32.お母さんと武士道の絆


 道々に落ちている号外を拾いながら歩こうとしたら、目立つからダメって2人に止められて断念した。
 確かに下校途中の生徒さん方から、朝ほどではないにしろ、ちらちらっと視線を向けられている。
 今は大人しくしているしかないんだなぁ…
 「号外が出て、朝のはるるの記事、印象薄くなるかと想ったのにな〜ちえ〜だね〜」
 「その辺はヤツらも抜かりねぇよな〜ちゃっかり被せてやがるし…」
 辺りをぐるりと見渡す仁と一成に、生徒さんたちは視線が合うのを避けるように、それぞれ慌てたご様子で散らばってしまった。

 「こら!何もされてないのに、威嚇するんじゃありません!」
 「「え〜ちょっと見ただけだし〜」」
 「ちょっと見ただけで、皆さんがあんなに慌てるわけないでしょう!まったく…普通の顔を装ってすぐメンチ切るんだから…そんな悪い子は晩ごはん抜きですよ!」
 「「え…マジ嫌だし…ごめんなさいでした」」
 急に殊勝になる2人に「よし!」と頷きながら、晩ごはんどうしようかな〜と、冷蔵庫の中身を想い浮かべた。
 「ね〜これからどうする〜?俺らずっとフリーだよ〜」
 「一成、言い方間違ってる。はるとの為にフリーなんだろうが」
 「おっと、そうでした〜流石、仁〜」
 「ったりめぇだろーが」
 「そうなんだーじゃ、何が食べたい?」

 そう問いかけた途端、キラッと、2人の瞳が輝いた。
 「「カレーがいい」」
 おお、既に打ち合わせ済みだったのかな、即答だ。
 「4日目の再会にして、もうカレーいっちゃう?」
 「「うん、イッちゃう。カレーがいい」」
 「そう?じゃあ、今日はカレーにしよっかー!」
 「「わーい!!」」
 諸手を上げて喜ぶ2人が、なんだか微笑ましい。
 「何カレーがいいかな〜…って言うか、他の皆は?俺、カレーは『ホーム』が完成してからかなーと想ってたんだけど」
 「「他のヤツとか、どうでも良くね…?」」
 黒い笑みを浮かべる2人は、すこしも微笑ましくないし可愛くない。

 「こら!上に立つ仁と一成が他の子を蔑ろにしてどうしますか?!皆で仲よく『ホーム』を作ってるんじゃないの?仁と一成がここにいるのは、皆が頑張ってくれてるからじゃないの?あ、そっか…手伝いがてら、カレーの差し入れに、」
 「「要らない、要らない、絶対要らない!!」」
 血相を変えて否定する2人、怪しい…
 「何せ、まだイカ臭さが抜け……つか〜今日は『ホーム』作りしてる余裕ないから〜武士道皆、各地に散っちゃってっからね〜」
 「各部屋の補修が間に合っ…つか、アレだ。ほら、号外&号外で学園荒れてっから。俺らも自然にイロイロ忙しくなるじゃん?」
 怪しいなぁ…!

 「2人共、俺になんかいっぱい、隠してるよね…?」
 「「ぎくっ」」
 「そもそも、朝礼に出席してなかったらしいじゃん…?」
 「「ど、どこのどいつがそんな事…!!」」
 「こら!サボったのは皆でしょ?!そんな黒い顔をしない!」
 「「サボったつか…うーん…」」
 「お昼の『喧嘩道』にも皆揃って会場にいたよね?」
 「「………。」」
 「それで今は皆揃ってなくて、『ホーム』にもいないみたいで、仁と一成だけここにいる。誰だってどうしたのかなって想うよね?」
 「「………。」」
 急に黙りこくってしまった2人。
 
 「あのね、別に責めてるわけじゃないんだよ…?俺はこの学校に来たばっかりだし、皆には皆のいろんな事情があるだろうし。ずっと仲よくしてもらってるけれど、お互い知らないことはあるし、言いたくないこと、言えないことも当然あると想う。すべての手の内、心の内を明かすのが本物の友情とか、そんなふうには想わない。ただ、どうしたのかなって心配になるから、全部言ってくれなくていいから一言だけ、『言えない事情がある』って言ってもらえたら納得するから…。
 もちろん、何の事情も理由もなく単純にサボっただけ、怠けてるだけなら、全員漏れなくデコピン&晩ごはん1週間抜きです」

 「「全員漏れなくデコピン&晩メシ抜き…!!極刑…!!」」
 「当たり前です」
 さぁ、どうする?と2人を見上げたら、困ったように顔を見合わせてから、「あー…俺ぁ上手く言えそうにねーから、一成行け!」と仁が言って、一成がうーんと唸った。
 「はるる〜…俺らさ、はるるにまだ言ってない事があるんだけど〜」
 「うん?」
 「ちょっとね〜…俺らははるるに何も隠したくないんだけど〜まだ『上から』了解出てないから〜今すぐ言えないんだわ〜簡単に公にして良い事じゃないしね〜」
 「うん…」
 何やら俺が想像できない程、複雑な事情がありそうな雰囲気だ。
 いつもなんでもハッキリ言ってくれる、仁と一成がうんうん唸ってるだなんて、相当だ。
 唸りながら、でも、と一成が顔を上げて、まっすぐ俺を見つめた。


 「いつか、全部話すから。たぶん、近い内に…はるるも無関係じゃない事だから。
 ただね、約束は出来るよ。ね、仁」
 「おぉ?おおー」

 「「武士道は、はるとを守る。武士道は、はるとを裏切らない」」

 
 ゆっくりと傾き始めてる、春の日差し、放課後。
 金色と銀色の髪が、暖かな光に照らされて、とてもキレイだった。
 高い身長が生んだ影が、街路に更に高く長く伸びている。
 
 「うん…わかった。ありがとう。話し難いこと、話してくれて…俺も、これからもずっと、武士道の皆のことが大好きだから」
 「はるる〜皆じゃなくて良いよ〜俺だけで良いよ〜」
 「一成、バカか!副の分際で出しゃばるなっつの!それを言うなら俺だろーが」
 「喧嘩で勝負着いた事ねぇのに、副も何もあったもんじゃないよね〜」
 「あぁ…?!何だと、ゴラ…だったら今すぐ決着つけるか…?」
 「戦んのか、コラ」
 「上等だ、コラ」
 「はいはい、はいはい!!仁も一成も他の子たちも、皆、皆、平等に大好きなんだからケンカしないのー!それよりもカレーの具を考えなさい!今あなたたちが考えるべきことはカレーの具だけです!!」

 こんなふうに、じゃれ合いながら過ごす時間、ひとつひとつ大切にして行きたいなと想いながら、寮への帰り道を3人で歩いた。



 2010-11-14 23:16筆


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