36.一方、その頃…(つか現在まだ22時)


 どんどんどんどんどんっ

 『コノ部屋ノ住人ハ、タダ今留守ニシテ居リマス』

 どんどんどんどんどんっ

 『ゴ用件ノ有ル方ハ、管理人室ニゴ伝言クダサイ』

 どんどんどんどんどんっ
 がちゃがちゃっ
 どんどんどんどんどんっ
 がちゃがちゃっ
 『コノ部屋ノ住人、』

 「………悠…てめえ、良い度胸してんじゃねえか……散々逃げ回りやがって…今日丸々1日サボった奴が、どの面下げて此所へ来やがった…?挙げ句の果てに夜分に迷惑行為たあ、てめえ、どういう了簡で居やがる…?あぁ?」
 「……うっうっ……ごーぢゃあああんっ…」
 「ウっザ…!気持ち悪っ!!急に抱きつくなっ!!てめ……ハナ垂らしやがって…!ちょ、莉人ー!あーウザっ、離れろって…」
 「うっ、うっ、うっ……」
 「っち…泣きゃあ良いと想いやがって、このクソガキが…!あーあーわかったから、てめえがちょっとでもその軽い脳味噌ながら反省してんなら入れ。だから離れろ!!」
 
 一般生徒寮より遥かに贅の凝らされた造り、信じ難い程の広さを誇る…けれどごくシンプルに整えられた室内には、他の生徒会メンバーが揃っていた。
 明日のあらゆる打ち合わせを、時間をかけて生徒会室で行った後、更に内容を詰める為に会長の部屋へ移動、今は漸く解放されて全員でおやつ片手に寛いでいる所だった。
 「「わぁお、こーちゃん×ひさしだー」」
 「……わぁお。」
 「逆かも知れない、悠は昴以上に無節操だしな」
 一瞬の間の後。
 「「「気持ち悪…」」」
 「……悪。」
 「お前らな……不気味な想像してんじゃねえよ、笑えねえ…つか、コレ、何とかしてくれ」
 
 ぽ〜いっと、昴の手から、連中の輪の中へ放り込まれた悠。
 すかさず全員、身を翻して避けた為、哀れ悠は床へ見事なダイブを決めた。
 誠に残念ながら、上等なラグが敷いてある位置だった為、大事には至らず、全員「「「「「…っち!」」」」」と舌打ちをしたのであった。
 「うっ、うっ…」
 ダイブから起き上がり、何故か体育座りしたかと想うと、自らの腕に顔を伏せ尚も子供の様に泣き続ける悠。
 最初は無視し、各自それぞれ談笑の続きや、読んでいた雑誌へと戻ったのだが。
 あまりにも泣き止まない、随分本気で哀しんでいる様子に、先ず落ち着かなくなったのは双子の満月と優月だった。

 「ひさし?そんなに反省してるなら、ゆーもみーも怒らないよ」
 「明日ちゃんと働くなら、ひさしの弁当も残ってるし、あげる」
 側へにじり寄って、懸命に声をかける。
 心配そうに覗き込もうとして、頑に解かれない腕の防御に、おろおろとし始める。
 ちらっと、昴と莉人に助け舟を請うが、上級生の2人はまだ知らん顔のまんま。
 その様子が見ていられなくなったのか、宗佑がそろそろと近寄って来た。
 「……おれも。ひさし、ちゃんと反省、する、許す。昨日、鳩尾ヤラレた、ひさし逃げた、けど許す」
 心配そうな1年生組の優しい心遣いにも、悠は顔を上げない。

 どうした事か。
 こんなに意気消沈し、泣いている悠の様子など、真剣に珍しい。
 かつてない様子に、いつもと違う手応えを感じたのか、遂に莉人も折れた。
 「悠、明日から真面目に働いてくれたらそれで良い。いつまでも泣くんじゃない」
 ぽんぽんっと肩を叩いたが、それでも悠は顔を上げない。
 途方に暮れた4人は、顰めっ面で新聞(NYタイムズ)を広げていた昴に、縋る様に視線を向けた。
 生徒会という一家の大黒柱は、盛大なため息の後、漸く重い腰を上げて。
 「悠、こら。泣く程反省してんなら、仕事態度で示せば良いだろうが。もー良いから顔上げろ。お前の好きなステーキ弁当、ゆーとみーが買って来てる。宗佑も購買のシフォンケーキ、お前の分まで置いてくれてる。莉人が美味い紅茶を入手して来てる。ほら、男だろ?いい加減泣き止め」
 
