29.銀いろ狼ちゃんの計算(2)
はるるの言いつけを守って、仁とメンバーと待ち合わせ、必要なブツを仕入れちゃいました、マジ俺ら(つか、俺)、超!良いコ。
「たーのーも〜!開けやがれ〜ミキティー!居るのはわかってんだ〜!今すぐ開けねーと鍵ぶっ壊しちまうぞ〜はるるには『ミキティーが開けてくれなかったから…』って涙ながらに訴えんぞ〜!」
「一成、うるせぇ…」
「「「「副長、どうかお静かに…」」」」
どんどん、ドカドカ、傷がつかない程度に音を立てて扉を殴りつけ蹴りつけた、そーちょーもメンバーも辟易しちゃってるのは、後ではるるに怒られるとでも想ってんの?
「どーせ向こう3軒両隣、誰も帰って来てねぇって〜ミキティーのことだから、激しすぎた昨夜の所為でまだ夢の中かも知んねぇじゃん〜」
更に扉を殴りつけようとした、ら。
「……うるっせぇな……」
あーらら、ご機嫌ナナメ君。
風呂上がりチックなミキティー登場!
威嚇してるつもりなのか、どっかのなんちゃら海溝みてーな深い皺を眉間に寄せながら、低く唸って来た。
まぁ…躾がなってないこと〜!
無理もないか、まだ、はるるが来て4日目だ。
コイツは何かとありゃ下界に降りるし〜、正味、交流時間は24時間ないぐらいか…?
人慣れしてない狼ちゃんが、はるるお母さんの教育でどんな風に変化して行くかなんて、興味ないけどね〜。
「グッドイ〜ブニング、ミキティー!朝ぶり〜!」
「よ!赤狼、酒は抜けたか?」
「「「「やっ!こっわいお顔〜引くわ〜」」」」
「あんたら……うるっせぇ。あいつなら、まだ戻ってねぇよ」
うんざりと下ろした髪をガシガシ掻く美山樹、その時、誰も気づかなかっただろ〜けど。
一瞬、ぴくりと俺の片眉が引きつった。
「「「「「「知ってるに決まってんだろ、バーカバーカ!」」」」」」
「……あぁ?!」
どこまでも反抗的なミキティーの鼻先に、はるるから頼まれたブツの入った、スーパーの袋をガサガサ突き付けた。
益々怪訝な顔で一戦構える雰囲気を醸し出す、マジお前って軽卒ね〜。
修行がなってねぇよ、ミキティー。
その様子だと、アッチのほうも早いんじゃね?
軽率で、早い男は嫌われるぜ〜!
「はるるのおつかいで来たなり〜はるる、用事が立て込んで遅くなるから〜あっれ、ミキティ、聞いてなかった〜?まさか今日が鍋だっつーのは知ってるでしょ〜?はるるが帰るまでに、俺らはいろいろ準備しなくちゃならないのさ〜わかったら、通してね〜?」
「「「「「お邪魔しまーす!」」」」」
まだ納得してない顔のミキティーを押し退けて、どやどやと室内へ上がった。
ふ〜やれやれ〜!
はるるの気配が落ち着く〜!
既にこの部屋、はるる化してる。
狼ちゃんは果たして、優秀で可愛い番犬になれるのかな〜?
「なぁ一成、もう鍋、火ぃかけてて良いんだよな?」
「んーダシは取ってあるっつってた〜手羽元入れて灰汁取っておいてね!だってさ〜」
「了解!」
「「「「副長、俺らは?!」」」」
「お前らは〜手分けして炊飯と具材カット、じゃがいも洗って茹でるのと、テーブルのセッティングね〜」
「「「「合点でい!」」」」
各自慣れた様子でキッチンへ散った、リビングにはミキティーと俺だけ。
仁がちらっとこっちを見てたけど、アレは了承の視線だったと勝手に解釈する。
ミキティーめ、さっき起きたばっかりってところか、心優しいはるるが残してってくれたのだろう、朝昼メシの途中だったみたいだ。
ソファーに座るなり、怠そうにもしゃもしゃ咀嚼し始めた。
「あんたら、何でもう元気なんスか…」
「ミキティーとは場数が違うっつーの〜それ言ったら、アノ段階で余裕で帰ってったせーとかいちょーのが化けモノでしょ〜」
「……あんなの、人間じゃないスよ」
「あっはは、ミキティー、言うね〜。けどさぁ?」
ソファーの前に、立ちはだかった。
「やんねぇよ〜?」
「…は?」
俺の所為で影が落ちた顔を上げる、何も知らない狼ちゃん。
その眉間の皺すら、無邪気に見えて。
「美山樹、てめぇに陽大はやらねぇつってんだよ」
超ウゼぇ。
「…は…?何を、」
「まだ何もわかってねぇだろうな…?元からてめぇの気持ちがてめぇで見えてねぇし?ま、てめぇ個人の事なんかどうでも良い。はるるにちょっとでも手ぇ出したり、余計な感情持ったら許さねぇ」
「…意味わかんねぇ…一成サン、あんたに何の権限があって、んな事」
「陽大に惚れてる」
ソファーを殴りつけた拳は、カワイイ狼ちゃんの顔の真横を掠めた。
「だからわかっちゃうんだよね〜?ミキティーが遅かれ早かれはるるに惹かれちゃうだろ〜って事も、既にチョッピリ惹かれ始めちゃってるだろ〜って事も。悪い芽ぇは早く摘むに限るじゃん〜?それが俺が『武士道』の副張ってる所以でもあるし〜?はるるの同室っていう恩恵は、大目に見てあげないでもないけど〜」
目を見張って、何も言わない美山樹。
俺に確信深めさせてどうするよ〜お前。
「はるるは誰にも渡さねぇ。『武士道』の唯一無二だ。そもそもてめぇじゃ役不足なんだよ」
相変わらず何も言わない、沈黙したままの狼ちゃんを突き放した。
「マジになっちゃってごめんね〜ミキティ?けど、はるるに関しては引けないから〜ご意見ご感想は度胸と拳でお示し下さいませ〜」
お前が気づいてたら凄いけど。
無理だろうね。
もっと修行しな〜!
ま、俺も、相手がお前だから、わざといろいろ手駒を出せるだけでね。
「一成〜!灰汁、パねぇ!!キリがねぇ…!」
「「「「副長〜何かとヤバいっす〜!!」」」」
「はいよ〜」
加減はしない、できない。
キッチンからの呼び掛けに応えながら、口角が上がった。
はるるは、誰にも渡さない。
永遠に武士道のお母さんさ〜!
2010-09-24 23:23筆[ 156/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -