18.金いろ狼ちゃんの武士道(2)
「わ〜お、昴のヤツ、吠えてら〜」
「「「「すっげ…ここまで響いてる」」」」
プラプラ、競技場の周りにあるちょっとした森をほっつき歩いてたら、昴らしき怒鳴り声が響いて来た。
ぴりっと空気が震えた、たぶん、現場はもっとやべーんじゃね?
一成以下、ぴゅ〜っと口笛を吹く様に、俺も便乗しといた。
「わ〜お、マジ機嫌悪ぃな〜昴」
マジ、わ〜おってカンジ。
武士道が誇るチーム1番のデビル様一成様々が、にやりと、嘲笑った。
「アノ噂、ガチっぽいね〜え?そーちょー、俺、見学に行きたぁい!」
「「「「俺達も行きたぁい!」」」」
揃って甘えて来たヤツらに、ため息が出る。
やれやれ…ウチのヤツらはトラブル好きのケンカ好きだからね〜…
ま、俺は当然、ハナから見学するつもり・おこぼれがあったらすかさずありつくつもり・おこぼれなくても混乱に乗じて1発、2発、3発入れるつもり、だけどさー。
「しょうがねぇなぁ…程々に見学するんだぞー?」
「「「「「ウン!わぁい、やったぁ!」」」」」
「昴のヤツ、俺等が堂々参戦したら益々手ぇつけらんなくなるから、陰でこっそりと、な…?」
「「「「「はぁい!……ふっふ、マジたぎるわ…」」」」」
全員で黒く笑った所で、ふと気づいた。
「そういや、はるとは朝礼に出てんだよな?」
「はるるが出ないワケないじゃ〜ん、ナニ言っちゃってんの、仁〜コーフンし過ぎて頭沸いてんじゃね〜?」
「「「「そーちょー、起(お)っきしちゃったの?」」」」
アホか!と、まとめて全員蹴り倒しながら(一成だけは避けやがった…ちっ)、またもやれやれ…と想った。
「俺が言いてーのは、当然出席してるだろーけど、はるとはまだ昴の事よく知らねーだろーが。1年A組は舞台前、最前列の中央に並ぶだろ。超絶機嫌悪ぃ昴を真っ正面から見たら、慣れてねーんだ、びっくりすんじゃねっつってんだよ」
「「「「なるほどー…!流石、総長!」」」」
パチパチ拍手した後、急にはるとは大丈夫だろうかとソワソワし始める連中、まったく呑気なもんだぜ…んな所も気に入ってる仲間だが…
「けど全部、宮成(元)バ会長が悪い」
一成だけは、冷静だった。
冷ややかな暗い眼差しで森の中を見据えて、まるで其処にヤツが居るかの様に唇を歪めた。
「凌もバカだ。誰が止めても聞かなかった、『昴が説得しても』、だったよね…?今更過去をほじくっても仕方ねぇけど?宮成は凌よりもっと馬鹿じゃん。『俺等』が、昴が居るのに、ナニしてくれちゃってんのって話でしょ。馬鹿には天誅が下んだよ、俺等の前でヤツは調子に乗り過ぎた…昴はまだ抑えてる方じゃん。アレ位で済んでんのが奇跡っしょ。
はるるは〜大丈夫だよ〜武士道に引っ付いてましたからね〜あのコ、勘がよろしいから何か勘付くかもだけど〜『まだ』、大丈夫さ〜俺等のお母さんは強いのだ〜!」
「「「「おー!強いのだ〜!」」」」
「今日は唐揚げなのだ〜!」
「「「「唐揚げなのだ〜!」」」」
後半ワケわかんねーノリになった連中に、笑うしかなかった。
はるとなら、大丈夫か…
あいつは心が強いってわかってるけど、どーも過保護に心配しちまうのが、俺の悪いクセなんだよな。
やれやれ。
3度目のやれやれに苛まれていた時、「お母さんの唐揚げ讃歌/作詞作曲:DEVIL Kazunari」を合唱しながら行進していた連中の、浮かれた足取りがぴたっと止まった。
一成の空気が変わった、その視線を追って、俺も想わず舌打ちした。
「おやおや〜?これはこれは…一舎君じゃないですか〜?どちらへお出かけなの〜?朝礼はサボタージュかな〜?それとも、迷子の子猫ちゃんかな〜?」
一舎祐、こんな所で何してる…?
