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僅かに目を見開いておられた美山さんは、やや経ってから頭を垂れた。
「……悪かった」
「いいえ、いいえ、こちらこそ!いきなりまくしたててすみませんでした。驚かれたでしょう…?すみません…美山さんには俺のスイッチが入ったところを3度も見られて…お恥ずかしい限りです」
「いや…てめぇが大事にしてるもんを軽く見られたら、誰だってイヤなもんだろ…俺、口悪ぃから…お前の神経に障る言い方して悪かった」
「いえいえ…!過剰に反応する俺がよくないですから…!!俺にとって大事な人たちのこととなるとつい、我を忘れてしまって…もっと大人にならないと駄目ですよね。お見苦しいところばかり見せてほんとうにすみません」
美山さんが、お前が謝るなよって苦笑してくださったお陰で、硬い空気が雲散していった。
「『大事な人達』の事で我を忘れるって?」
「あ、はい…家族や友だち、敬愛している方々のことです」
「……武士道も、か」
「はい!武士道は友だちと言うか…特別な仲間と言うか…なんとも言い難いのですが、もうひとつの家族…?みたいに大事な存在です」
「……ふーん」
大事な存在ねーとか、俺がどうのこうのと、なにやらぶつぶつ呟いている美山さん。
よく聞こえなくって、首を傾げるしかなかった。
「…それだけ山本サンを尊敬してるって事は、料理部っつか食堂部っつか…なんつーか、お前もプロになるのか」
「夢なんです」
「……夢?」
これが生き甲斐だって想える、俺の夢。
「俺の夢は、食堂を経営することなんです。
俺の作る料理で、ほっとしてもらえたり、ちょっと元気になれたり、すこし笑顔になれたり…強烈な印象や感動じゃなくていい…日常にそっと寄り添う、こざっぱりした清潔な食堂で、老若男女隔たりなく気軽に利用して頂けたら…大きなお店や専門店ではなくて、ちいさなお店でいいんです。本格的なお料理は、その道のプロの方々がいらっしゃいますから。
俺はいろんな料理のいいところ取りをしたいと言うか…例えば、塾で忙しくて食事もままならないお子さんたち、仕事が忙しい大人さんたち、ひとりで食事している人たち…今はなにかと皆忙しい世の中で、食べることがおろそかになりがちだから、そういう人たちに栄養たっぷりのごはんを味わってもらいたい、そうしてまた元気に日常へ戻って欲しいって想うんです」
……はっ!!
俺ったら…
俺ったら!!
朝から何を真剣に語って…俺ったら!!
夢に関わることとなると、つい我を忘れてしまうこの癖、ほんとうにどうしたものやら。
などと呑気にしている場合じゃない!
けれど、すみませんと、謝る隙はなかった。
美山さんがまっすぐこちらを見ておられる。
とても、真摯な眼差しだった。
「良いな、そういうの」
「え…」
「人の事だったり、てめぇの夢だったり、真剣になれるもんがあって良いな。俺にはそういう、マジで語れるもんが何もない。カラッポだから。お前はすげーって想う」
「美山さん……」
「実際、マジでメシ美味いし。アノ武士道が懐いてるし…仁サン一成サン、昔から知ってるから余計にすげーって想う。あー…クソ、上手く言えねー…」
「ありがとうございます、美山さん」
「あ?」
「俺の夢を聞いてくださっったばかりか、そんな風に言って頂けて嬉しいです!食堂が完成したら、美山さんも是非いらしてくださいね。サービスしますから!なんちゃって、まだまだ影も形もないんですけれども…へへっ」
美山さんはまた苦笑して、気が早いなと呟いて。
「常連になってやるよ」
と仰るものだから、俺も笑った。
「はい!ありがとうございます!では、美山さんで常連さん149人目ゲットです〜」
「……はぁ?!おい、まだその食堂出来てねーんだよな…?」
「はい、まっだまだ先の話ですよー」
「んで、そんなに居るんだよ……」
「えぇと、気づいたらこうなっていたと言いますか…家族でしょ、家族と親しい俺も顔見知りの方々でしょ、小中学校の友だち、その親御さん、先生方、その他友だち、武士道の皆…などなど。あ、148人もの方に俺の夢を語り歩いたわけではありませんからねっ?人づてに聞いた方が、常連になるからねって言ってくださるパターンが多くって。まさか148人さん全員が本気ではないでしょうけど〜そのお気持ちだけでも嬉しくって…」
皆の顔を想い出したら、会いたくなっちゃうんだけれど…
皆の顔を想い出したら、心強いから。
って、ん…?
美山さんの額に、険しいシワが刻まれ始めた?
「……マジ、すげー……どんな競争率だよ…」
「競争率…???」
「……いや、何でもない」
「美山さん〜?」
「いいや、何でもない…!俺には関係ねーし!どーでもいーし!」
「え?え?え?」
「取り敢えず、朝メシと弁当だろ!作んぞ、コラ」
急に戦闘モードですか、美山さん?
武士道のやんちゃ顔とそっくりですよ。
でも、そのお陰ではっとなった。
「そうでした、そうでした…!俺の所為で時間を喰ってしまってすみません!急がなくては〜!!お手伝い初日から申し訳ありませんが、チョッパヤで飛ばしますねー!」
「おぅ!」
「先ずは、もう1度洗面所へリターン、改めて手を洗いましょう!!」
「…またかい!」
「おぉ美山さん、ツッコミできるんですね!素晴らしいです!生憎ですが、手を洗ってから俺の所為で時間が経過しているものですから…先程よりは軽くでいいですから!」
「おぅ!」
急げ、急げー!!
早くしないと、朝ごはんをゆっくり食べる時間が取れないぞ〜!
2010-10-13 23:20筆[ 167/761 ][*prev] [next#]
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