20.誰も知らない仲良しな2人(1)


 それからどうやって、朝礼が進んだのか。
 気づいたら、いつの間にか終わっていた。
 1年生から退場するようにとのアナウンスが流れ、ぼうっとしている俺を美山さんが小突き、音成さんや合原さんもやって来て、連れ立ってクラスへ戻った。
 そこかしこから、柾先輩を筆頭に3大勢力や、前任の先輩方へ対する華やかな噂話が聞こえる。
 そんな中、俺を見咎めたお声もちらほら聞こえた。

 「…アレがほら、今朝の新聞の…」
 「…えー、あの子が…?!」
 「…超!庶民ってカンジ…」
 「…前って家柄、聞いた事ない…」
 「…美山様達と一緒に歩くだなんて何様…」
 「…1年A組のメンツ、やべー…」

 ひそやかなざわめき。
 四方八方から向けられる、好奇の視線。
 「前、気にすんな」
 美山さんが一言、ぼそっと声をかけてくださった。
 「はい、気にしてませんよー」
 「空元気なんて気持ち悪いだけなんだからねっ」
 合原さんがくるっと振り向かれた。
 「ほんとうに大丈夫ですよー」
 笑ったら、音成さんも笑ってくださった。
 「お、強いなー前!その調子、その調子!」
 
 だって、話題の中心は、もっぱら柾先輩だったから。
 柾先輩があんなふうじゃなかったら、もしかしたら、もっとすごく噂されてたのかも知れないな…
 先輩が放った毒は強力で、ご挨拶で舞台に姿を見せていたのは僅かな時間だったにも関わらず、朝礼が終わって尚、生徒さんたちの中に新鮮に残っている。
 いろいろな意味ですごい御方だ。
 高校に上がると、いろいろな御方がいるものだなぁ…
 中学の比ではありませんね。
 3年間でいくつのご縁があるか、今日からほんとう楽しみです。

 「1限から数学だーダリぃなー」
 音成さんの呟きに、美山さんと合原さんが無言で、短くこくっと頷かれたのがおかしくて笑った。



 「――…柾君、ちょっと」
 「はーい。じゃ、ちょっと行って来らぁ」

 朝礼終了後、舞台裏はちょっとした修羅場と化していた。
 原因は、1人しか居ない。
 大量の媚薬にも似た毒をまき散らし、生徒達を煽るだけ煽って、袖に引っ込むなり凶悪な不機嫌を醸し出し無言になった、新生徒会長。
 触れたら火傷どころか、斬り捨てられ兼ねない、不穏極まりない冷酷な雰囲気に、お馴染みの生徒会メンバーすら手を出せず、遠巻きに見守るばかりだった。

 そこへ、天の助け、登場。
 引きつったお顔の十八理事長に呼ばれ、棒読みで応えた後、気怠そうに歩き、その様子を理事長本人から険しく注意されながら去って行った。
 行き先は恐らく、理事長室。
 相当お説教されるのだろうと、残された生徒、職員達は線目で見送るしかなかった。

 「宮成…?どうした、その手…真っ赤じゃん」
 「あぁ…大丈夫だ」

 理事長と昴の後ろ姿を誰もが見送っていた、その輪から外れた所、握手された手を労りながら、青ざめた表情の元生徒会長が呆然と立って居た、それを知る者は殆どいなかった。



 さて、理事長室に着いた2人は。

 「昴君〜〜…!頼むよ〜今朝から胃が縮みまくりだよー!」
 「すみません、理事長。胃の不調にはペリエ等の天然炭酸水、若しくはグレープフルーツがお勧めです。もっと労りたい場合は、温めすぎないホットミルク、冷たすぎないヨーグルト等、日常的にはキャベツを摂取すると良いでしょう。過度に労るばかりではなく栄養も必要なので、たまには南瓜やレバー等も摂ると良いです」
 「もう…もう〜そうじゃなくて〜!!昴君の所為じゃんー!」
 「だからすみませんって。予告はしたでしょう、予告は」
 「こんな大事(おおごと)を引き起こすとは、誰も想わないよ!予告したら何しても良いって訳じゃないでしょ!」

 「はいはい、すみませんでした。で、お茶は胃を労る系にします?」
 「『はい』は1回!!お茶はカプチーノ!!」
 「はい」
 「えええ〜!そこは『はーい』って返事してくれないと!それから僕が『はいは伸ばさない!』ってツッコミたいじゃん…」
 「ションボリしないで下さいー。俺ももう高2なんで、いつまでもノリませんー」
 「うう…月日は百代の過客也…」
 「理事長〜牛乳がない〜」
 「え、あるよぅ〜!奥の奥にない?切らしてない筈〜」




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