1.所古辰の淫らでゴメンネ(1)


 子猫ちゃんを起こさない様に、寝乱れたベッドから抜け出した。
 朝だ。
 輝かしい朝。
 例え、窓の向こうが薄暗く曇り、冷たい風がごうと唸って、桜の木々を揺らしていても、朝が訪れた、それが輝かしいものである事に変わりない。
 まして今日は、新学期スタートの日。
 3学年揃って一斉に新しい1年をスタートさせる日。
 さてさて、どんな1日になります事やら…
 
 窓辺に常備している、「Black Death」の新品を開け、ジッポで火を点けた。
 ジ…と、燃える音、一瞬の鮮やかな閃光が、灰色の世界を彩る。
 「んんー…今日は荒れそうだァ…」
 天気は荒れ模様。
 明け切らない空に渦巻く灰色の雲の遥か彼方、明るい朝日が隠れているだなんて。
 肺へ送り込んでから吐き出した煙は、頼りなくカーテンと共に揺らめいて、何処かへと消えた。
 
 今にも雨が降りそうだ。
 
 とんとんとんと、意味もなく、窓ガラスを人指し指で叩く。 
 考え事をする時のクセだ。
 十左近によく注意される。
 動作に落ち着きがないと。
 真面目を絵に描いた様な、いっそ風紀に入ってはどうかと勧めた事すらある、同志…
 2年間、いや、幼等部から数えたら14年にもなるのか、共にこの学園で戦って来た存在は、3大勢力共の様に「仲間」だとか容易く言えない、複雑な存在だ。
 「愛してるよンー、十左近〜ってね…」
 本人が聞いたら、心の底から激しく嫌悪して、1週間は口を利いてくれないだろうな。
 苦笑して、変化のない曇り空を見上げた。

 
 終幕の1年が始まる。


 自分達は最上級生へ進級し、コドモ時代と決別した後は、それぞれが選んだ道へ進む。
 為すべき事は幾らも在る。
 「カワイイ後輩達」の為、同志達の為、己の為……
 終幕へ向けて、最後の1年が始まる。
 1本目を2/3程吸い、シルバーの灰皿に押しつけ、新しい2本目に手を伸ばした。
 ところで、背中に緩い衝撃を感じた。

 「所古様ぁ〜…ヒドいですぅ…起きたらいらっしゃらないなんて……」
 まだ夢の中の様な、舌っ足らずの甘い声。
 女の様に小柄で華奢な肢体には、俺のシャツ1枚羽織っただけと言う、何とも美味しい格好。
 しなやかで若い腿には、昨夜の名残が赤く散っていて申し分ない。
 「悪かったなァ、朝の一服は至福なもんで」
 「所古様…?!やっぁ、こんな所で……?」
 2本目は火を点けないまま銜えて、細い身体を出窓の上へ抱き上げた。
 戸惑い不安そうな表情と裏腹に、声は期待を帯び、両脚は既にスキだらけ。

 「もう1つ、至福の朝の一服を頂こうかなァ」
 「やんっ……所古様ったらぁ〜…昨夜も寝かせて下さらなかったのに、もうお元気なんですか…?」
 「子猫ちゃんがカワイイからさァ」
 「ぁん……」
 しっかし、最近の若いモンは、どんどん節操がなくなるねェ……
 自分を棚に上げて、昨夜散々堪能した其処へ指を這わせれば、易々と侵入出来たものだからいきなりぶち込んだ。
 子猫ちゃんの綺麗な自慢のおみ足は、完全に開いて、あっさりと甘やかしてくれた。
 腰に絡みつく二の足に、獣心が生まれる。
 
 「は…あっ……い、こま様ぁ…っ…キスもまだなのに、ヒドいっ…んっ」
 とろりと潤んだ瞳、灰色の世界に灯るバラ色の頬、物欲しげな唇に、冷酷に囁いた。
 「もう1本、一服してから」
 「あっあっ……ふぅっ…」
 最初だけ激しく突いてやれば、後は勝手に好きな様に動いてくれる。
 子猫ちゃんの痴態に目を細めながら、2本目の煙草は、実に旨いものだった。
 「んー……?」
 ふと、同じ窓辺へ置いた、携帯電話に目が留まった。
 変わらず腰を揺さぶり続ける、子猫ちゃんに合わせてやりながら手を伸ばす。
 空いてる手で灰を落としつつ、携帯を開いて、目を見張った。

 「へェ……これはこれは……」
 メールの受信、その相手にも驚いたが、内容にも驚いた。 
 「……ふん…?いいのかねェ…『支配者』自ら動いて鉄槌下す、か……アイツはガチ厄介だァ、大将自ら戦場へ踊り出るとは…生憎ウツケものじゃないから質が悪ィ…」 
 想いとは裏腹に、了承の返信を手短に送る。
 「…所古様ぁっ……ちゃんと集中、なさってっ…ひぁっ」
 「悪ィ悪ィ、集中するさァ。そろそろ時間だァ」
 携帯も煙草も放り出し、片手で腰を深く抱き寄せ、もう片方の手で開いている脚を更に左右へ割った。
 自然、強固なものとなる繋がりに、子猫ちゃんは我を失い必死でしがみついて来た。
 
 (お遊びも、そろそろ終わりだねェ)

 何もかも、終焉へ。

 在るべき、自然の姿へ。


 「今日の『喧嘩道』は荒れるなァ……」


 呟いた途端、雲の切れ間から温かな朝陽が零れ始め、その眩しさに目を細めて微笑った。
 


 2010-10-08 23:30筆


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