていたら、クラス内の光景が目に入った。

 皆さんはどうやら、俺に用事があるらしい。

 しかし。

 離れた位置で、食事を始めようとなさっておられたクラスメイトさんたちが、気まずそうに教室を出て行かれるのが目に入った。
 購買へ向かおうとしていた皆さんは、どうしたものかと、困ったご様子で出入り口付近で佇んだままだ。
 音成さんも手をこまねいたご様子で、心配そうにこちらを見ていらっしゃる。
 廊下には、A組で何が起こっているのかと、野次馬さん的な生徒さん、3大勢力さんたちのファンさんたちで溢れ返っている。
 クラス内のそれぞれのファンさんらしき方々は、喜び反面、戸惑い半分といったご様子だ。
 こうしている間にも、お昼休みは過ぎて行く。
 美山さんと作った、お弁当。
 今にも舌打ちしそうな、美山さんの険しいお顔。
 
 俺の沸点は、容易に上がった。


 「いけません…!!」


 教室内は勿論、廊下まで、ぴたっと静まり返ったのがわかった。
 わかったけれど、止められない。
 この5文字を口にしてしまったら最後、どうしても、止まらない。

 
 「皆さんがなぜか俺に用事があるのはよくわかりました…!ですが、用事があるからと言って、皆さんのように学校内で立場ある方々が簡単に俺の元へ出向いて来るとは、一体なにごとです?!ご自分のお立場は無論、今が何をする時間か、十分にわかった上での行動なんでしょうか?!どうなんです?!

 今はお昼休みでしょう?!お昼休みはですね、書いて字の如く、休息を取る時間なんですよ!!万人共に仕事や勉強や家事の手を止めて、休むべき時間帯なんですよ!!決してこのように騒ぐべき時間ではありません!!朝から根を詰めて頑張った、だから1度休憩して、また午後から頑張りましょうねと気力を養う、それは大切な大切な時間なんです!!

 その貴重な時間の間に、食事を取り、お茶を飲み、会話を交わしたり、軽くお昼寝したり、ゆったり過ごすのが本来あるべきお昼休みの姿!そうして午後からもう一踏ん張り頑張れる力にするんです!!それをあなた方は何ですか?!ご自身が騒ぎの元凶であるばかりか、新たな火種までも起こしていらっしゃる…!!ここにいらっしゃる生徒さんたち皆さんの平穏なお昼休みを取り上げようとしている!!午後から皆さんが十分に勉強したり、活動できなかったらどうなさるのですか?!責任を持てますか?!持てないでしょう?!
 生徒さんの代表たるあなた方ご自身も、無益な昼休みを送ったことで、午後から絶不調に陥るやも知れません、その覚悟はおありですか?!

 とにかく全員!ただちに!静かに!本来在るべき全うなお昼休みを過ごしなさい!!きちんと食事を頂き、十分な食後の休憩を取り、有意義な昼休みを過ごし!外の素敵な空気を吸うのも良いでしょう、手段を尽くして午後からまた笑って過ごせるように努めなさい!!お昼ごはん抜きや、午後のエスケープなど言語道断!!そんな子はウチの子じゃありません!!俺の目が黒い内は許しませんからね!!」
 
 
 ねーねーねー…と、最後の一言がエコーになって響き渡った後。


 「「「「「ごめんなさい」」」」」


 近くにいらっしゃる皆さんだけではない、把握できない程の多数の声が重なった。
 加えて、教室内外、揃って若干涙目。
 すぐに、襲われた。
 後悔と、羞恥と、自分の至らなさ、騒がしさへ対する、膨大なる反省の念に、全身苛まれた。
 お、俺ったら〜…!!
 過酷な4限の授業後、お腹が空いていることも手伝って、かなりヒートアップ…!!
 わー…わー!!
 
 「「「「「購買、行って来るねー…」」」」」
 出入り口付近で止まっていらっしゃったクラスの皆さんが、動き出したのが始まりだった。
 次にはっと我に返ったのは、廊下の野次馬さんたちで、クラス内を気にしながらも、あわあわと去って行かれた。
 それから、俺の周りも動き始めた。
 「「「「お母さん、うるさくしてごめんなさい」」」」
 しゅんとうなだれる武士道の皆に、呆然自失中ながら、弱々しくかぶりを振った。
 「「「「もううるさくしないから…ウチの子じゃないなんて言わないで」」」」
 う…!
 今にも泣きそうな必死な瞳に、胸が締めつけられて、覚醒した。
 「うん…わかってくれたなら…俺こそまたやっちゃった…ごめんね…?」
 「「「「お母さ〜ん…!」」」」
 
 わっと抱き合っていたら、横から服の端を掴まれた。
 「ゆーも、ごめんなさい…」
 「みーも、ごめんなさい…」
 「…おれ、おれ…ごめん、なさい。」
 「ばるぢゃんんん〜…ごめんなざいぃ〜」
 「「ゆーとみーたちと前陽大と、お昼ごはん食べたかっただけなの…」」
 しゅんとうなだれる生徒会の皆さんにも、胸を掴まれた。
 「大事なお昼休みに、俺のことを想い出してくださって光栄です。俺こそ騒いでしまってすみませんでした」
 
 うるーっと潤んだ瞳の皆さんと見つめ合っていたら、唯一、涙目じゃない渡久山先輩が、そっと息を吐かれた。
 「騒がしくして済まなかった、前君。事態を読む力が甘かった、風紀の過失だ」
 「…実に怖かった」
 「…貴君の威力を甘く見ていた」
 「「済まなかった」」
 渡久山先輩の側にいらっしゃる風紀さんたちにも謝られてしまって、軽く目眩を感じた。
 いっそ、倒れてしまいたい…
 「…いえ、俺のほうが1人で盛大に騒いでしまって、お詫びの仕様もございません…すみませんでした」
 
 どう収集したら、平穏なお昼休みは戻って来るのだろう。
 そんな疑問は、立ち直られた皆さんから、解決へ繋がる提案がなされた。
 「「「「お母さん、ここでお昼ごはん?」」」」と武士道。
 「う、うん…」
 「「食堂、行かない?」」と優月さんと満月さん。
 「は、はい…お弁当があるので…」
 「前君は本当に自炊を徹底しているんだな…持参の食事があるなら、移動は難しいね」と渡久山先輩。
 「え、ええ…すみません」

 ぽんと、皆さん、手を打たれた。

 「「「「じゃー総長も副長も呼んじゃうねー」」」」
 「「こーちゃんとりっちゃん、呼ぶねー」」
 「委員長を呼んだ方が話は早いな」

 …え?



 2010-12-04 22:53筆


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