「武士道の先輩方じゃナイデスカー!先輩達こそどうして…はっ、まさかこれからカワイコちゃんをハントして森の中へ連れ込んで輪姦そうってんじゃあナイデショウネ…!!萌え…!!まさにそれでこそ不良組…!!いや、とっくに実は森の小屋の中へ拉致監禁、めくるめく萌えぇ調教中っ…?!『やめてやめて、お願いっ、もうやめてぇっ…』『ふっ…上のお口と下のお口が別行動だぜ…?いい加減素直になんねぇと、お前が欲しいコレ、お預けしちゃおっかな〜…?』『いやいや…もうやめてぇっ…ダメ、挿れないでぇっ〜…いやぁ〜抜いてえぇっ…』ハァハァ、萌え過ぎるダローがぁっ…!!」
相変わらず、気味が悪いヤツ。
けど、誰も反応せず、構えたまんまだった。
コイツが何を仕掛けて来てもいい様に。
公表してる趣味なんざどうでも良い。
その趣味を盾にして、何か企んでいそうな、得体の知れないワケわかんねー薄気味悪さに、長年油断した事がない。
相当場数を踏んで来た、昴が警戒を解いてない。
答えはそれで十分だ。
「ナンデスカー?そんな怖いお顔、為さらないで下さいヨー妄想に害はないデショー」
現に、俺等が睨んでいるのに、ヤツはへらりと余裕で笑っている。
傷付けるのも、傷付くのも、意に介さない愉快犯―……
コイツを介して被害が出た事はないが、未来はわからない。
「……マジ、ムカつくわ、お前……」
一成の低い呟きが聞こえ、わ〜おと想った瞬間、クソ呑気な声が聞こえた。
「おーい!武士道ー!」
「「「「「「っげ…所古先輩……」」」」」」
にっこにこ、にっこにこ、上機嫌で走り寄って来た所古先輩に、気が削がれた。
先輩が近寄って来た、その隙にいつの間にか、一舎の姿は消え失せていた。
物音ひとつ立てずに消える、逃げ足の早さも気色悪ぃ…胸クソ悪ぃ。
「所古先輩〜」
苦情を申し立てようとした一成に、先輩はにこにこしたまま。
俺等を見渡してから、ぽんぽんっと気安く一成の頭を撫でた。
当然、一成は心底イヤそうに払い除けている。
「気を付けなァ!お前等武士道でも、一舎とこんな暗がりで対局は良くないねェ…御利用は計画的に!喧嘩道をヨロシクゥ!押忍ゥ!」
「「「「「「………。」」」」」」
ウィンクまでして来た…ウザっ……
「荒れてるねェ、3大勢力!よっ!ひゅーひゅー!」
今度は囃し立てて来た…マジ、ウザっ……
何もかもどうでも良くなって、そろそろ引き上げっかと、皆で頷き合った。
「おーおー待ちなァ、可愛い後輩共!どーせ華の喧嘩道までヒマを持て余してんだろー?先輩の手伝いに奔走してくんねェ!これぞまさに武士道!なんてなァ、あっはっは!」
うーわーわわわ……何だ、このテンション。
こりゃ、昴のヤツ、所古先輩のこのテンション込みで荒れてんじゃね…?
かわいそうに…後で「十八学園限定出荷!本気の朝摘みいちご使用・濃厚いちごオーレ」でも差し入れてやろう…
しんみりした所で、先輩が面白がって撫でくり回そうとしてくる手を、鬱陶しそうに避けた一成がため息混じりに呟いたのが(きっと俺にだけ)聞こえた。
「アイツ……昔の俺に似てんのが気持ち悪ぃ…」
昔、か…
一成にもいちごオーレを買ってやろう…
ん…?
一成の『昔』に似てるっつー事は、俺にも多少被んのか。
そうだな、俺には「十八プレミアム・厳選いちごのふんわりマキアート」を買ってやろう。
はるとには「十八学園の幻・川田さんチの夢見るいちごと山田さんチのほのぼの牛乳使用・ストロベリーシェイク」を買ってやろうな…
しんみりと想った。
2010-10-29 23:29筆[ 181/761 ][*prev] [next#]
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