10.お母さんはこんな人
教室にたどり着くまで、すれ違う生徒さんたちの視線を、たくさん浴びた。
美山さんが道案内も兼ねて、盾になるように前を歩いてくださった。
こんなに注目されたのは、短い15年の歩みの中で初めてのことだ。
『新聞報道部に気をつけろ』
生徒会長さまのお声が蘇る。
どちらのどなたさまが部員さんなのか、一切がわからないという謎の部活動さん…
くっきり写っていた、誰が見ても明らかに俺だとわかる写真は、いつの間に撮られたものなんだろう?
そして、記事の内容も、だけれど。
「いきなり報道部のターゲットだなんて…何て人騒がせな…」
「柾様の直筆…そこまで目にかけて頂いている、あの子は何者…?」
「武士道の皆様が、あんな記事に反応するだなんて…」
「風紀委員会が公に関わる事なんて、今までなかったのに…」
「あの日、3大勢力以外にも、所古様や十左近様とも…」
「食堂のスタッフ様共、妙に親し気に…」
あちらこちらから聞こえる、生徒さんたちの呆れたため息。
「3大勢力」と関わること、十八さんに耳がタコになる程聞かされて来た意味が、わかったような気がする。
俺はうっかりし過ぎだ。
そんなつもりはなかった、では済まされない。
入学初日から目立ってしまった。
ずっと長くこの学校で生活なさって来た皆さまにとって、それはほんとうに疎ましい存在だろう。
まして皆さまの憧れの方々…アイドルさま方と一部知り合いとは言え、不意に現れた俺が容易に近づいて声を交わしていたら、それは哀しくもあり悔しくもあるだろう。
皆さまの気持ちが、よくわかる。
俺だって、俺の敬愛する憧れの料理人の方々と、昨日今日ファンになった御方が親しくお話なさっていたら、とても複雑で、自分にできないことができるその人をとても羨ましく想うだろう。
しかも俺はほんとうに目立つところのない、アイドルさま方と並ぶべくもない地味な存在だから、皆さま尚更腑に落ちないのだろうな。
申し訳ない。
軽薄な行動を取ったこと、食堂内を騒がせてしまったこと、改めてお詫びしたい。
反省の誓いを表したい。
新聞報道部さまの所在が明らかならば、報道部さまを通して、お詫びの言葉を述べたいところだ。
それは、無理なこと、だから。
クラスの前にたどり着いた、美山さんが扉を開けた途端、それまでざわめいていた教室内が静まり返った。
誰もがこちらを振り返り、さまざまな表情を浮かべて、口をつぐんでいらっしゃる。
美山さんが、何か言いた気に俺を振り返ったから、大丈夫ですと頷いて見せた。
問題を起こしてしまった、それはもうどうしようもない。
時間は戻せない。
だから、「これからの俺」でお詫びの気持ちを、言葉でも態度でも表して行く。
俺にできることを、誠意をこめて表していくしかない。
「おはようございます」
返ってくる言葉はないまま、言葉を紡いだ。
「朝からお騒がせしまして申し訳ありません。先日は軽率な行動を取り、皆さまの心情を慮ることができず、ほんとうにすみませんでした。
このような形になって、改めて反省しております。今後は『3大勢力』さまに必要以上近づくことなく、皆さまのお気持ちをもっと想い遣れますように尽力致します。
ただ…生徒会さまの書記の天谷さま、武士道の皆さまは、俺と旧知の仲、大切な友人です。どうしても接触してしまうかと想います。どうか友人としての交友を、認めて頂ければ幸いです」
扉から1歩中へ入ったところで、先ず、クラスの皆さまに知って頂きたいと、深く頭を下げた。
2010-10-20 23:27筆[ 173/761 ][*prev] [next#]
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