22.お母さん、皆を拝む
グラウンドからクラスへ戻り、それからはあっと言う間に時間が過ぎて、3限までとんとんと終了。
授業と授業の合間にある休憩時間の度、クラスの皆さんや廊下を通る生徒さんの話題は、柾先輩のことと、ちょっとだけ、今朝の新聞記事のこと。
…だった、みたいだ。
俺は、それどころじゃなかった。
隣が音成さんで、ほんとうに良かった…!
授業がいきなりハイレベル過ぎて、四苦八苦。
「つ、次が終わったら、やっとお昼休み…!」
がっくりと机に撃沈する俺に、音成さんはカラカラと笑っていらっしゃる。
「どこが理解できてないかわかってんだから、だいじょーぶだろー。つか、外部生の試験って特別難しいって聞くし、それパスして来てんだから何とかなるさー」
3限の科目だった英語の教科書を仕舞い、4限の準備を鼻歌混じりで始める音成さん。
音成さんはとっても賢くて成績優秀のようだ。
休憩の度、わからなかった箇所を尋ねると、的確に教えてくださった。
教え方もすごく上手い、頼もしいお隣の音成さん。
見倣って、机から起き上がり、4限の準備をしながらため息。
「入試はほんとう死ぬ気で頑張ったんですよー…元々の学力が低いものですからー…あああ、これから先が想いやられるー…」
「へえ!そうまでしてウチに入りたかったんだ?」
十八さんと、家族になりたかったんです。
それだけのシンプルな想いなんです。
伝えられない事情は呑み込んで、曖昧に笑った。
「入学して、想像以上に広くてキレイな学校だったのと、ハイレベルな授業内容にびっくりしています…」
「ドンマイ、ドンマイ!1年が勝負だからなーま、わかんねー事あったらいつでも聞けよ」
音成さん、あなたは神様ですか…?!
「ありがとうございますー…!!頼りにしております!!」
いつもよりもキラキラ、キラキラ、笑顔が眩しく輝いておられるっ!!
想わず拝む態勢を取ったところで、合原さんがツカツカやって来るなり、一言。
「文系なら、音成様より心春の方が得意なんだからねっ」
「あ、そうそ。俺、基本は理数系なんだわ」
「そうなんですか…!合原さんも、ありがとうございますー…!!」
ああ、お2人共、神々しくて眩しいっ!!
「因に、あっちでずっと寝てる美山は、確か社会系が得意なんじゃね」
なんと…4限ぶっ通しで寝ていらっしゃる、ある意味勇者・美山さんは、社会派…!!
美山さんにも拝む態勢で、今後共どうぞよろしくお願いしますと祈った。
皆さま、普段から光輝く容姿とオーラの持ち主さまですが…かつてなく輝いておられますっ!!
なんて心強い…優しいクラスメイトさんに恵まれて、俺は果報者です。
神さまの采配に感謝!!
ハイレベルな授業は、正直辛いけど…頑張ります!!
「おか〜さ〜ん!……って、ナニ拝んでんの…?」
ん?
後ろの扉から呼ばれたと想ったら、武士道の幹部の1人、頓田くんだった。
ちょっと失礼しますと、音成さん達に声をかけてから、小走りで近寄った。
「あれ、どうしたの?ひとり?俺はちょっと、クラスの神さまたちに感謝の祈りを、ね」
「は???クラスの神様たち?」
「もうねー…授業がハイレベルで、いきなりついて行けなくなりそうで…心細かったんだけど、クラスの皆さんが優しい御方ばかりだったから…それに、頓田くんの顔を見たら安心しちゃった!皆は?俺に何か用?」
「あー、ウチのガッコ、ハイスピードだもんねーお母さん、そんなに心配しないで!俺らがついてるよっ!そーちょーも副長も賢いし、俺らも優秀だよ?しかも、お母さんより1コ先輩だし!お母さんと同学の連中も居るし、ちゃんと教えてあげられるよ!」
神さま…!!
武士道は、天使の集まりなんですね?!
「ありがとう…!!うれしいっ…すっごく助かる!!」
「わーお母さんったら〜!ハグは武士道内じゃないとダメだってばぁ〜嬉しいけど〜そーちょー達に知られたら、俺ボコられちゃうよー良いけど、別に!」
想わず抱きついたら、にっこりにこにこ、やんわりはがされた。
俺ったら、うっかり!
