2.今朝も勿論!早起きですとも


 ぱっちり、目を開けたら朝だった。

 「うーぬぬぬっ…今日もお目覚め爽快…っと…」
 充実した前向きな1日を過ごすためのコツ。
 いつまでもベッドの中でぐずぐずしないこと。
 目が覚めたらぱっと飛び起きて、ベッドから出て、うーんと伸びひとつ。
 さっと窓へ近寄り空気を入れ換え、朝日を目にできれば、その日1日快適に過ごせる。
 カーテンを引き、窓を開けたら、あらら…今日は生憎の曇り空。 
 「雨になるかな…」

 空の高みを厚く覆う、嵩張り雲(かさばりぐも)。
 十八学園で初めての雨かぁ…
 雨に濡れる桜もきれいだろうなぁ…
 それに、雨はあたらしい季節をどんどん連れて来てくれるし、更に春爛漫になるかなぁ。
 楽しみだ。
 早くもこちらでいろいろなお天気を味わえてラッキー!
 そんなことを想っていたら、雲間からさあっと幾筋も温かい光が差し始めた。

 「天使の光…!ええと、母さん、十八さんが元気に楽しく過ごせますように…武士道の皆が今日もいい子でありますように…あちこちで頑張ってる友だちが、笑顔で過ごせますように…南無南無」
 天使の梯子、が正式名称みたいだけれど。
 雲間から差す神々しい光を見ると、しあわせになれる、いいことがあるというジンクスを聞いたことがある。
 以来、見かける度、だいじな人たちのしあわせをお願いするようになってしまった。
 そういうジンクスの信憑性はとにかく、雲の向こうに、おおきな太陽が在るのだと。
 どんなに曇っていても、光は常にすぐ側に在るのだと、なんだか心強くなる光景で、とてもきれいで。
 
 今日も楽しい1日になりそうだ。

 しばらく空を眺めた後、携帯写真に収め、ベッドを整えて部屋から出た。
 顔を洗い、つめたいお水と桜サブレで身体の中から起こし、音楽を聴きながら考えごとに耽り、想いついたいろいろなアイデアをメモしてから、ブログをチェックした。
 うんうん……皆、今日から新学期、お互いいっぱい楽しもうね…!
 撮ったばかりの写真をアップし、皆へメッセージを書いて、パソコンを閉じた。
 いつもの日課をこなせて、心身共々すっかり気力充実!!
 ようし!!
 朝ごはんとお弁当、チョチョイのチョイっと作っちゃいますかー!

 部屋着の袖を腕まくり、威勢よくキッチンへ向かった。
 ら、あれ???
 ソファーに、さっき洗面所を介して通った時はいなかった、美山さんのお姿。
 今にも寝てしまいそうな様子で、深くもたれて頭を抱えていらっしゃる。
 一体どうなさったのだろうか…?
 どこか具合でも悪いのか、まさか、俺の立てた物音で目が覚めてしまったのだろうか。
 あわあわしながらそっと近寄った、俺が声をかける前に、美山さんが先に気づいてくださった。

 「……はよ……」
 「おはようございます…美山さん、どうなさったんですか…?すみません、もしかして起こしてしまいました?それとも、どこかお身体の具合でも悪いとか…」
 「…んなんじゃねー……ふあ…お前、マジで早起きしてんだな…んな時間に起きたの、オール以外初めてだ」
 「そうなんですか?俺もいつもはもうちょっと遅いんですが、今日は朝ごはんとお弁当も作るので、まだ慣れていないキッチンですし、早目に起きたんです」
 「べ…?!慣れない…?!」
 わー!
 それまで殆ど眠りかけのような表情だったのに、急にくわっと目を見開いた美山さん。
 なにごと!

 美山さんは欠伸を噛み殺しながら、すこし起きたお顔でこちらに向き直った。
 「弁当って、お前……食堂部とか何とかじゃねーのかよ…」
 「あ、はい。食堂もいずれ全メニュー制覇するつもりなのですが、料理というのは毎日作らないと腕が鈍るものでして…経済と心身の健康の為にも、作ったほうがいいかなと想うのであります。食堂も利用させて頂きますが、基本は3食とも自炊を心がける気構えです」
 「全メニュー制覇…?!3食とも自炊……」
 「はい!」
 「つか、あれだけキッチンでいろいろ作ってんのに、まだ慣れないとかって…」
 「いや〜まだまだ完全に掴めてませんし、未完成ですから〜各設備のクセはおおよそわかってきたものの、あうんの域には達してませんからねぇ…」
 「そういうもんなのか…?」

 「そういうもんなのです、美山さん。キッチンというものはですね、決してひとつとして同じものはないんですよ。
 人間が十人十色で在るように、キッチンだって同じデザイン、同じ設備でも持ち味が違う、使い勝手が違う…機器類にはね、命こそありませんが、作り手や使う人の魂が宿るものですから、それぞれに微妙に異なったクセがあるものなのです。
 俺はできれば、各部屋のキッチンを堪能させて頂きたいぐらい…」

 はっ…!
 話の後半から、美山さんがぽかーんとした顔をなさっておられるではないか…!!
 またもついうっかり語ってしまった…
 俺ったら、こんな朝っぱらから!
 「ええと…最後の壮大な野望は聞かなかったことにしてくださいませ」
 「…壮大な野望…ガチ本気じゃねーか…」
 「ゆ、夢ですから、ただの!や、やだなぁ、美山さんったら!」
 「……武士道と、クラスのヤツらなら、使わせてくれんじゃね?」
 「あはは!そんなのとっくに射程内ですよー!……はっ、いやいやいや!!何を言わせるんですか美山さん!まさか、武士道は当然としても、クラスの皆さまとまだ知り合ったばかりですのに、そんな大それた野望……そんな!寮管理室とか生徒会室とか風紀室とか、簡易キッチンなのかな〜どうお願いしたら使わせてくださるかな〜なんて、別に計画練ったりなんかしてませんからねっ!」


 「……前……。お前、ウソ吐けねータイプだろ……」


 ………。
 
 壮大な計画がバレバレになってしまった、けれども、美山さんは聞き逃してくださった。
 まさに武士の情け!
 ただ、生徒会と風紀に必要以上に接触しないようにと、釘を刺されてしまったけれど。
 俺だって…機会があれば是非!というふうにしか考えてませんから。
 進んでお近付きになるつもりは毛頭ございません、気になるのはすべてのキッチンだけですからね。
 話が落ち着いたところで、調理に取りかかってもいいですか?と改めてお伺いした。
 美山さんが朝からどこかへお出かけになるのならば、フルーツジュースでも作って飲んで頂こうかと想った。

 けれど、俺の耳に届いた返事は、意外なものだった。


 「俺も、手伝う」


 なんですって…!!



 2010-10-10 22:04筆


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