33.お母さんのほっこりごはん


 「赤狼、この豆腐、煮えてんぞ」
 「あ、ミキティ〜、水菜もいい具合よ〜?」
 「はぁ、じゃあ…」
 「こら!!仁!一成!そのエリアはどれも入れたばっかりでしょうが!!生煮えのものを美山さんに食べさせようとしないの!!」
 「「はぁい」」
 「「「「ウケケケ…」」」」
 「皆も!また小悪魔風に笑わない!!」
 「「「「はぁい」」」」

 「美山さん、すみません〜こっちのつくね、火が通ってますから、どうぞ召し上がってください」
 「悪ぃ…よくわかんねーから」
 「仕方ないですよー!鍋初級さんですものね」
 「……っち…いつか有段者になってやる…」
 「はるる〜そのつくね、火ぃ通ってないと想うけど〜?」
 「まだヤバそうじゃね?」
 「え?あれ?そうだっけ???」
 「……前、てめー……」
 「すみません…!ほんとうにすみません、美山さん…!!わざとじゃないんですよー!」
 「「「「ウッシッシッ…」」」」

 わいわい、はふはふ、がやがや、パクパク、一騒動!
 
 いただきますの号令と共に始まった、鶏手羽と鶏つくねの野菜たっぷり水炊き。
 付けだれは、ベーシックにぽん酢をベースに、各自の好みで大根おろしやもみじおろし、あさつき、すりごま、七味を合わせる。
 または、昆布と鶏の旨味がたっぷり出たスープに、ゆず胡椒を溶くのもいい。
 序盤戦は仁が取り仕切った。
 各自のとんすいへ、1番ベストな状態になった具を入れてくれたり、食べていいタイミングを教えてくれたりと、見事なお奉行さまっぷりを発揮!
 さすが武士道を束ねる総長だけあって、他者の介在は愚か私語も許さない、それは見事な仕切りっぷりだった。

 空腹が満たされて来た、中盤戦。
 武士道鍋のいつものパターンなんだけど、ここからが面白くなってくる。
 なんでもありの状態だ。
 それまではメインに用意した肉類や野菜を、生真面目に煮ては食べるのくり返し。
 ここからは、イレギュラーアイテムの投入!
 麺類や餅巾着、香味野菜など、その時々の鍋の持ち味を損ねない程度に、どんどん入れては各自で自由に取って堪能する。
 「闇鍋」がテーマではない限り、変わり種すぎる具材の投入は、俺が許さない。
 なぜなら、終盤戦が待っているからだ。

 そう、とても大事な、終盤戦。
 これがあってこその鍋料理、これがなくてはお話にならない!と言い切らせて頂く。
 
 雑炊だ。

 序盤〜中盤戦にかけて、ごはんも麺類も堪能しつつ、それはあくまで軽く、でなくてはならない。
 終盤戦の前に、炭水化物然り副菜類を、がつがつと腹いっぱい食べるのは禁物だ。
 あくまで口直し程度に軽く頂きながら、終盤戦へ向けて、用意した具材を食べ切っていく。
 スープを飲み過ぎない、というのも、雑炊のためだ。
 スープはたっぷりと残しておかなければ、おいしいおいしい雑炊で締めることができない。
 序盤戦で無言になり、中盤戦ではにぎやかさを取り戻し、終盤戦へ向かってまた無言になる。
 このメリハリ、緊張感も鍋の醍醐味、堪らないものだ。

 終盤戦は、俺が仕切らせて頂く。

 きれいに食べきった鍋、たっぷり余ったスープの中へ、残しておいたごはんを投入。
 ゆっくりと火を入れる。
 この合間に、手分けして空いたお皿類を片付け、テーブルをすっきりさせておくのもポイントだ。
 食事の合間に席を立つのは、心苦しいものだけれど…
 雑炊さまのため、致し方ない。
 きちんとした状態で頂くのが、雑炊さまへの礼儀だろう。
 雑炊用に小丼と箸を新しく用意し、熱いお茶、漬け物、副菜を各自の前へ並べる。
 薬味類も余っていたら、お好みで入れられるように置いておく。

 そうこうしている内に、ゆっくり煮ていた雑炊が頃合いになる。
 塩をぱらり、ぐるりとかきまぜ、ここからが緊張の一瞬…!
 見守る皆の喉も、ごくりと鳴り、真剣な面持ちが鍋の周りに集まる。
 溶き卵をたっぷり、全体に回しかけ、すぐにフタ!
 フタして15秒カウント後、すぐに火を消す!
 余熱で卵に火を通すこと、1分少々。
 そうっとフタを開ければ、今日もふわあっと半熟に固まった、卵雑炊のできあがり!!
 手早く小丼によそい、補佐役の一成があさつきともみのりを散らして、皆に配ってくれて。

 2回目の、至福のいただきまーす!!

 しばらく、はふはふ、もぐもぐ、パリパリ(漬け物の咀嚼音)、もくもく(ポテサラの咀嚼音)、そんな音たちだけが、静まり返ったリビングに響いた。
 
 「「「「「「……うっまぁ……」」」」」」
 「……ねー…皆で食べると、ほんっと、おいしいねぇ…」
 全員、線目で美味い美味いと食べて、美山さんを窺ったら、無言だったけれど線目でぱくぱく召し上がっておられて、よかったと心から想った。
 「「「「「「お母さんのポテサラ、大好き…」」」」」」
 「へへー!久しぶりにシンプルなやつ!一成のパリパリオニオン、すっごく上手にできてるから余計においしいよねぇ…」
 「はるるったら〜誉めゴロシぃ〜」
 「「「「いいな、いいな、副長〜…」」」」
 「役得だなー一成」

 「美山さん、他に食べたい鍋料理とかありますか?」
 「……すき焼き……」
 「「「「おぉっ…!美山のクセに、なかなかイイこと言う…!」」」」
 「赤狼、なかなかヤるじゃねぇか…」
 「ミキティーのクセに生意気〜」
 「こーら!!皆、美山さんのアイデアに悔しがらないのー!じゃあ、次はすき焼きにしようねー」
 「「「「「「わーい!」」」」」」
 「……やった…」

 こうして、しあわせな湯気に包まれた夜は更けていくのでありました。



 2010-10-03 23:55筆


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