26.大きくて小さなワンコの遠吠え(1)


 こーちゃんが、怒ってる。
 朝から、ずっと、怒ってる。


 昨日まで、ふつうだった。
 夜、ひさしがふらふら来た時も、こーちゃんキレてたけど、いつもみたくみんなで許してあげた。
 中等部の頃みたいに、みんなでいっしょに寝た。
 たのしかった、な……
 なつかしかった。

 朝も、ふつうだった。
 こーちゃん、たまに、すごく早起きして、ひとりで、ジョギングしてる。
 りっちゃん、よく怒る。
 「ひとりで出歩くな!」って。
 でも、こーちゃんは気にしない。
 こーちゃんは、無敵だから。
 
 今朝もジョギングしてたみたいで、おれたちが起きた時、マジックを手に、ゴキゲンで帰ってきた。
 りっちゃん、カンカンだった。
 ゆーとみーとひさし、まだ眠そうだった。
 おれも、眠たかった。
 顔を洗って、みんなで、朝ごはんのルームサービスを注文した。
 こーちゃん、またひとりで飲みもの、買いに行こうとしたから、りっちゃんがまたキレて、2人で出て行った。

 それから、だ。

 こーちゃん、すごく怒って帰って来た。
 りっちゃんも、こーちゃんほどじゃなかったけど、シブい顔だった。
 なにがあったのか、おれたちにはわからない。
 (こーちゃんがセーブしてた、うぃーのまりおのすごい記録、ゆーとみーとひさしと4人で、勝手に遊んで消しちゃったこと、こわくて言えない……)
 ルームサービスの係のひとも、びっくりするぐらい、重い空気だった。

 こーちゃん、ずっと、怒ったまま。

 朝ごはんのあと、それぞれの部屋に戻って、用意して、みんなで朝礼の打ち合わせに行った。
 そこでやっと、理由みたいなものと、いろんなうわさが、わかった。


 風紀の、とくやま先輩と、みやなり先輩が、別れた。


 おれは、まだつき合ってたのかと、想った。
 とくやま先輩って、変わってる。
 よりによって、なんで、みやなり先輩なんかと?
 こんなにも、長いこと。
 こーちゃんにとっては、そういう問題じゃないらしい。
 りっちゃんにとっても、シブい顔になることらしい。
 おれには、よくわからない。

 みやなり先輩、きらいだ。

 こーちゃんの、前の生徒会長、でも、きらい。
 ぜったい、仲良くなれない。
 てきとーで、ひさしよりチャラチャラしてて、こーちゃんよりえらっそうで、とにかくイヤなひと。
 おれだけじゃない、みんな、きらってる。
 それで、こーちゃん、よけいに怒ってるみたいだ。

 でも、とくやま先輩と、みやなり先輩のこと、だから。
 おれたちに、関係ない。
 ふたりの問題だから。
 とくやま先輩は、すごくかしこいし、風紀委員長になるひとだ。
 それなのに、みやなり先輩を選んで、つき合ってた。
 どうなったって、自分の責任、と想う。
 
 それなのに、こーちゃん、怒ってる。
 ときどき、よくわからない。
 わからなくなることがあるよねって、ゆーとみーと言い合うことがある。
 (ひさしは生徒会にキョーミないから、なんにも気にしない)
 (こーちゃんが怒ってるのに、ひさしは気にしない)

 
 3大勢力は、いがみ合ってるんじゃないのか。


 学園のどこかで会うたび、お互い、威嚇し合ったりする。
 「喧嘩道」でも、ケンカしたことがある。
 「喧嘩道」じゃなくても、会えばケンカになる。
 「下界」におりた時も、会ったらケンカ。
 生徒会、風紀委員会、不良組、みんな、仲が悪い。

 悪いはずなのに、こーちゃんとりっちゃん、ひわさ先輩、とくやま先輩、かがのい先輩、なるせ先輩たちは、名前で呼び合ったりしてる。
 GPSで、お互いの位置を、つかんでいたりする。
 (それを利用してケンカすることはない)
 どうして?

 とくやま先輩のことなのに、怒って、みやなり先輩に「喧嘩道」を申しこんだこーちゃん。
 すごく、不思議だ。
 ゆーとみーは、「喧嘩道こそ男のロマン!」とか言って、すこしも疑問に想ってない。
 ひさしは、問題外。
 りっちゃんは、こーちゃんに呆れながらも、仕方がないって。
 おれには、よくわからない。


 こーちゃん、もしかして、とくやま先輩のことが、すきなのかな。


 よく、わからない。
 わからなくても、おれは、困らない。
 どうでもいい。

 どうでもいいから、はるとに、会いたい。
 金曜日に会っただけ、あとはぜんぜん、会えないまま。
 生徒会の仕事で忙しい。
 なのにこんな、おれには関係ない「喧嘩道」の、立ち会いにも呼び出される。
 こーちゃんの強いところ、見るの、好きだけど。
 本気で怒ってるこーちゃん、こわいから、いやだ。

 はるとに、会いたい。
 はるとに会ったら、安心できるのに。
 なにも言わなくても、はるとは待ってくれる。
 はるとが待ってくれるから、なにか言いたくなる。
 もっと、おれのことを、知って。
 もっと、はるとのこと、教えて。

 ケンカ、きらいじゃない。
 こーちゃんのお陰で、きらいじゃなくなった。
 でも、はるとの側がいい。
 はるとに会いたい。
 はるとのごはんが、食べたい。


 「さぁ〜いよいよ始まりますっ…!!『華の喧嘩道』記念すべき第700回戦は、なんとなんと、驚愕のエントリィィィ――!!新生徒会長が挑む、前生徒会長への早すぎる送辞…!!果たして、後輩へ返る答辞は如何にっ…?!深まる先輩後輩の絆の行方、大いに期待したい所だァァァ!!
 さて『華の喧嘩道』、提供は『いつも笑顔のハッピースクールライフ』十八嘉之理事長、『健全な学園生活は胃から始まる』学園食堂、『皆のアイドルは無敵ング!』生徒会、『学園の風紀を一心に守ります』風紀委員会、『男のロマン…?それはな、拳で語るのさ…』武士道、『誠心誠意、勝負』武道部連盟、『来れ!君こそ明日のヒーロー!!』スポーツ部連盟、『ベストBGMはSaki.Kに限るよね』放送部にてお送りします」

 
 ああ…
 こーちゃん、怒ってる。
 本気で、怒ってる。

 おれは、はるとに会いたい。




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