13.双子猫のきもち 創刊号


 『まぁ、なんて可愛いんでしょう…!』
 『お人形みたいだわ』
 『愛くるしいこと』
 『しかし、頭の先から爪先までよく似てますなぁ』
 『仕草や声まで何もかも同じだ』
 『どちらがどちらか、全く見分けがつかない』

 
 『えぇ、そうなんですのよ』
 『親の我々にも見分けがつかない程でして』


 でも、双子だから。
 どっちがどっちでも良いよね。
 優月は満月。
 満月は優月。
 どっちだって、一緒でしょう。
 どっちだって変わらないでしょう。
 あなた達だって、お互いがよくわからないぐらいじゃない。
 双子だから。
 双子だから。
 双子だから。


 「「どっちが優月で、どっちが満月でしょう?」」


 だから?
 じゃあ、どうして2人は別々に存在するの。
 どうしても絶対に一緒に居なくちゃならないの?
 双子だから、可愛い。
 双子だから、見分けがつかなくてもいい。
 双子だから、何もかも一緒。
 1人じゃ駄目なんだ。
 1人1人のことは、見てもらえないんだ。
 別々に存在しているのに、違うところもあるのに、わかってもらえないんだ。
 2人じゃないと、要らないんだね。
 2人はお人形みたいに、同じ顔で同じ仕草でにこにこしていなくちゃいけないんだね。

 大人達は、よくわかっていて、よくわかっていない。

 そうだよ、僕らはひとりでふたり。
 ふたりでひとり。

 どっちが欠けても立っていられない、可愛いお人形。
 周りの望み通りに良い子にしていれば、思惑通りで安心した大人達に、大層可愛がってもらえる。
 可愛がってもらう為に生きているような、見世物の愛玩人形。
 本当の僕らには、誰も興味がない、用がない。
 『満月』
 違うよ、ママ。
 『優月』
 違うよ、パパ。
 『あなた達ときたら本当にそっくりなんだから!』
 『まったく不思議なものだな、双子というやつは』
 しょうがない。
 パパもママも、忙しい。

 だけど。
 
 どうして、ちゃんと見てくれないの。
 
 僕らは、どうしたらいいの。
 いつまで、嘘をついていたらいいの。
 いつになったら、「可愛い」は消えてなくなるの。

 
 『ははは!どっちかなぐったら、もうかたっぽもぜったいなくな!』
 『ふたご、すげー!』
 『おもしろい!』
 『ふたごなんて、けど、だっさいの!』
 『そっくりいっしょって、きみがわるい!』
 泣いているちいさな僕らに、手を差し伸べてくれたのは、いつもこーちゃんだった。
 『イジメてるほうがだっせーよ!』
 相手が何人だって、こーちゃん1人で十分だった。
 ちっちゃい頃から今まで、いつだってそう。
 1つ上のこーちゃんは、いつも強かった。


 『ゆー、みー、なくな!おとこがかわいくてもいい、けど、かんたんにないちゃだめだ。ないてないで、じぶんでたたかうんだ。どうしたらいいか、ちゃんとかんがえるんだ。ゆーもみーもひとりじゃない、ゆーにはみーが、みーにはゆーがいるだろ?ひとりじゃなくて、ふたりでかんがえられるから、さいきょうじゃん?』


 こーちゃんは、最初から、僕たちを見つけてくれた。
 1人1人を見てくれた。
 憧れのこーちゃんに言われたから、考えた。

 「可愛い双子」を利用すること。
 いつも一緒の仲良し双子、だから強くなれるはず。
 (いつか、僕たちだってこーちゃんみたいに男らしく、強くなるんだ)
 そして、なぞなぞを考えた。
 どっちが優月で、どっちが満月でしょう。
 わからないなら、それでいい。
 わからないヤツに、用はない、本当を見せなければいい。
 わかろうともしないヤツは、永遠にわからないままでいい。
 それだけの確認。

 わかってくれないヤツばっかりだっていうことは、もう、とっくに知っていた。
 
 誰も答えられないのは、わかっていた。
 
 誰だって答えられないように、なにもかも一緒にお揃いに化けていたのだから。

 「ゆー…」
 「みー…」
 前陽大とバイバイした後、どちらともなく呟いた。
 こーちゃん以外に、生徒会以外に、僕らを見てくれるヤツが現れた。
 こーちゃんだってよく知らないような(だって、こーちゃんは野生のカンでわかるって言ってた)、僕らの違いをもう見つけてくれていた。
 ほんの少しの時間で、ちゃんと、見てくれた。
 僕らの気持ちを、わかろうとしてくれた。
 お互い、途方に暮れた顔だ。
 誰よりも僕たちが想っている、そっくりの同じ顔、向かい合えば鏡に映したように同じ顔。
 
 見つけてもらえたことは、嬉しくて。
 でも、折角のとっておきのなぞなぞが、簡単に答えられて悔しい気もして。
 複雑な気持ち。
 素直じゃない僕らは、向かい合わせた顔を歪めて、照れくさくて。
 「「行こっか…」」
 手を繋いで、目的地へ足を踏みだした。
 いつもと同じ動作も、なんだか、ふわふわあったかい。
 あったかい笑顔を想いだしながら、なんとなく、足取り軽く歩いた。
 優月も満月も、おんなじ気持ち。
 双子だから、わかりあえる気持ちが、今日はとてもうれしかった。

 (こーちゃんに会ったら、このこと、話してみよう)
 (それとも、秘密がいいかな?)



 2010-09-06 23:32筆


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