 くしゃくしゃと、頭を撫でる、高校生にしては大人の様に大きな手。
 その効果の賜物か、悠の情けない顔がやっと上がった。
 箱ティッシュを差し出す昴の瞳は、穏やかで、その横顔はとても頼もしく見えた。

 この数日の中、久し振りに彼らに、和やかな一時が訪れた……

 ……かの様に、見えたのだが。

 「……俺……俺」
 「うん?」
 何かを言い募る悠に、全員が寛大で慈愛深い気持ちになったのは、ほんの一瞬の事だった。


 「どうしようっ……はるちゃんとメールしてたのに、返信来なくなったよぅ〜…はるちゃん、怒ったのかなぁ〜?!俺、ただはるちゃんに会いたいだけなのにっ…会えたの、食堂でだけで…うう…もう3日も会ってない…会いたいよぅ〜…折角同じ場所にいるのに会えないなんて辛いよぅ〜…うっ、うっ、はるちゃん…はるちゃんんん〜…!!!」


 「「「「1度三途の川渡って来やがれ!!」」」」
 「……来やがれ!!」
 「ひっど……!ヒドいよ、皆〜!!俺の気持ちなんかわからないクセにぃ〜!!俺が今、どれだけ心細くて寂しいかぁ〜…」
 「「「「わかりたくもないわっ!!」」」」
 「……ないっ!!」
 「ヒドい、ヒドいっ…皆、はるちゃんのこと、気に入ってるクセにぃ〜!!」
 全員、明後日の方向を向いて無視。

 満月と優月は冷蔵庫に入れておいた弁当を冷えたまま押しつけ、宗佑は切り分けたシフォンケーキの皿を乱暴に置き、莉人は一切眼中に入れたくないとばかりにブランケットを投げ掛けた。 
 締めは、昴の投げつけた箱ティッシュ、見事に悠の後頭部へスマッシュヒット。
 「どの口が寂しい言うかこのヤリチンが……てめえはこの3日間、仕事もサボってセフレ共と遊び回ってたろうが…」
 地獄で轟く悪魔大魔王の唸り声の如き、低く忌々しい声音に、ハナを啜りながら悠は飄々としている。

 「それはぁ〜だからぁ〜寂しいからであってぇ〜」
 「「悠、前陽大の半径1キロ以内に近づくの禁止」」
 「ビョーキ、はると、移る。」
 「前陽大は一般生徒だ、平穏な学園生活をお前の所為で乱す訳には行かない」
 「…生徒会長特権に、1生徒の始末権限を加えるか……例えば此所は7階だから…」
 「皆、ヒドいヒドい」と連呼しながら、冷えた弁当を口にし、陽大の料理が恋しいとまたさめざめと泣く。
 全員、本気で殺意が芽生えた時。

 ♪あんまりソワソワしないで〜♪と、某鬼の女の子ラブソングが大音量で響き渡った。

 嬉々として携帯を開ける悠。
 嬉々として画面をガン見し、今泣いたカラスは何処へやら。
 「はるちゃんからメール来たぁ〜!!俺のこと、カッコいいって…俺のこと、カッコいいってぇ〜…!朝礼でのカッコいい俺、期待してるってぇ〜…!!やぁん、はるちゃんったらぁ〜!!俺のこと、好き過ぎなんじゃねぇ〜?!超やべー!超やべー!!メールだけでイケる…!!マジ、勃ちそ、」
 悠の言葉は、最後まで続かなかった。

 「あぁ、済まない皆。つい手が…どうしても抑えられなかった」
 莉人が拳を開いてひらひらと振りながら、再びラグの中へ埋没した悠を冷酷な眼差しで振り返りながら、自嘲した。
 「ありがと〜りっちゃん!りっちゃんのお陰で助かったよ〜」
 「りっちゃんがしてなかったら、ゆーとみーがヤバかった〜」
 「……おれも、ヤバかった。ありがと。」
 「サンキュー莉人。ったく…このバカはクソ呑気な…」
 5人分のため息が、静かになったリビングに重なったのであった。


 
 2010-10-07 23:38筆


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