はっ!
クラスの皆さんや、廊下の生徒さんが、なにごとかと目を丸くしていらっしゃるではないか!
目立っちゃった…かな…?
頓田くんはにっこりにこにこのまんま、周りをちらっと見渡した、その途端、不思議なことに皆さま視線を逸らして、それぞれの会話へ戻られた。
この子(先輩だったけれど)、昔からこういう特殊能力があるんだったっけ。
仁や一成がすると、空気そのものを凍らせるけど、頓田くんがすると元通りに戻る。
武士道は不思議な能力保持者の集団だ。
「お母さん、はいっ」
「え?」
「そーちょーから差し入れでーす!『十八学園の幻・川田さんチの夢見るいちごと山田さんチのほのぼの牛乳使用・ストロベリーシェイク』、あげるね」
「ま、幻…?!」
シンプルなパッケージの、プラスチックカップでできた飲み物。
これってまさか、田中さん…じゃない、田中校長先生と会った時にお聞きした、お勧めプレミアドリンクのひとつでは?!
こんなに早くお目にかかろうとは…感激です!!
「どうもありがとう…!うれしい…仁によろしく言っておいてね」
「うん!それでー、コレと引き換えに、唐揚げをください」
ぺこりと一礼して、両手を差し出してくる頓田くん。
「ああ、お弁当の唐揚げだよね?ちゃんとたくさん用意してるよーでも、何故今…?……まさか、皆で早弁するつもりじゃないでしょうね…?」
デコピンの用意をしながら問いかけると、頓田くんは青ざめながら、違う違うと盛大に首を振った。
「ホントは〜お昼休みもお母さんと一緒するつもりだったんだけどー…俺ら急用ができちゃって、そーちょーも副長も忙しいし、だから俺がお使いに来たんだーちゃんとお昼に食べるよ!皆、すっげ楽しみにしてるけど、そこはちゃんと守るよ!!」
「へえ…皆忙しいんだ〜…それは残念」
お昼もまた、わいわいと食べるのかと想っていた。
でも確かに、武士道の皆ほとんどが俺より先輩だったようだし、いろいろ都合もあるだろう。
毎日約束しているわけじゃないし。
ちょっと、寂しいけれど。
と想っていたら、頭に頓田くんの手が触れた。
「お母さん、ごめんね。明日は一緒にお昼しようね?今晩はまたそーちょー達と押しかけるからね!」
一生懸命、慰めるように言ってくれて、髪を撫でてくれる頓田くんに、笑って頷いてロッカーへ向かった。
「はい、これが武士道の分。皆で仲良く分けて食べてね!ちゃんとお昼休みに、ね?」
「わーい、やったー!!ありがとー、お母さん!!」
「今日のもおいしくできたよー」
「わーい!!」
そこでちょうど、予鈴がなった。
「んじゃ俺、もう行くね。また放課後ね、お母さん」
「うん!わざわざ取りに来てくれてありがとう。ジュースも、ありがとうね!気をつけて、ちゃんと前見て歩くんですよ?」
「はーい!……てめぇら、いつまでもガン見てんじゃねーよっ!!邪魔だ、退けゴラ!!……じゃあね〜お母さん、バイビー」
「こら!周りの人を威嚇しない!あぁ、あぁ、よそ見しないでちゃんと歩く!」
「はぁい!」
姿が見えなくなるまで、頓田くんがやんちゃしないか、転んだりしないか、心配で見守った。
廊下の角を曲がったところで一息吐き、クラスを振り返って、びっくりした。
「?!皆さん、どうされました…?!」
「「「「「………」」」」」
クラス中、ぽかーんと静止しておられる。
一体、なにごと?!
「はははっ!やっぱ前、超大物な!」
音成さんは爆笑しておられる。
「『あの』頓田先輩が、武士道以外であんなに…」
合原さんは、呆然と何か呟いておられる。
なんだろう???
首を傾げたところで、本鈴と共に先生が入って来られたので、疑問はそのままに慌てて席へ駆け戻った。
2010-11-01-23:13筆[ 185/761 ][*prev] [next#]
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