24.皆で仲良くお弁当ターイム!が…
約10分後。
風のように次々と舞い戻って来られた皆さんと、教室で初めてのお昼ごはん。
中学の時みたいに、机を集めて固まったほうがいいかなと想ったけれど、食堂に行かれた方々に断りなく動かすのはよくないだろう。
俺と音成さんの席はそのままに、皆さん、めいめいで椅子を持って来られたり、近くの席へ座ることで落ち着いた。
いいお天気でよかった、窓から日差しがたっぷり入りこんでポカポカしている。
「では、皆さん、遠慮なくつまんでくださいね。いただきます」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
最初はそれぞれ、買って来られた購買のもの(それにしても多種多様だ…パンは本格的なベーカリーのものだし、お弁当はきれいな折詰だし…めちゃくちゃオリジナルっぽいけれど、おにぎりがあるのはちょっと和む…どれも市販されてないものばっかりなのがすごい)を召し上がっておられた。
皆さんの視線はお重箱へもじもじと注がれていたけれど、ただこういったお弁当が珍しいだけで、召し上がりたくはないのかな…
「美山さん、唐揚げはイケてますか?」
「……あぁ」
「美山さんの卵焼きも、おいしくできてますよ」
「……ハイ」
「おにぎりの具、苦手なものはありませんでした?」
「……(もぐもぐ、こっくり)」
「たこウィンナーばっかりじゃなくて、野菜もたっぷり召し上がれ」
「……ハイ」
だから、自然に、美山さんへ話しかけることが多くなってしまった。
もぐもぐ、もくもくと食べる美山さん、手もお口も止まる気配はない。
たくさん食べる人って、見ていて気持ちがいいから好きだ。
武士道のことを考えていっぱい作っちゃったけれど、美山さんがぺろっと平らげてくださりそうだなあ。
しかし、お弁当に唐揚げって、なんでこんなに嬉しくておいしいんだろう…
「あー…我慢できねー!前、俺も食っていい?」
唐揚げを頬張って、しあわせを噛みしめていたら、音成さんに声をかけられた。
「ええ、もちろん!どうぞ召し上がれ。あ、これ使ってくださいね」
「サンキュー!」
音成さんはどこか緊張した面持ちで、武士道用に持って来ていた、割り箸とプラスチックの取り皿を手にされた。
じいっと重箱を眺めて熟考した後、決意されたのだろう、唐揚げと卵焼きとたこウィンナーとポテトサラダとおかかチーズおにぎりをセレクト。
その成り行きを、何故か手もお口も止めて一心不乱に皆さまが見守る中、先ず、卵焼きをぱくり。
もぐもぐっと、2口程でごっくん。
「うっま……!この厚焼き卵、すっげ美味い…!!超ジューシーで濃いめの味がマジ美味いっ!」
大絶賛の感想に、想わず頬が緩んだ。
「ありがとうございますー!美山さんが焼いて下さったんですよー。厚焼き卵は高温で焼き上げると、ジューシーにおいしく仕上がるんですよー」
「唐揚げもうっま…!すっげしっかりした味で、冷めてんのにサクっとしてて美味いー!!たこウィンナーもこのサラダも美味い…このおにぎり、何?!こんな味、初めて食った…和風とチーズが合う!!」
「ありがとうございますー」
更に大絶賛の嵐にホクホクしていると、目の前に取り皿を突きつけられた。
「心春も食べるんだからねっ」
「合原さん、ええ、どうぞどうぞー」
「取ってよ!こんな風に食事した事なんかないんだからねっ」
つんっと横を向いて、相変わらずお皿を突きつけたままの合原さんに、ぽかんとなった。
「こんな風に食事した事なんかない」って…?!
「俺も」「僕も」と、他の皆さまからも次々と渡される取り皿。
まさか…
「もしかして皆さん、大勢で料理を取り分けたご経験がないのでしょうか…?」
俺の問いかけに、皆さん、にっこり。
「「「「「ない!」」」」」
なんとー!!
こんなところでもカルチャーショック!!
「あーそりゃそうだわ、俺は部活の関係でちょっとあるんだけどさービュッフェ形式や立食パーティーでも、給仕に取り分けて貰うのが当たり前だから。なー?」
音成さんの相槌に、皆さんにっこり。
「「「「「うん!」」」」」
なるほど…ご実家でお食事なさる時も、すべてきっちり、各自に配分された状態だったのだろうな。
それでだったんだ、皆さんがお重箱に視線を向けるだけだったのは。
買って来られた購買のものを、皆さん、すっかり召し上がっておられたので、一先ず軽く…と唐揚げと卵焼きとたこウィンナーを盛ってお渡しした。
「「「「「蛸、美味しいー!!」」」」」
「「「「「厚焼き、すごーい!!」」」」」
「「「「「鶏の揚げ物、最高!!」」」」」
おお…好評のようでよかった。
音成さんは野菜コーナーへまっしぐら、美味い美味いとにこにこしていらっしゃるし、美山さんは相変わらずもくもくと召し上がっておられる。
「皆で食べたら、いつものごはんも美味しくなりますね」
しみじみと呟いたら、ちいさく頷いて下さった皆さん、揃って線目になっておられた。
ごはんを美味しく感じられることって、すごく大切だ。
それを皆さんと共有できて、すごく嬉しい。
しあわせだなあと浸りながら、もっと食べたいと言ってくださった皆さんの取り皿に、次はおにぎりをのせようとして。
急に、廊下がざわつき始めたのを感じ、皆さんと一緒に振り返った。
パタパタと、廊下を駆ける生徒さんたち。
すこし眺めていたら、一定の方向へ向かっておられるようだった。
何かあったのだろうか?
何か連絡の放送でもあっただろうか?
そんな気配はなかった筈…いや、しあわせお弁当タイムに夢中で、気づかなかっただけ?
訝しく想っていたら。
「早く!」
「急ごう!」
「見逃してはならない!」
「く〜楽しみー!」
「新学期早々やってくれるよな!」
複数の生徒さんの話し声が、廊下を通り抜けて行った。
「喧嘩道が始まるぞっ!柾先輩と宮成先輩、新旧会長職の一騎打ちだ!!」
何…?!
確かに聞こえた、柾先輩と宮成先輩って、一騎打ちってどういうこと?!
「……本当だったんだ、あの噂……」
合原さんの呟きが聞こえた瞬間、一斉に席を立ち上がった皆さんの歓声が教室内に響いた。
2010-11-04 23:41筆[ 187/761 ][*prev] [next#]
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