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 床から救出後、しばらくぼんやりと、ソファーに腰かけていた十八さん。
 ケガはないかとおろおろしていたら、やにわにふっかぁいため息を吐かれた。
 「……どう回避しようと、元から縁があったし、いずれは遭遇していたって事か……」
 ぐったりした呟きに、目をぱちくり、苦笑した。
 「はい!さすがに風紀委員さまは顔見知りじゃなかったのですが…この学校に元々ご縁があったみたいで、驚きつつも嬉しいんですよ〜」
 「はるくん……そんな呑気な…!」
 がくうっと肩を落とす十八さんに、首を傾げるしかない。
 のんき?かなぁ…おっとりしてるとは、よく言われるけど。


 「良いかい?3大勢力の事は散々話したよね…?
 友達や幼馴染みだったのはやむを得ないけど、彼等はこの学園で多大な影響力を持つ上、多数の親衛隊を抱えている。外部生のはるくんが彼等と仲が良い、初日から接触したっていうのは格好のゴシップなんだよ?男の嫉妬はね、女の嫉妬よりも醜い…。
 3大勢力はね、役職上の権力を持っているだけじゃない。実際に見ての通り、容姿に恵まれ頭脳や運動神経も申し分なく、上流階級の御子息揃いだ。一般生徒は各家の事情から、彼等にどうにか近付き、『どんな形でも良いから』コネクションを作りたくて仕方がない…一分の親衛隊にも不穏な動きはあるけど、1番の問題は一般生徒達なんだ。
 虎視眈々と機会を狙っている彼等が、外からふわっとやって来たはるくんと3大勢力が仲良しと知ろうものなら…!!はるくんのクラスにもその手の子達が溢れているし…ああ、彼等の嫉妬がはるくんの身に…!!はるくんが…!!危険…!!やっぱり、僕の身内だから手を出すなと、公表した方が…!!」


 身震いしながら動転している十八さんに、俺はぽかんとするしかなくって。

 「十八さん、そんな〜大げさですよ〜」
 想わずけらけら笑ってしまったら。
 真摯な眼差しが返って来た。


 「笑い事じゃないんだってば…!子供間の事だからと、大人が手を出せない所で問題が多発しているんだよ。或いは彼等は親の権力を平気で振りかざし、自らを正当化する事に長けている。はるくん、甘く見ていたら痛い目に遭うのははるくんなんだよ…?

 まだよくわからないかも知れないけど…3大勢力はね、その中で戦っているんだ。

 だから可能な限り、人目に触れる場所で3大勢力に近付いてはならない。目立つ行動は控えた方が良い。僕は、いざとなったらはるくんとの関係を公表する覚悟がある。でもはるくんの『一般生徒として学校で過ごしたい』意思も尊重したいから。
 お願いだから、よく肝に銘じておいて欲しい。僕の学園の事だ、僕の生徒達の事だから信頼したいけど、現実はそう甘くないんだよ…お金と権力が絡むと、どうしても人は弱くなるものだから…強さを保てるのは少数だから」


 十八さんが、3大勢力に近づかないほうがいいって言っていたのは、「その中で戦っている」から…?

 武士道の皆、生徒会の皆さま、風紀委員の…渡久山先輩の顔が浮かんだ。
 『俺達の世界は狭い』
 『自然な想いじゃないから、この学園は絶えず荒れるんだろうね』
 渡久山先輩の苦笑混じりの言葉。
 それから…
 『此所は隔離されてるからな』
 『自分を演じてんだよ』
 『お前ならいつかわかるかもな。素のままより、演じた方が面白い事がある』
 生徒会長さまの、大人びた横顔が想い浮かんだ。

 皆さま、何かとても大きなものを抱えていらっしゃる…?

 「わかりました、十八さん。重々気をつけて行動するようにします。学校が広いし、学年も一部の方とは違いますから、遭遇することもほとんどないと想われますし…大丈夫です。そもそも俺、地味な存在ですから」
 「……はるくんはね〜…一見大人しそうに見えるけど、知れば知る程魅力がね〜…目がキラキラだし…半端ないからね〜…まぁ、その辺りは3大勢力の方が心得ているだろうけどね〜…天谷君はちょっと心配だなぁ…」
 「ひーちゃんは意外とできる子ですよ!」
 「ひーちゃんとか呼んじゃう仲なんだね…」
 「はい!幼馴染みですから!ひーちゃんが生徒会に入っていることにびっくりです〜」
 「あまり素行はよろしくないようだけどね…逃げ回ってばかりで…生徒会の皆がよく般若の形相で追い回してるよ…」
 「…そうなんですね…人目に触れない所で注意しておきます…」
 
 2人で、ため息。
 それから十八さんは、そこまで接触してるなら、1番大事なことを言っておこう!と手を打った。
 

 「はるくん。生徒会長の柾昴君には、一般生徒云々よりも、1番近付かない方が良い」


 へっ?
 「生徒会長さまですか?最もご縁がない御方ですが…あぁ、会長さまの得体の知れない…底知れなさや大人びているところ、十八さんも怪しいと想います?」
 「男のロマン同盟」としては、遠くからしっかり観察させて頂きますけれども!
 「ん?はるくんにしては珍しい人物観だねぇ…確かに底知れない器量の大きさを感じるけど、怪しいと言うか、違うよ〜」
 違う?


 「柾君は、すごく良い子だからね」


 すごくいい子?!
 生徒会長さまが、いい子…!!

 あの、何かと爆笑しておられた、茂みから登場したよくわからない先輩が…?!
 十八さんをもってして、すごくいい子と言わせる、その心ははたして!
 「すごく良い子だから、近付かない方が良い。彼はこの学園で、言い方が悪いけど異端児だ。優しさも冷酷さも持ち合わせた、達観した大人の様にバランスが取れてる。彼に関わったらはるくん、振り回されるよ。彼に悪意はないけどね、はるくんと柾君は相反する磁石の様なものだから」
 なるほど〜…???
 わかったようなわからないようなまま、十八さんがあまりに真剣なものだから、黙ってこくこくと頷いた。
 会長さまはS極っぽいな、俺がN極かな???



 2009-09-20 23:59筆


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