14.お母さん、しゅん…→ぷりぷり


 先日、業田先生に言われた通り、席は出席番号順。
 俺はA-12番、窓側から2列目の最後尾の席だ。
 窓側最後尾と最高の席、つまり俺の左隣には、音成さんがいらっしゃる。
 荷物を置いたと想ったら、廊下側にいらしゃった美山さんが、すぐさまやって来られた。
 「行くぞ」
 「へっ?」
 「朝礼。グラウンド集合、後10分」
 首を傾げる俺に、お隣の音成さん(…洒落みたいだなぁ…)が、フォローの言葉を続けて下さった。

 「月始めの最初の月曜は全体朝礼があるんだぜー晴れてたらグラウンド、雨だったら講堂な。生徒は速やかに自分のクラスの位置へ集合する事!全体朝礼だし、せんせー達は勿論、生徒会や風紀なんかも関わってるから、遅れたらやべーの。しかも、1年の教室って講堂もグラウンドも遠いからさー急がねーと!つか美山、出るんだな」
 「……一応」
 「ふーん。じゃ、行こうぜーあ、カードキーとか携帯忘れんなよ?貴重品は各自で管理が基本な。前、校内新聞で注目浴びてるし、特に気をつけねーと」
 「はい、わかりました」

 お弁当はどうしよう…?
 貴重品と言えば貴重品なんだけれど…まぁ、ロッカーに入れておけば大丈夫かな?
 これまたカード式のロッカーに、お弁当を慎重に置いて、美山さんと音成さんと廊下へ出た。
 クラスメイトさんも他クラスの生徒さんも、皆さま目的は同じだから、廊下には流れが出来ていた。
 登校して来たばかりの方々と、すれ違う形で廊下を進んで行く。
 しかし……
 教室へ入る御方も、グラウンドへ向かっている御方も、皆さま、こちらを一瞥してから歩いておられる。
 あちらこちらから視線を受けて、とても居たたまれない。
 自然と、視線がどんどん下がって行く……


 「しっかり顔上げてなよ」


 気持ち俯き加減に歩いていたら、どんっと背中に衝撃を感じた。
 振り返ったら、合原さんが不敵なお顔で笑っていらっしゃった。

 「前陽大に全面的に非があるならしょうがないけど〜ちょっとばかり目立っちゃっただけでしょ?たまたま3大勢力に知り合いが居ただけでしょ?その結果、報道部にちょっと目ぇつけられただけ。僕ら親衛隊はバカじゃない、だから不問にした。
 もっと堂々としてなよ。コソコソしてたらマジでやましい事があるみたい。ないなら、しっかり顔上げてなよ。噂してるヤツらは皆ヒマなだけ!朝礼が始まったら、直にあんたみたく目立たない生徒の事なんか忘れるし。何たって今日は、各役員引き継ぎ挨拶の日なんだからね!」
 
 キラキラした瞳で、各役員引き継ぎ挨拶という、今日の一押しイベント?について語ってくださる合原さん。
 もののついでだと、会長さまが如何に素晴らしい挨拶をなさるか、その容姿とカリスマ性とオーラが如何に全校生徒の中でずば抜けていらっしゃるかと、訥々と語り倒してくださった。
 合原さんの両隣には合原さんのお友だちなのだろう、同じクラスメイトさんが同じくキラキラした瞳で、うんうんと相槌を打っていらっしゃった。
 その圧倒的なパワーに、美山さんはどこかげんなりした表情、音成さんはあちゃーと苦笑なさっておられた、けれど。
 キラキラしている合原さんは、とても輝いていらっしゃって。

 もしかしなくても、気遣ってくださっていることが、とてもうれしくて。

 「ありがとうございます、合原さん」
 「それでね、きっと柾様は大胆不敵で無敵で素敵で画的に素晴らしい微笑を浮かべて……って、は?!あんたにお礼言われる筋合いはないんだからねっ!」
 「はい…それでも、ありがとうございます」
 「ふ、ふんっ!別にね、そんなんじゃないんだからねっ!これは牽制なんだから…そう!牽制!!柾様に近付いたら許さないんだからねっ」
 「はい。近づきません」
 「ふんっだ!わかればよろしい!」
 ぷいぷいっと横を向いて、お先に!と駆けて行かれる、合原さんたちを見送った。

 「めっずらし……合原が親衛隊関係外で誰かに話しかけるなんて、初めて見たー」
 びっくりしたお顔の音成さん。
 「……てめぇも、そのクチだろうが……」
 「あはは!そう言う美山こそじゃん!美山が朝礼出るなんて初めてじゃね?」
 「うるせー…俺に話し掛けんな」
 「美山から振って来たんじゃーん!」
 「振ってねー、呟いただけだ」
 「ははっ、リアルツイートってヤツ?!」
 「………」
 何やら楽しそうなお2人の会話、なんだか微笑ましく見守りつつ。
 
 「あの…朝礼って、参加の有無は自由なんですか?」
 聞いた途端、音成さんが快活に首を振った。
 「いーや、参加が原則。美山みてーにサボるヤツ、ちょこちょこ居るけどなー」
 「な、なるほど……あのぅ…ちなみに、武士道の皆さまは…?」
 「「朝礼に出てるの見た事ない」」
 おお…!
 音成さんと美山さんの絶妙なハモリ…!!
 って、そんな感動よりも。

 武士道は、朝礼に出ていない…?!

 ほっほう……
 あの子たちときたら…!

 「そうなんですかー」と自然な笑顔のつもりで返事をしたら、お2人共固まってしまった。
 「……なぁ、美山、なんか…寒くね…?」
 「……不本意だけど寒い…」
 ((つか前、怒ってる…?))
 おやおや、お2人共だいじょうぶでしょうか。
 春先はまだまだ寒いですからね、気をつけないと。
 ポケットに忍ばせていたカイロを取り出し、お渡ししたら、青いお顔で驚きつつ「「どうもスミマセン」」と何故か敬語で受け取って下さった。
 大丈夫かなぁ…お風邪を召されてなければいいのだけれど。

 それはとにかく、武士道め…!!

 会ったら真偽を問い質さなくては!!
 ぷんぷん怒っている内に、周りの視線もいつの間にか気にならなくなっていて、大勢の生徒さんが集まり始めたグラウンドへ到着した。



 2010-10-25 23:14筆


[ 177/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -