15.衝撃の朝礼、スタート!
街中で育った俺には想像を絶する、それはそれは広い広い、きれいに整備されたグラウンド。
確かスポーツにも力を入れていて、各部共なかなか強いのだと、十八さんが得意そうに仰っておられたっけ…
生徒さん方が集合しているグラウンド…というか、最早、ちょっとした野外競技場の趣があるこちらは、朝礼の他に体育祭、他校さんを集めた陸上競技会、スポーツ親交の貸し出しなどに使われるのだと、音成さんが説明してくださった。
うん……ほんとう、そんな感じです。
すっごく本格的な作りだもの…
客席があるし、照明設備もばっちりだし、奥の舞台上には大きなスクリーンまである…アイドルさま方のコンサートもできそうですねと、俺はひっそり想いました。
普段は陸上部さん主体に、各部でローテーションして使っていらっしゃるのだとか。
すごいなぁ…
更に驚愕するのは、うっすら遠くにはサッカー用グラウンド、野球用グラウンドがそれぞれ別で存在することだ。
更に更に、バスケットボール用、バレーボール用、各武道用と、個別に体育館が存在するらしい。
だから、体育の授業は種目ごとに設備を使い分けているそうです。
水泳部は裸になると諸々の問題があるとか???で、設立禁止だっていうのも、なんだかすごい。
文化部はまた、個別で設備が整えられているのだとか。
ただただ、すごいとしか言いようがない。
校内〜食堂〜庭〜お買いもの施設〜寮の探検だけでも大仕事、この上、グラウンドや体育館見学を入れたら…
うーん…果たして今年中に制覇できるだろうか!
体育の授業次第ですねぇ…
でも、授業中にじっくり、探検するわけにはいかないしねぇ…
これはもう、改めて気合いを入れて探検に情熱を注がなくては!!
「「「何で急に気合い入った顔…?」」」
探検計画で頭がいっぱいだった俺は、美山さんと合原さんと音成さんが首を傾げているのに、まったく気づかなかったのでありました。
「そろそろ並ぶぞ」
「あ、はい!」
朝礼は舞台前で行われるらしい。
舞台前には大方の生徒さんが集合していらっしゃった。
ざわざわと、あちらこちらで話し声が絶えない。
「1年は真ん中からクラス順に横1列、左が2年、右が3年」
美山さんに腕を引かれるままに、中央最前列に並んだ。
さすがに2年生の先輩方は落ち着いていらっしゃるし、3年生ともなると大人の貫禄さえ感じる。
いいなぁ…俺も1年後の今日にはちゃんと先輩らしく、落ち着いた男として立っているかな。
すこしは男らしく逞しく成長しているかな。
そう成れるように、「男のロマン同盟」員としても努力せねば!!
「じゃーな、前(すすめ)!左から出席番号順だから、また後でー」
音成さんが爽やかに笑って左のほうへ去って行かれ、美山さんも「じゃ」と短く言って右のほうへ去って行かれた。
合原さんは俺の左隣の方とお友だちらしい、この場に留まって楽しそうに喋っておられる。
「あれ……一舎さんはまだ来られてないのかな…」
きょろりと右後方を見て、ちいさく呟いたら、合原さんが応えてくださった。
「一舎様なら朝礼には出席されない。あの人、サボリ魔だし?つかあんな変人の事、気にしてる余裕なんかないでしょ。『地味にしとけ』だよ、わかってる?朝礼中に食堂の時みたく、お母さん節を炸裂させたりしないでよねっ」
一舎さんも、サボリ魔さんなのか……
愕然としつつ、話しかけてくださった合原さんにお礼を言った。
「気遣ってくださって、ほんとうにありがとうございます。公の場ですものね、大人しく朝礼に集中します」
「ふんっ!別にお礼なんかどうでも良いし?」
「ふふ…はい、すみません。でも、ありがとうございます」
「……ふんっだ!生徒会の皆様が出て来られても、ガン見したらダメなんだからねっ」
「はい、わかりました」
つれないご様子ながら、的確なアドバイスをくださる合原さんに、素直に頷いていたら。
お友だちに断りを入れてから、合原さんがすっと隣に来られた。
「……気をつけなよ……お前、いろんな所から見られてる」
それだけ囁いたかと想うと、「じゃあねっ」と合原さんは去って行かれた。
いろんな所から、かぁ…
高等部の生徒さんが一堂に介するこの場、これだけの人波だ、どこからどんな風に視線を向けられているか…
勿論、ほとんどの御方が俺などには興味ないだろう、現にあちこちから聞こえる会話の端々には、「生徒会」「風紀」「武士道」の単語ばかり。
多くの皆さまが3大勢力の登場を待ちわびていらっしゃる現状(武士道はいないらしいけれど)。
だからこそ、皆さまをお慕いされている方々にとって、俺は見苦しい存在で…
でも、気にしていたら、キリがないから。
今朝以上に皆さまを刺激しないように、俺は俺らしく地道に、細々と生活して行こう。
「――…一同、静粛に」
その時、十左近先輩のアナウンスが辺りに響いた。
今日も今日とて、凛としたお声だ。
「十左近様〜!」と、かすかな声援がどこからともなくこぼれた他は、空気そのものがぴりっと緊張したように、自然と会話を交わす声が立ち消え、居並ぶ生徒さんの姿勢が一様に正された。
「皆さん、おはようございます。春休みは如何でしたか。本日より新1年生を迎えて新学期が始まります。各自春休みから気持ちを切り替え、1学期を充実させて行きましょう。
では、これより新学期最初の朝礼を行います。先ずは校長先生の挨拶です、一同、礼!」
校長先生……
十左近先輩のアナウンスで、気合いが入るのを感じながら礼をしつつ、内心で首を傾げた。
いらっしゃるのは知っているけれど、入学式ではお見かけしていないような…
何せ初めてのアイドルコンサートだったから、アイドルさまのご挨拶の後の記憶が、実は曖昧なんだよねぇ…困ったことに。
この機会に、しっかりとお顔を拝見しておこう。
最前列でよかったあ。
顔を上げたら、ちょうど校長先生らしき男性が、舞台中央へ歩み出ておられるところで。
で。
で…?!!!
「新入生及び在校生諸君、おはようございます」
た、たたた、田中さんっ?!
2010-10-26 23:10筆[ 178/761 ][*prev] [next#]
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