5.副会長のまっ黒お腹の中身(1)
面倒極まりない。
通称「学園のアイドル・カッコ笑い」生徒会が何故、外部新入生の案内などというふざけた雑用をこなさねばならんのか。
「君達なら安心して任せられるから」だって?
いつもの如く人の好い笑顔を浮かべる理事長に、負けじと笑顔を返しつつ俺は、いや生徒会一同、腸が煮えくり返る思いだった。
入学式だの何だのでこのクソ忙しい時期に…!
そもそも、俺達の忙しさはあんたが一番わかってるだろうが!
しかし、理事長直々の「お願い」を無下にする事等、不可能だ。
渋々ながら(無論、表面上は笑って「喜んで!」)引き受けざるを得なかった。
しかし、雑用如きを全員でこなす必要はない。
因って、その(尊くも有り難迷惑に過ぎない信頼を盾に取られた)理事長勅命を全うするべき人材を決める為、常と同じく「ヤツ」特製のふざけたあみだクジが採用された。
当たりを引いた俺に、全員が向けて来たいやらしい黒い微笑…生涯忘れないだろう。
殺意が芽生えるのは当然の事だ。
てめぇら、後で覚えていろ。
この屈辱は必ず晴らしてみせるからな。
決まったものは仕方がない。
愚痴を言う趣味はない。
揃いも揃って不気味なまでの笑顔で送り出してくれた連中に中指を立てて、「俺達の楽園」を飛び出し、大人しく任務を遂行するべく、得意の「王子様」仮面を被って、指定された待ち合わせ場所へ赴いた。
外部新入生は、今年は唯一人。
幼等部からそのまま大学部まで自動で上がって行く、格式ある我らが学園だ。
外部の人間が高等部から入学して来る等、滅多にない事。
余程の文武両道の達人か、余程の家柄か、余程の容姿か…
だが、事前に入手した新入生の資料には、庶民且つ凡人の履歴しかなかった。
添付の写真も凡庸だ。
この国の何処にでも存在している、ありふれた容姿と頭脳の持ち主。
となると、裏口入学か?
どっと疲弊を感じながら、その凡人が現れるのを待った。
理事長から告げられていた、大体の到着時刻を過ぎても、凡人は中々現れなかった。
途中、何度も生徒会から卑猥な怪メールが送られてきた。
最終的には、「早く戻って来い」という本格的な怒りメールへと変化した。
イライラと腕時計を確認しながらメールは無視し続けた、そこへヤツは姿を見せた。
ぼけっと締まりなく呑気に歩いている、私服姿の凡人。
何だ、あの大量の荷物は…?
近づく程にわかった、写真で見るより小柄で凡庸な人間。
黒い髪、黒い瞳、彫りの浅い、ちいさな目鼻口。
一瞬後には忘れてしまう、人混みへ放り込めば簡単に埋もれる、そんな顔だ。
この学園においては、寧ろこの凡庸さが珍しく、奇妙に浮いてしまうかも知れん。
つまらない、人間。
第一印象は、これ以上でも以下でもなかった。
どうせこの場限りの雑用だ。
「学園のプリンス」の仮面を深く被ったまま、俺は黙して任務を遂行する事とした。
2010-03-24 13:15筆[ 19/761 ][*prev] [next#]
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