8.「奴ら」の暗躍が始まった!


 ちょっと急ぎ足で、寮から校舎へと向かった。
 まだまだ、桜はしっかりと花開いている。
 この感じだと週末まで保ちそうだな……
 ここの桜たち、いろんな種類があるからか、咲く時期も微妙にずれていて、まだ満開じゃない桜の木も多い。
 今度の週末は、武士道の皆とお花見できるかな。
 後で皆にメールしておこう。
 そんな楽しい計画を立てながら、桜色の中、美山さんと並んで急いだ。

 早歩きする内に、他の生徒さんたちの姿を、多く見かけるようになって来た。
 うん、余裕で間に合いそうだな!
 皆さん、幼い頃からお互いご存知なだけあって、あちらこちらで親し気に挨拶を交わされておられる。
 いいなぁ…
 俺もいろんな人たちと仲よくなれるかな、なりたいな。
 元から知っている武士道、ひーちゃんに甘えていないで、あたらしい交友関係にもどんどん飛びこんでいかなければ!
 ともあれ、焦らずゆっくりいきましょうね。

 さすが全学年揃っているだけある、入学式と違って、生徒さんの数がべらぼうに多い。
 ちょうど混み合う時間なのか、校舎出入り口付近は、非常にたくさんの生徒さんで溢れ返っていた。
 こりゃ大変だー!!
 お昼の食堂も、ものすごいにぎわいなんだろうなぁ、スムーズに入り込める日を熟慮しないといけませんなぁ…これこそまさに、ご利用は計画的に。
 しかし、こんな人混みの中にいると、つい…
 セール好き魂に火が…いかんいかん、どこにもセールはないから!タイムセールもないんだから!これから学校だし!
 人混みの隙間を上手に読んで、するりと交わしながら目的地へ到達した瞬間の喜び…なんて反芻してる場合じゃないんだから!

 ここはとにかく、お弁当を死守して、教室へ…
 より強くお弁当トートを抱きかかえた、その時、舌打ちと同時に美山さんの声がすぐ近くで聞こえた。


 「前、気をつけろ…ヤな予感がする。俺から離れんな」


 やな予感…???

 きょとんと見返した美山さんは、真剣そのもので、眉間のシワが深くて。
 人混みから生まれる無数の話し声で、大声を張り上げなければ会話もままならない状態だったから、取り敢えず黙って頷いた。
 美山さんも頷き返してくれて、ブレザーの袖を引いてくれながら、歩き出した。
 背が高くて目立つ存在の美山さんに、辺りの生徒さんも気づき始めたらしい。
 入学式の日と、同じだ。
 ひそやかなざわめき、視線。
 美山さんが歩く度に、道の端へ寄る生徒さんたち。
 
 んん…?
 その道端、あちらこちらに何やらざらざらの紙が、くしゃくしゃになって落ちている…?
 よくよく見れば、ほとんどの生徒さんがその紙を手にし、読んでいらっしゃった。
 なんだろう、校内便りみたいなものが配られているのだろうか。
 それにしても、読み終わって辺りにポイ捨てするのはよくありませんねぇ…
 拾って歩きたいけど、なんだかそんな空気じゃない…なんだろう?
 朝礼と1限目が終わったら、拾いに来る時間あるかな。
 せっかくのキレイな街路が台無しですからね。
 そんなことを想いながら、出入り口前までたどり着いた。

 美山さんと俺がたどり着いた、その瞬間、辺りがしーんと静まり返った。

 え?え?
 皆さん、俺のほうを見て、なんで固まっていらっしゃるのでしょうか…?!
 おろおろと見渡せば、誰もが視線を避ける。
 明らかに、俺に何かあるようだ。
 一体何だろう……
 まさか…入学早々、プレミアムバニラアイスを食べたことがバレて…?!
 はっ、それとも食堂のキッチンを見学してしまったこと?!
 青くなったその時、また、美山さんの舌打ちが聞こえた。

 「ヤラれた……これかよ…!」
 
 険しい美山さんの視線を追えば、そこには、入学式の時にはクラス表が張り出されていた掲示板があり、ポスター2枚サイズぐらいの…新聞記事…?


 『●新聞報道部/掲示板ジャック第222号●

 【いけません…!
 食堂に響き渡った怒声】
 〜オカンとボクと、ときどき、3大勢力〜

 あの3大勢力と問題児共を黙らせる、脅威の大型ルーキーが1年A組に登場!
 その名は、前陽大(すすめ・はると)、15歳。今年唯一の外部生だ。
 推定160センチ以下のミニマムさ何のその、入学早々、学園の強者共に喰ってかかった恐れ知らずの勇気の持ち主。
 新生徒会書記の天谷悠、武士道とかなり親しいご様子、その他3大勢力と問題児共をも手懐けた様だ。
 
 君は一体、何者だ?

 彼は我々一般生徒の味方なのか、敵なのか、それともヒーロー足るのか…?
 いずれにしても、生意気だ。
 謎の食堂部設立(詳細は以下参照)も怪しい話、勧誘にはくれぐれも御用心!』 


 大きな文字で書かれた見出しと小見出し、その真ん中には、食堂にいた時の俺の写真…?!
 更に、延々と続くちいさな字の本文の上、濃く荒々しい筆記で重ねられていたのは。


 『何人たりとも前陽大に手を出すべからず。

 第100期生徒会代表
 柾 昴

 命が惜しけりゃ、俺様に逆らうんじゃねえ』


 『こーちゃん、早っ!
 いつ来たのー?
 俺らも負けないもん!!
 はる…前陽大は武士道のお母…唯一也。
 手ぇ出したらお仕置きだっぺ!

 ――武士道、参上――』


 『生徒会も武士道もふざけるな。
 こんな時だけ早起きするな。
 前陽大は一般生徒につき、事を荒立てるべからず。

 第100期風紀委員会代表
 日和佐 誉/渡久山 凌』

 
 な……
 な……
 な…?!



 2010-10-18 23:24筆


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