25.「喧嘩道」、勃発!


 終わりかけとは言えども食事の途中、しかし皆さんの動向も気になる。
 とりあえず、自分の取り皿の分は食べてしまおうと、浮かせかけた腰を落ち着けて、3口ほど残っていた野菜と、おにぎり半分を食べきった。
 その合間に、美山さんと音成さんは、凄まじい勢いで残っていたお弁当すべてを召し上がられた。
 「「ごちそうさまでした」」
 涼しい顔で平らげ、びしっと手を合わせるお2人さん。
 「あ、はい。たくさん召し上がってくださって、ありがとうございました」
 あまりの勢いに呆気に取られながらも、空っぽの重箱に俺は満足です。
 「はー美味かったー!よしっ!前も見に行こうぜー気になんだろ?『喧嘩道』」

 にこにこ音成さんのお言葉に頷いて、美山さんも一緒に教室を出た。
 道すがら(しかしものの見事にどのクラスも空っぽだ…)、音成さんに喧嘩道の説明を受けた。


 「一言で言うなら〜、男のロマンってやつ?」


 男のロマン…!!
 胸が騒ぐ…!!
 その一言で、すべてが許せてしまう…!!
 食事中でも、男のロマンならば致し方がない。
 就寝前でも、男のロマンならば致し方がない。
 「喧嘩道」という物騒なネーミングでも、男のロマンならば致し方がない。
 まるで魔法の呪文だ、「男のロマン」。
 内心で大いに盛り上がっている中、温かく説明してくださった音成さんに因ると。

 「喧嘩道」とは教職員黙認、3大勢力公認の下で行われる、生徒同士が拳を交えることで友情を深める、学校行事…
 と言うにはおこがましい、ちょっとしたイベントなのだそうだ。
 山中にある全寮制の学校、外界から閉鎖された世界で思春期を迎える生徒さん方は、何かと鬱屈したものを抱えてしまうもので、かつて、家柄や役職等を利用したあらゆる暴力行為が、影日向問わず絶えなかったのだそうだ。
 加害者に注意しようにも家柄を盾に上手く逃げられ、被害者は泣き寝入りするばかり。
 教職員の方々、3大勢力がどう手を尽くしても、被害は止まなかった。
 
 荒廃して行く学校を変えたのは、柾先輩を筆頭に立ち上がった、現在の3大勢力の皆さまと、それに賛同した十左近先輩と所古先輩。
 皆さまがまだ中等部の頃、皆さまの立案で「喧嘩道」が制定された。
 公然と、生徒間の暴力を認めるというものだ。
 但し、勿論大怪我に繋がる事態を避けるべく、細かい規約がしっかり決められているそうだ。
 武道の心得がある者は、明らかに実力差がある素人には挑まないこと(心得のある者同士であれば、道場で試合の形が取られるそうだ)。
 武器や薬物、危険を及ぼすアクセサリーなど一切使用不可。
 急所は外すのが礼儀、頼りは己の拳のみ、心が折れた方が負け…などなど。

 立ち会いには、「喧嘩道」主催の所古先輩が代表を務める「喧嘩道部」、運動部主将(特に武道系)、3大勢力のいずれか2派、一般の見物生徒さん方。 
 ただの血気を晴らすものか、諍いか、日頃の鬱憤か、友情を確かめたいのか…
 理由はそれぞれにあれど、拳を交え、決着が着いた段階で過去のすべてを男らしく水に流すこと、勝者も敗者も互いを尊重し認めることが「喧嘩道」の示す道。
 道を違えることがないよう、「喧嘩道」が本気の憎み合いに発展しないよう、立ち会い人が多数存在するのだとか。

 参加希望者は自由にエントリー可能だけれど、事前に厳しく審査され、規約に従って責任を持つことを承諾する、誓約書を提出することが義務づけられる。
 また、対戦希望相手が辞退を申し出た場合、3大勢力か諸先輩方から相手を選ぶことができるのだとか…
 対戦できない鬱憤が暴発することを防ぐ為らしい(それを選択なさる御方は果たしておられるのだろうか…?武士道は皆強いし…)。

 この「喧嘩道」の設立時、考案当初は多数の反対を受けたようだ。
 ものは試しと実行したところ、見る間に酷い被害が減り、学校の雰囲気が明るく戻り始めたことで学校黙認となったらしい。
 1度拳を交えた男と男の友情は、とても堅固なものになる…うんうん、男とはそういうもの也!!
 また、自分では今まで気づかなくてその気がなくても、「喧嘩道」で見こみがある、筋がいいと認められた生徒さんは、運動部へ勧誘され入部することも珍しくないそうだ。
 運動部の活性化にも繋がっている、人間関係円滑化にも貢献している、見物人にも良い刺激がある、学校は明るく盛り上がる…

 今や、「華の喧嘩道」は十八学園にとって欠かせない、名物行事のひとつ。
 しかし、内容が内容だけに、あまり声高には語られていない。
 だから十八さんも何も仰らなかったし、学校案内にも、各委員会&部活動のしおりにも載っていなかったのだろう。 
 「喧嘩道」のあらましがわかって、これぞまさに男のロマン…!!
 と、湧き立つ気持ちとは別に、ふわぁっと疑問が浮かんだ。
 

 何故、柾先輩と、みやなり先輩が…?

 柾先輩が朝礼の時、険しいお顔で先輩を見つめておられたのは、「喧嘩道」を控えておられたから?
 お2人が拳を交えわかり合いたいこと…それは、やっぱり渡久山先輩のことなんだろうか。
 

 海に漂うクラゲのように、浮遊する疑問と共に、生徒さんが大勢集まっている場所へ着いた。
 渡り廊下のガラス窓が、すべて全開にされて、皆さまそこから身を乗り出さんばかりに下を見つめておられた。
 「お、合原達いた!前、あっち行こうぜ」
 「あ、はい」
 「てめぇは…『喧嘩道』とか物騒なん、イケんのかよ…?結構血なまぐさいぜ」
 クラスの皆さまがいらっしゃる場所へ向かいながら、美山さんが俺の腕を引いた。
 「だいじょうぶです!男のロマンですから!!」
 「……あ?」
 「喧嘩なら、『武士道』で慣れてますからね!……美山さん…男には戦うべき時がありますよね、どうしても……」
 「ぶはっ…!前、入っちゃってんなー今回は生徒会ちょーだからな、あの人マジ強ぇし容赦ないから、元会長かなりヤバいかもよー」
 「そうなんですか!」
 
 柾先輩って、強いんだ…?
 見かけ倒しじゃなく?
 などと、失礼なことを想いつつ、合原さんたちの側へたどり着いたところで、一際盛大な歓声が響き渡った。



 2010-11-06 23:59筆


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