27


 お茶をぐいっと飲み干して、十八さんは息を吐いた。
 「とにかく、明日から気を付けて、はるくん。何かあったらいつでも構わないからすぐに連絡して?1人で抱えこまない様に!」
 「はい、わかりました」
 「あぁ……その良い返事が逆に心配だ〜…」
 「十八さん、大丈夫ですよ!同室者の美山さんは親切な御方ですし、クラスの皆さんも個性的な方ばかりで楽しくなりそうだし…『武士道』の皆がいるのも心強いですし!」
 そう言ったら、十八さんがぽかんとした。
 何かおかしなことを言っただろうか?
 首を傾げると、もっと首を傾げられた。

 「はるくんの同室者って、美山君だよね…?」
 「はい!」
 「クラスは1年A組で、合原君や音成君や一舎君っていう目立った存在が居る、業田先生のクラスだよね…?」
 「はい!」
 更に首を傾げる十八さんに合わせて、俺も首を傾げ続ける。
 「美山君が、親切…?」
 「はい!とっても親切に接してくださってるんですよ。寮から講堂まで案内してくださったり、恥ずかしながら早速手料理を披露したら、残さず召し上がってくださって、そのお礼だと食堂で奢って下さったり…」
 「あの美山君が…!且つ、クラスが楽しくなりそう…?」
 「はい!合原さんも音成さんも一舎さんも、初日からお声をかけてくださって、クラスの皆さんと一緒に食堂でお昼ごはんを頂きました。何より美山さんも皆さんも、俺のあのクセ…『オカン節』を発動させてしまった後も、変わりなく接してくださって、心の広い御方ばかりで…恐縮ながらほっとしてます」

 十八さんは、ぽかんとしたまんま。
 お茶のおかわりでも入れて来ようかな。
 ぽかんとなさる原因がわからないままに、マイペースにそんなことを想い、立ち上がろうとしたら。
 「…もう1度確認するけど、はるくんが言ってるのは、美山樹君と合原心春君と音成大介君と一舎祐君達の事だよね…?」
 「はい、そうですよ!まさか、同姓同名の方がいらっしゃるんですか?」
 これだけ大きな学園だと有り得るかも知れない。
 十八さんは緩く首を振り、そうかぁ…と呟いた。

 「それなら、良かった……」

 心の底から吐き出された、安堵の言葉。
 心配でいっぱいだった瞳が、普段の十八さんらしく、穏やかな色に変わった。
 緊迫した空気から、ほのぼのとした空気が戻って来て、俺の肩の力も抜けた。

 「僕はもっと、陽子さんみたいにはるくんを信頼しなくちゃね。はるくんなら、何処に居たって大丈夫だよね。よく陽子さんに笑われるのにね、陽子さんとはるくんの事を心配し過ぎだって、過保護だって…」
 ソファーに背をもたれさせ、苦笑して、十八さんは俺を見つめた。
 「ごめんね、はるくん」
 「そんな、謝らないでください、十八さん!心配して気にかけて頂けることは、とっても嬉しいです。無関心じゃないんだなって…その…」
 もごもご語尾を詰まらせる俺の頭に、ぽんっと大きな手が乗った。

 「うん…僕は、生まれて初めて心の底から守りたいって想える、大切な人達が出来て、それで躍起になってるんだ。でも本当の愛情って、先ずは信頼する事だって…そう君達から教わったのにまだまだだなぁ…つい過剰に心配して関心を向け過ぎてしまう」

 胸が、詰まる。
 十八さんの手から伝わるぬくもりは、つまり、十八さんの気持ちそのもので。
 あったかい。
 このあったかさに、縋りたくなる。
 ほんとうは俺は、とっくにあなたのことを信頼していて、家族になりたい、家族だって想ってるのに。
 「美山君やクラスの皆と打ち解けられそうなら、良かった…はるくんならきっと、此所でも中学の頃みたいに沢山友達が出来る。『武士道』の皆と友達なら、この先々本当に心強いと想う。はるくんの方がよく知っているだろうけど、彼等は強いからね」

 だけど、と、優しい瞳が、心ごと包みこんでくれる。


 「僕はいつもはるくんの事を気にかけているよ。信頼する、でも、何かあったら、友達にも打ち明けられそうになかったらいつでもおいで。話が出来なくても、側に居る事は出来る。それが家族だものね。勿論、何もなくても顔を見せに来て欲しいし、どんな些細な事でも良い。話したい事があったらいつでもおいで」

 君は、独りじゃないからね。
 
 
 十八さんに、ほんとうに伝えたいことが、喉に詰まっている。
 まだ言えない分、精一杯笑って、何度も頷いた。
 「俺が1番心強く想ってるのは、十八さんが理事長さまだっていうことです」
 そんな風に、遠回りな言葉にすり替えながら。
 「この学園で描かれて行くはるくんのブログ、楽しみにしてるよ」
 十八さんの手は、ただ優しくて、俺の頭を撫で続けてくれた。



 2010-09-21 08:57筆


[ 154/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -