25.お母さん、デッカい小動物と語らう


 「「ふー……」」

 感情を放出させ、すっかり落ち着いた十八さんと俺は、お茶タイムへ突入。
 数日前と同じくソファーに並んで座り、十八さんが仕入れてくれた、桜がブレンドされたほかほかの紅茶をミルクで合わせつつ、桜サブレをかじってにこにこ。
 ああ、桜尽くしの1日、バンザイ…!!
 しばらく、ほのぼのとした時間が流れた。

 「はるくん、このサブレ、甘さ控え目で最高だよ〜…」
 「よかったです〜」
 「やめられない、とまらない〜」
 「へへ〜某スナック菓子級ですか〜?」
 「それ以上だよ〜」
 「またまた〜でも、嬉しいです〜」
 「お土産もあるなんて、こっちこそ嬉しいナ〜陽子さんも喜ぶよ〜」
 「その為にも甘さ控えめなんです〜」
 「成る程〜」
 「へへ〜」

 ほのぼの・サクサク・ほのぼの・ごくごく・ほのぼの・サクサク……

 「って、こんな呑気にティーパーティーしている場合じゃなかった…!!」
 「ティーパーティー…!?十八さん、これはパーティーなんですか…!」
 「だってはるくんと2人っきりで会うの、3日と4時間ぶりだし!久々の再会イコール、何だってパーティーになるし!」
 「3日と4時間…!!」
 「いやいや、それはさておき…!!はるくんに確かめたい事があるんだよ!重要な事!!」
 俺に、確かめたいこと。
 それも、重要なこと。
 心当たりがあり過ぎて、内心冷や汗ものながら、へらりと笑って首を傾げたら。

 「…そんな…そんな『何にも知らないワン!』『クウン?』みたいな…そんな顔したって、駄目なんだからね…!!」
 十八さんは片手で目を覆って、何かを吹っ切るように強くかぶりを振られた。
 知らないわん…?
 くうん…?
 純粋に首が傾いだ。
 どういう顔なんだか、俺……
 負けないんだから!とか呟きながら、十八さんは2・3回深呼吸をくり返して、俺に向き直った。
 「はるくん!!」
 「はい!」
 その勢いに、想わず背筋が伸びる。
 なんだか寂しそうに眉を顰めながら、十八さんは言った。


 「初日から3大勢力と接触したばかりか、クラスメイト共々、食堂で昼食を取っていたとか、放送部の十左近君や寮監の所古君とも会ったと聞いている。これは本当かい?」


 嘘だと言って!と願うように語りかける瞳を、まっすぐに見つめて。
 嘘なんか、吐けるわけない。
 十八さんに嘘は吐きたくない。

 「ほんとうです」

 どういった形で十八さんのお耳に届いているのか、わからないけれど。
 きっともう、大体のことは掴んでおられる中、嘘だと信じたかったのだろうか、十八さんは俺の返事を聞くなりがくりと肩を落とした。
 俺は言葉を続けようとしたけれど、か細い声にゆるりと遮られた。
 「……ごめんね、はるくん……」
 「十八さん…?どうして十八さんが、謝ることなんて…」
 十八さんはまたかぶりを振って、ため息を吐き、俺を見つめた。

 「ごめん…本当にごめん。はるくんの入学が決まった段階で、絶対に守ってみせようと想った。後ろ暗い話、理事長としての権限を振りかざしてでも……僕はね、この学園の事が好きだよ。様々な問題を抱えているけど、好きなんだ。
 だから、はるくんが3年間楽しく過ごせる様に、出来得る限り厄介事から隔離して、充実した高校生活を送って欲しいって想ったんだ。それなのに、何も出来なかった…クラスはあまり穏やかではないクラスだし、寮の同室者の噂も良いものじゃない、初日から3大勢力と接触するし…」

 しょんぼりと項垂れる十八さんに、今度は俺がかぶりを振った。
 十八さんの心配、気遣いはほんとうに嬉しい。
 とても有り難い。
 こんな広大な、幼等部から大学部まである学校の理事長という、すごく忙しい方が俺のことを案じてくれている。
 けれど。
 「ありがとうございます、十八さん。そんなに想って頂けて、すっごく嬉しいです」
 「でも、結局何も出来なかったから」

 「いいえ、とんでもないです。そのお心だけで十分ですから!あの…俺も驚いている、衝撃の事実があるんですが…」
 「えぇっ?!な、何?!衝撃の事実って…!!」
 「わー、そんなに驚かないで下さい!そんな大したことじゃないかも知れないですし!」
 「そ、そう…?じゃ、言ってみて…?」
 「は、はい…あのぅ…俺が夜遊びしてた時代があるじゃないですか…?」
 「あ、あぁ…陽子さんにバレバレだったっていうアレ…」
 「そうですそうです、バレバレだったアレ…あの頃に知り合った友だちが、実はここの3大勢力さまの1つ、『武士道』の皆で…」

 「ええ…っ?!マジでっ?!はるくんが危険区域に行かない様に気を付けてくれたり、絡まれたら庇ってくれたり、遅くなったら家まで送ってくれたり、陽子さんと俺がどうしても夜居ない時は一緒に晩ごはん食べたりしてた…それが『武士道』?!あの、加々野井君や成勢君は、はるくんの友達だったの?!」
 「かがのい君となるせ君…?あ、あぁ、仁と一成ですよね。そうなんです」
 「名前呼び…!しかも1歳上の友達…!!」
 目を丸くする十八さんに、もう1つの事実を伝えようか伝えまいか…

 「俺もまさか、2人が十八さんの学校の生徒だとは想ってもみなくて…お互い名前だけの自己紹介で、詳細を知らないまま仲良くしていたものですから…」
 「そ、そう、なんだ……『武士道』の幹部の殆どが在籍しているそうだけど…?」
 「はい…皆、知ってます。既にトンチンカンちゃん&よしこちゃんとは会いました」
 「トンチンカンちゃん&よしこちゃん…!!言い得て妙な…魔法使い●リーだよね…?サ●ーの親友の女の子とその子の3つ子の弟の…」
 「そうです、そうです!他の子たちにはまだ会ってないんですが、近々会えると想います」
 なんとまぁ…と呟きながら、額を抱える十八さん。
 その袖をツンっと引っ張って、先延ばししてもどうしようもないから言っておこうと、口を開いた。

 「もう1つ、あるんです、十八さん」
 「もう1つ…?!この上、まだ何か…!!」
 青ざめる十八さんに申し訳なくてしょうがないけれど、今を逃せば次にいつチャンスがあるか…
 メールや電話で伝えるのは軽過ぎるし、想いたったが吉日!!
 今言うしかない!!
 「アイドルさまたち…生徒会の…」
 「アイドル…!!と言えば……せ、生徒会の…?!」
 緊迫した空気が漂う。
 一寸の余裕もない。
 強張った顔を突き合わせながら、俺は意を決して告白した。

 「生徒会さまの天谷悠ことひーちゃんは、昔住んでた家の隣に住んでいた幼馴染みで、小学校までずっと一緒でした!」
 
 あろうことか、十八さんはものの見事にバッターン!!
 ソファーから落ちてしまったのであった。



 !2010-09-19 22:17筆


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