31


 読む?って、一成に手渡された号外。
 中央に大きく3枚、渡久山先輩を中心に、柾先輩と宮成先輩の顔写真が載っている。
 「喧嘩道」が終わってすぐ刷り出され、配布された記事。
 いいのか悪いのか、新聞報道部さんはとても仕事が早いようだ。
 記事を読んでから、想わず呟いてしまった。
 「…もったいない…」
 「「何が?」」
 耳聡い2人には聞こえてしまったみたい。

 「いや、あのね、これだけ迅速に号外出せる力があるなら…こういう、生徒さんたちのプライベートなスクープじゃなくて、もっと和やかなニュースを発信したらいいのになぁって想ってね。これだけ巨大な学校なんだから、いくらでもプチハッピーな記事が書けるでしょうに…」

 そう言った途端、2人揃って爆笑された。
 「ぶはっ、そりゃそうだ!はるとならではの発想だな〜しっかし読んだ感想がソレ?!」
 「アハハ、はるるらしい〜!やっぱ、はるる来てくれて嬉しーわ〜好き好き〜!」
 ぎゅうっと抱きついてくる一成を、「廊下だっつの!」と仁が蹴る真似をした。
 そう、まだ廊下なんです。
 同じように号外を手にして、話題の中心はもっぱら柾先輩たちの他の皆さんも、すこし視線を向けてこられるぐらい、目立つ2人です。
 1年生の教室エリアに、先輩がいることが、そもそも違和感なのかも知れない。
 ちえ〜とムクれつつ俺から離れた一成は、ふと、素の表情になった。

 「皆が皆、はるるみたいにノンビリ平和主義だったら良いんだけどね〜ヒトはどーしても他人の失敗や弱味や恥や挫折を求めてしまうものでしょ〜そーやって安心するんじゃん〜?自分はこう成らない、自分は間違わない、自分は安全な所に居て良かった!自分はコイツより優れてる!などなど〜安心したいワケよ、皆。特に、こーゆー閉鎖された『上流』の世界ではね、お互いの足の引っ張り合いがヒドいもんなのさ〜」

 どこか大人びた一成の横顔が、ひとりぼっちに見えて。
 胸の辺りがぎゅっとなった。

 「ま、一成は大ゲサだけど。こーゆースキャンダルっつの?そういうのがウケるのは間違いねぇな〜昴みてーに、何書かれてもぜんっぜん気にしねー俺様だったら良いけど…凌も強いから立ち直るだろーけど、宮成センパイはどーだかねー…あのヒト打たれ弱いし、黙認部活動の記事だから親の目には触れねぇだろーけど、大変かもな〜」
 仁の指が、宮成先輩の写真をばちんっとはじいた。
 揺れる、ざら紙の号外。
 写真の先輩達は、三者三様の表情をなさっておられた。
 柾先輩は、写真の中でも不敵に口角を上げたお顔。
 渡久山先輩は、きりっとした隙のないお顔。
 宮成先輩は、口角の下がった不安そうなお顔。

 この粒子が粗い写真の中に、先輩方の本質が現れ出ているように感じた。

 
 号外で湧き立つ校内を抜けて、正面玄関から外へ出た。
 外も校内と同じく、号外に席巻されているようだった。
 あちらこちらに、くしゃくしゃになった号外が落ちている。
 キレイな学校なのに…哀しい。
 整った街路のあちこちに、桜の花びらにまみれて落ちている号外の光景は、それは物悲しいものだった。

 「掃除が、大変……」
 「ん〜?校内外含めた全敷地内、業者がたっくさん入ってっから、だいじょーぶだよ〜」
 「はるとが心配する事は何もねぇよ。気にすんな」
 2人にぽんぽんっと、あやすように頭を撫でられたけど、そういう問題じゃないと想う。
 ひっそりため息を吐きつつ、今朝、俺の記事が貼り出されていた掲示板までやって来た。
 想った通り、朝の記事は撤去、変わって号外が占拠していた。

 やれやれと見上げた掲示板に、目が点になった。


 『誰に向かって謝れって?
 ふざけんのも大概にしろや、新聞報道部。
 てめえらこそ、勝手にクリスマスの写真使ってんじゃねえ!
 肖像権侵害で億単位の訴訟起こしてやろうか、コラ。
 文句あんなら正面からかかって来いや。
 いつでもたっぷり可愛がってやるぜ?
 
 第100期生徒会長・柾 昴

 俺様と宮成先輩はマブダチだっつの』


 『昴、マジで早っ!
 いつ来てんだよ、最早怖いわ(笑)
 ちょっと〜昴の三角関係に、お母…前陽大を入れんなっつの!
 顔も出せねぇイ●ポ早漏集団に、誰が謝るかー!
 バーカ、バーカ!!
 落書上等、4649!!ヽ(◎・∀・◎)ノ 

 ――武士道、参上――

 PS.昴へ→マブダチって、古くね?今時言わなくね?』


 『昴も武士道もふざけ過ぎだが、貴様等新聞報道部は質が悪いにも程がある。
 風紀に謝罪を要求するとは良い度胸だ。
 アングラ気取った陰険集団が大きな顔をするな。
 いずれ貴様等の根城も素性も、風紀が明かしてみせる。
 覚悟しておけ。

 健全なる生徒諸君は、下らない記事等に踊らされず、淡々と勉学に励む様に。 

 第100期風紀委員長・日和佐 誉』


 「あ、そうそ〜さっき書いたんだよね〜文字と色の配置が難しくてさ〜パツ書きの割にはイイ出来じゃね?」
 「はると迎えに行く前に書いてさ〜なんだ、日和佐先輩も来てんじゃん。あの人も毎回律儀に参加してくるよな〜」
 「朝も早起きして書いたんだよ〜はるる、見てくれた〜?」
 「しっかし昴のヤツ、マジで毎回来るの早ぇんだよな〜暇人かっつの」

 ……この人たちは……。
 やれやれ…
 ほんとうに、やれやれ。



 2010-11-13 22:57筆


[ 194/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -