「ほっほ〜う…これはこれは…」
 「すっごーい…!」
 「わ〜………」
 「うわっ?!」
 「ひょっひょ〜う…」

 くすくすって。
 隣から控え目な笑い声が聞こえて、一心に歓声を上げ続けていた俺はやっと我に返った。
 しまった…!
 初対面で先輩、しかも恐ろしい程に整った容貌をお持ちの王子さまの前で、なんというはしたなさでしょう。
 いきなり素面をさらしてしまうだなんて!
 しかも俺ったらものすごく子供っぽい…いえ、まだまだ子供なんですけれども、とにかく恥ずかしことこの上ない。

 頬が熱くなるのを感じながら、すみませんと小声で謝った。
 王子さまは流石、王子さまだけに御心が広いのだろう、にこやかなまま落ち着いていらっしゃる。
 「いや、こちらこそ笑ってしまってごめんね…?そんなに歓声を上げる程、我が学園内は物珍しいかな?」
 「王…いえ、あの、副会長さまに謝っていただくなどとんでもないことでございますが…ええと、はいー…ここが学校の中だなんて信じられないです。日本じゃないみたいで…」

 もごもごと返答しながらも、視線はついつい、あちらこちらを彷徨ってしまう。
 だって。
 門から歩き出して、恐らく十分は経つのに、まだ学校らしい建物が見えてこないばかりか。
 歩みを進める度に、いろいろな発見があるんだもの!!
 石畳で舗装された道。
 自然に委ねながら整備された、学校内に森があるのだろうか?!そこへ続くらしき砂利道。

 ほんとうのほんとうに学校内だよねえ…と疑いたくなる、そこかしこにセンスよく配置された、素敵な街灯や街路樹。
 案内していただくまま、歩いている場所は、延々と続いている桜並木だ。
 遥かその先には庭園と思しきシルエットがあり、水しぶきのようなものがぼんやりと見える…噴水まであるのだろうか。
 すごい。
 とにかく、すごいとしか言えない。

 外国の大きな公園へやって来たみたいだ。
 これが噂の、どこを切り取ってもポストカードになるっていうやつなんですねえ!
 思わず吸いこんだ空気の、瑞々しくもかぐわしいこと!
 ちょっと、いや、ちょっと(どころじゃないけれど、頑張ってうんとこしょどっこいしょ)下山したら、気忙しい街がばーんと広がっているのに…現実が信じられない。

 「そんなに珍しいものなのかな。僕は幼等部からずっと此所に居るから、この景色に慣れてしまってね」
 「珍しいですよー!すごいですよー!普通の学校はここまで自然に恵まれてませんから!すっ…―――」
 「………す?」
 「―――……………っごおおおく素晴らしい環境だと思いますっ!!それに、一般的な公園よりずっときれいに自然を生かして整えられていて…こんなに広々とした心から癒されるような環境、なかなかないですよー!!」

 はっ!
 またやってしまった…!
 またもいきなり、素で力説してしまった…王子さまに対して、なんたる無礼を!
 けれども時既に遅し、俺が我に返ったのは、拳を握り締め熱弁し終わってからだった。
 どう後悔したところで、時間は巻き戻せません。

 「す、すみません…大変申し訳ございません…!今日やって来たばかりの新参者の分際のくせに、いけしゃあしゃあと語ってしまって…あまりに素晴らしい環境なものですから、どうにもこうにもテンションが上がり過ぎてしまいました…ほんとうに申し訳ございません…!」
 慌てて謝罪し、下げられるだけ深々と頭を下げた。
 しばらく経って、怖々顔を上げると、王子さまはすこしだけ呆気に取られた表情をされた後、すぐにまた微笑ってくださった。




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