31.お待たせ、子供たち!
「ただいまー!!ごめんねー遅くなって!」
「「「「お母さん…!!おかえりなさい…!!」」」」
「おぅ、はると!おかえりー」
一舎さんとお別れしてから、猛ダッシュの果てに寮発見!
ちゃんとたどり着けたことに、ちょっと大げさなぐらいほっとして、明るい光で照らされたエントランスをくぐった。
ロビーには…今日は二上さんは不在のようだ…別の管理人さんがいて、会釈して挨拶し早々に通り抜けた。
エレベーターを使うのももどかしく、階段で駆け上がった。
もしかしたら通行中の生徒さまがいらっしゃったり、隣近所のご迷惑になるかも知れないと、忍び駆け足(俺の特技のひとつだ)で459号室の前へ!
カードキーを通すのももどかしい想いで、扉を開いて玄関を見たら、武士道の皆の靴が揃っていた。
うんうん…皆、ちゃあんと靴を揃えて、隅にきっちり寄せてある…
散々言い続けてきたことをわかって実行してくれるなんて…
年が近い俺からの言葉など、鬱陶しかったに違いないのに…
なんていい子たちなんでしょう。
想わずほろりとしながら、リビングへ続く扉を開いた。
明るい光景が広がって、心底ほっとした。
テーブルの上には、すっかり鍋の用意が整っていた。
うんうん…
皆、ちゃあんと鍋の時の心得を理解してくれて…食材から食器類、付けだれの用意までも立派にこなしちゃって…ごはんも炊けたのだろう、お櫃がちんとテーブルの傍らに用意してある…箸置きまでコーディネートしちゃって…俺が帰って来るまで、どうやら、美山さん含めて仲良くトランプゲームで遊んでいたようだ、くどくど言わなくてもちゃあんとお留守番できるようになったなんて…皆の純真無垢な笑顔が輝いて見える…(作者注:皆、はるとが帰って来てうれしいだけです)
なんていい子たちなんでしょう。
俺、心からうれしい…!
…親や保護者さんの立場、先生方って、子供たちの成長を目の当たりにした時、こんな気持ちになるものなのだろうか。
ああ、誰かとわかち合ってみたいものだ、この喜びを…そして、いつまでも自慢し合いたい。
そんな想いに駆られていた俺の周りに、わっ!と武士道の皆が駆け寄って来て、左右から手を引かれた。
「お母さん、お母さん、大丈夫?危ない目に遭わなかった?誰にも会わなかった?」
「こんなに遅くなるなら迎えに行ったのにー!でも、総長がもうちょっと待とうって!」
「お母さん、あのねー美山、大富豪でド貧民になりまくってんだよ!」
「お母さんにも見せてあげたい…最早、貧民王ってカンジ!」
「「「「ウケケケ…!」」」」
「こーら、お前等〜いきなりはるとに群がるんじゃねぇよ。手洗いうがいできねぇだろー」
割って入った仁の一言に、しゅんと「「「「はぁい…」」」」と声を湿らせる皆に、笑って大丈夫だからって言って、美山さんに視線を向けた。
美山さんは、面白くなさそうに顰め面で、トランプの手持ちの札を見つめておられる。
「ただいまです、美山さん。トランプ、負けちゃいました…?この子たち皆、鍛えてて強いものですから容赦ないでしょう?」
「お、おぅ……別に」
「さぁさぁ、皆、すぐごはんにするねー!手洗って来るね」
「おい、前、メシ……サンキュ」
「???あ!いえいえーとんでもないですー。大したものじゃないですが、召し上がって頂けたならよかったです!2日酔い、もう平気ですか?」
「……あぁ」
「「「「…酒もトランプも人生ゲームも弱っ…ウケケケ」」」」
「こら!皆、そんな小悪魔笑いしたって可愛くないよー!美山さんに失礼でしょ!!謝りなさい!」
「「「「はーい!ゴメンネ…?」」」」
「なんで半疑問なんだか!まったく…すみません、美山さん。でも、顔色が良さそうで安心しました!じゃ、美山さんも一緒に鍋、堪能しましょうね!」
こくりと無言で頷いた美山さんに、武士道の揶揄に気分を害された様子がなくて、ほっと息を吐いた。
「あれ、ところで一成は?」
姿が見えなかった一成は、ひょっこりと、台所から姿を見せた。
適当に長い髪を高い位置で結び、長袖のシャツを肘までまくった姿で、手を拭きながらにっこり。
「おかえり〜はるる〜無事の様でなにより〜!出迎えらんなくてごめんね〜」
「ただいま〜!一成」
「ちょーど良かったさ〜芋、茹でといてってはるる言ってたじゃん〜?」
そうそう、じゃがいもを茹でておくのをお願いしてたのでした。
「ありがとー!助かるー」
なにかとよく俺の手伝いに励んでくれる武士道、その中でも一成はいちばん料理上手で、いろいろ気が利くのだ。
「たぶんポテサラだと想ったから〜人参も茹でて、パリパリオニオンも作っといた〜」
なんですって…!!
一瞬で、この室内のなにもかもの中で、一際眩しく光り輝く存在になった一成。
もともと華やかな存在感ある子だけれども。
今日ほど、白いコック服姿が似合うのではないか(作者注:はるとの人を誉める時の最上の表現です)と、想った日はありません…!!
「一成っ…!!ありがとう〜!!大好きっ!!」
「うわっと〜…はるるったら〜俺も好き好き〜」
想わず、ダイブするように一成に突っ込んでいったら、細身だけど筋肉質で高身長の一成さまは、あっさりといつものように受け止めてくれた。
「「「「副長、ズルい〜!お母さん、俺らも頑張ったよー!」」」」
「お。役得だな〜一成!ま、料理じゃ一成には叶わねぇしな〜」
「皆もほんとうにありがとうね!皆、大好きだってば!!さ、一刻も早くごはんにしようね〜!」
ちょっと間の一成とのハグの後、すぐさま洗面所へ向かった俺は、リビングに漂う微妙な空気を察することなく、鼻歌混じりで手を洗い、うがいにいそしんだ。
「「「「「「『皆』、か……」」」」」」
「………」
「「「「美山も一緒になって沈黙するなんて、生意気ー!」」」」
「うひゃひゃっ、赤狼が固まってら!」
「う〜ん…はるる、相変わらずいー匂いだったけど〜」
「「「「副長、ずっりー!」」」」
「あ?んだよ一成、何か気になんのか?」
「う〜ん……微かに香ったあの匂い…よく知ってる誰かっぽい〜…誰だっけな〜」
「「「「「「……!」」」」」」
「あっは、ミキティまで固まり過ぎだっての〜マジで気を付けるべきは明日からですけどね〜」
ほんとうはすべて、今日から―――…いや、最初から、始まっていたのだ。
2010--09-30 23:14筆[ 158/761 ][*prev] [next#]
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