23.お待ちかね!お弁当ターイム!


 授業終了のチャイムが鳴って、ほっと一息。
 終わった…
 長かった、4限の授業がすべて終わった…!!
 わーい、お昼だー!!
 授業が終わるなり、皆さまそれぞれ楽しそうに、食堂へ行こうとお声をかけあっている。
 食堂もいいなぁ…今日の日替わりメニューはなんだろう?
 また近い内に行けたらいいな。

 「前…は、弁当持って来てんだっけ?」
 音成さんに声をかけられて、はいと頷いたところで、4限目も眠っていらっしゃった美山さんがのっそりやって来られた。
 ロッカーからお重箱を取り出し、机へ戻ったら。
 まだ教室に残っておられた皆さま、音成さんや近寄って来られた合原さんまで、目を点にして凝視。
 「弁当って…マジ弁当…?」
 合原さんの呟きに、はいと頷いたら、音成さんの瞳が急に輝き始めた。
 「もしかして前、作ったんか?」
 「はい。美山さんも手伝って下さったんですよー」

 「「「「「美山様と一緒に朝から弁当作り…?!」」」」」

 皆さんの大合唱に、想わず肩が震えた。
 ぽかーんと驚かれているご様子に、何か勘違いされているのではないかとオロオロした。
 「あの…そんな大したものでは…見かけはお重ですが、ごく普通のお弁当で…」
 「「「「「普通の弁当…!!」」」」」
 わぁ!
 音成さんばかりか、合原さんや他の皆さんまで、瞳が輝き始めた。
 やっぱり何か勘違いされているのでは…豪華なお料理はなにひとつ入っておりません。
 「え、ええと…唐揚げとかおにぎりとか卵焼きとか、そんな感じの…」
 う?!
 内容を説明すればする程、皆さんの瞳の輝きが増し、揃ってごくりと喉を鳴らされて。
 
 「「「「「見たい…」」」」」

 ちいさな呟きまで聞こえた!!
 今や俺の机の周りには、ちょっとした輪ができあがっていて、最初からいる皆さんの他、遠巻きだった皆さんも寄って来られている状態。
 そのクラスの過半数以上の視線を集めているのは、机の真ん中に置いた、頓田くんに渡した分、4段になった風呂敷包みのお重箱。
 「…ええと、ええと…そんなに大したものではなく、お見せするものではないのですが…じゃ、じゃあ、ご覧になられますか…?」
 まさかそんな、普通のお弁当の鑑賞会なんて有り得ないだろうと、なんちゃってーぐらいの気持ちで控え目に言ったら。

 「「「「「……ウン。見る」」」」」

 み、見るんですか…!!
 しかも何故、皆さまの瞳がどんどん輝きを増して行くのか…!!

 「で、では…大変恐縮ではありますが…」
 固唾を呑んで見守る皆さまの前、緊張して震えそうな手で風呂敷を解いた。
 俺の一挙一動を食い入るように眺める、眼球以外は微動だにしない皆さま。
 静まり返った教室内。
 廊下はお昼休みの喧噪で騒がしいのに、隣のクラスからもにぎやかな話し声が聞こえるのに、この1年A組だけは静謐に包まれている。
 どうしてこうなったんだろう…
 疑問に想いながら、お重箱の蓋を開け、1段ずつ机の上に並べた。

 
 「「「「「すっげぇ…これが普通の弁当…!!」」」」」

 
 なんと…
 皆さまの瞳の輝きは褪せるどころか、益々キラキラし、1品1品を食い入るように見つめていらっしゃる。

 「すっげー何コレ、何コレ!?」
 お1人さまが、たこウィンナーに注目し、視線が一気に集中した。
 「ええと…それはたこさんウィンナーで…ウィンナーに切れ目を入れて焼いただけのものなのですが、お弁当には欠かさず入れてしまいます…」
 「「「「「蛸…!すげぇ…!!」」」」」
 えええー…?!
 知らないの?!
 お弁当と言えば、たこウィンナーじゃないの?!
 定番は人それぞれ違えど、こんなポピュラーな名品をご存知ないとは、これ如何に。
 いや、待てよ、そうか…


 「皆さま、もしかしなくても、普通のお弁当をご存知ないのでしょうか…?」


 「「「「「ウン。初めて見た!」」」」」


 やっぱり…!!
 だからこんなにも注目されているんだ〜納得!
 十八学園の皆さまは、裕福なご家庭の御方ばかりだそうだから、幼少時より美しいお料理に親しんで来られているのだろう。
 お弁当も料亭特製の美しいものか、本式のピクニックスタイルに馴染んでいらっしゃるに違いない。
 そう言えば、食堂にも庶民的なお料理はほとんどないようだった。
 そりゃあたこウィンナーをご存知ないのも無理はない。
 納得しました。
 あれ、でも武士道の皆や、昨日の柾先輩は疑問なく召し上がっておられたっけ…?
 「下界」によく降りるから、ってやつなのかなぁ?

 「タコもおにぎりも、全部マジ美味そー!」
 音成さんの歓声に、皆さま、はっとなられた。
 「良かったら、たくさんあるので召し上がられますか?」
 そう問いかけると、更に皆さま、はっとなられた。
 「マジで!良いの?!」
 「はい、ご遠慮なくー」
 「じゃ、もらおっかなー…あ、でも、ちょっと待ってて!それ、前と美山のだもんな。あんまり食っちゃ悪いし、俺、購買ダッシュって何か買って来るから!!」
 そう言うなり、ほんとうにダッシュで教室を駆け抜けて行った音成さん。

 凄まじい風の勢いに、ぼんやりしながら見送っていたら。
 「心春も食べるし!!購買行って来るし!!まだ食べちゃダメなんだからねっ」
 「「心春様、待って〜ご一緒しますっ」」
 わぁ、合原さんとそのお友だちもダッシュで去ってしまわれた。
 残ったクラスメイトさんは、もじもじ、ちらっと俺の様子を伺っておられる。
 皆さま、まだお家に迎えたばかりで馴れていない、けれど甘えたがりの子犬さんみたいで、とっても微笑ましくて笑った。
 「皆さまもいかがですか?」
 「「「「「!!食べるっ!!購買行って来る〜!!」」」」」

 おおっ、集団ダッシュの勢いは格別だ。
 廊下で他の生徒さんにぶつかりませんように…
 とりあえずお重箱を元通り仕舞い、まだ眠たいのか、憮然とした表情の美山さんと皆さんの帰りを待つことにした。
 「……競争率、高ぇ……今日は喧嘩道あるけど、明日から想いやられる……」
 「???美山さん、何か仰いました?」
 「……いや、別に……」



 2010-11-02 09:45筆


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