34.なぜこんな所に!


 スーパーマーケットでの狩り、終了!
 あ〜…今日も良い収穫だった…!!
 お値段のお高さには正直、目ん玉飛び出そうなんだけれども、それでも一般の高級スーパーで買うよりは安くなっていると想う。
 食堂の卸し関連で、安く入荷、提供できるのだろうか。
 将来のためにも、食材業者や流通の情報もたっぷり仕入れておきたいところ、俺の夢とまったく懸け離れて見える「十八学園」は、その実、見たい知りたい聞きたいことだらけの魅力に溢れた素晴らしい学び舎だ。
 燃えますなぁ…
 燃えたぎりますなぁ…!

 「はると、結局今日は何カレー?」
 「いろいろ買ってたよね〜」
 線目になって狩りの充実と夢について燃えていたら、率先して荷物をたくさん抱えてくれている仁と一成が、ソワソワしながら聞いて来た。
 「内緒ですー!何カレーがいいって聞いてるのに、答えられなかった2人が悪いですー」
 「そりゃ決められるワケねーじゃんー」
 「え〜教えてよう〜」
 「ダメですー!自分で考えてくださいー」
 「どーせ手伝うんだからさー教えてくれたっていーじゃんー」
 「そ〜だよ〜教えてよう〜あ、でも俺、サラダはわかったっぽい〜」
 「残念でした!今日のカレーにサラダは付きませんー」
 
 わーわー、きゃっきゃと、3人でちいさな子供みたいにじゃれていると、「ホーム」にいた時間を想い出す。
 遠くない時間のことなのに、なんだか懐かしくて。
 夕暮れの街の中(作者注:れっきとした学園敷地内です)、俺たちから伸びる影法師も、楽しそうにふらふらと揺れて笑っている。
 この空気が、すこし切なくて、いつも通りの仁と一成と俺の3人で、嬉しくて。
 「ホーム」に通っていた頃も、3人で買い出しに出て、「今日のごはんは何?」ってはしゃぎながら街を歩いた。
 「ホーム」には武士道の他の皆がちゃんといて、俺たちの帰りを今か今かと待っていてくれたっけ…
 十八学園にも作ると言っていた、「ホーム」が早くできたらいいな。
 長期休みになったら、また、本家本元のにも遊びに行きたい。

 「「あぁ?」」

 そうそう、帰り道によくこんなふうに、他のチームの皆さんだか敵対している誰だかに出会(でくわ)して、途端に仁と一成が血相変えて威嚇してたなぁ。
 まったく2人はホントに喧嘩っぱやいんだから…って、え?!
 ここは街じゃない、学校内だ。
 ちょっとした感傷に浸っていた俺は、はっとなって現実を想い出し、顔を上げた。
 「こら!一体どなたさまに向かってそんな威嚇…」
 んん?!
 2人の服の袖を引っ張って、視線の先を追って、想わず目を見開いた。

 生徒会長さま…柾先輩だ!

 「あ?何だ、仁と一成…と、前陽大。夜逃げでもすんのか?すげえ荷物」
 今日も今日とて不敵に無敵に余裕に笑っておられる、その唇の片端にちいさなバンドエイドが張ってあって。
 まったくいつもと変わらないご様子だけれど、昼間にあった出来事はほんとうに起こったことだと改めて実感した。
 「うーわーサイアクー…今世紀最大に超不機嫌男とまさかこんな所で会うとは…どーするよ、一成」
 「マジ有り得ない〜…どーしましょ〜か、そーちょー?何で此所をうろついてんだか〜」
 心底イヤそうな顔をした2人に、会長さまはにやりと悪どく微笑った。
 壮絶な美形だけに、悪どい顔も際立って見える…というか、よくお似合いだ。

 「安心しろよ…『軽く運動して来た』から機嫌は良い」
 「「ガチでサイテー!お母さん、こんな男に近寄ったらダメ!!孕んじゃう!!」」
 行きましょ!っと2人に促されるまま、特にお話すべきこともないし、夕食の時間は迫っているし…ぺこりとお辞儀した。
 「今朝はお騒がせしてすみませんでした」
 「あ?あー、どーいたしまして?」
 「外傷にはこの万能軟膏、オロナインがお勧めです。携帯サイズですので差し上げます。学園をお騒がせしたお詫びに受け取って下さい」
 「「お、オロナイン…!!お、お母さん!!」」

 もそっとエコバッグから出した、いつも持ち歩いているいろいろセットの中からオロナインを取り出し、絶句する仁と一成の目の前で会長さまに手渡した。
 きょとんと目を見張られていた会長さまは、手の平に収まったチューブを見て、ぶはっと爆笑なさった。
 「オロナインって…!久し振りに見た…いつも持ち歩いてんのかよ?お前どんだけ!」
 「……オロナインを笑う者は天罰が下る……オロナインを制するものは世界を制する……」
 「何の呪詛だよ…!笑かすなよ、傷が痛ぇっつの…っとにマジ面白いな…」
 笑い続ける会長さまを放置して、帰路を辿るべく「もう行きます、お務めお疲れさまでした」と言ったら。

 「待て、前陽大」
 唇はまだ、面白そうな形を描いたまま、真摯な眼差しが俺を射抜いた。


 「凌の側に居てくれたんだってな。有り難うな」


 伸びて来たおおきな手が、くしゃくしゃっと俺の頭を撫でた。
 さっきまで単純に面白がっていただけの瞳が、もう、優しい光を宿して微笑っている。
 「……別に、会長さまには関係ありませんから」
 「まあな。けど、何となく?後、これもサンキュー。有り難く頂戴しとく」
 「……オロナインを馬鹿にする者は幸せになれない……」
 「してねえっつの、怖いっつの。礼代わりに1つ、カレーはオイスターソースとレモン果汁を隠し味に入れると美味い」
 「!!!別に、知ってます…」
 「そっか、そりゃ悪かった。じゃーな、仁も一成もまたな」
 「「一昨日来やがれ〜!昴のヘンタイ〜!!俺様バ会長〜!!」」
 カラカラ笑いながら、2人の悪口を物ともせず、会長さまはショッピングモールの方向へ去って行かれた。

 「「「何でカレーってわかったんだろう…?」」」
 


 2010-11-18 21:51筆


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