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何がほんとうで、何が偽りなのやら…やれやれ。
七々原さまたちと並んで座った状態で、3人揃って神妙な面持ちになり、しばらく沈黙した。
御2方と、俺の沈黙は、また別の意味だろうけれど。
バカ笑いしていた会長さま。
今にも寝そうな欠伸をくり返していた会長さま。
演じているのだと、面白そうに言い放った会長さま。
ふいに、ひどく冷めた表情を目に浮かべた会長さま。
そうかと想えば、目を細めてほんとうに微笑った会長さま。
ぽんぽんと、俺の頭を撫でていったこと。
なにもかもすべてが、偽りではないだろう。
頭に触れた大きな手は、確かに温かかった。
俺にわかることは、この学校の生徒会長を務める、柾昴先輩という方は一筋縄では行かない、果てしなく複雑怪奇な御方だということだ。
「…でもねぇ、前陽大?」
「…あのねぇ、前陽大?」
ふう、と同時のため息を契機に沈黙が破られ、呼び掛けられて、両隣に視線を向けた。
「はい?」
俺の視線に、御2方は、照れくさそうに目をすがめ。
「「…こーちゃん、めちゃくちゃだけど、良いヤツ」」
もじもじと、手足をパタパタさせながら、御2方は再び交互に語り始めた。
「幼等部の時、イジメられてたら助けてくれた」
「こーちゃん、チビの頃からケンカ強かった!」
「給食で食べられないもの、こーちゃんが食べてくれた」
「お昼寝で寝られない時、ぽんぽんってあやしてくれた」
「中等部から寮になった時、こーちゃんの部屋に皆でよく集まってた」
「りっちゃんとひさしとそーすけと、いつも6人でいっしょにいた!」
「こーちゃんのベッドに、6人でぎゅうぎゅうで寝た!」
「眠れないって言ったら、変なお伽話してくれたっけ!」
「かいちょーって、元かいちょーに絶対襲われるシステムだったけど〜」
「逆にこーちゃんが襲い返して喰っちゃって、システム廃止しちゃった」
微笑ましいエピソードの数々、それをうれしそうに話す七々原さまたちのお姿に、やっぱり、あの笑顔はほんとうだった筈だと、こっそり想った。
「……なるほど……つまるところ、この広大な学校を生徒代表として執り仕切る会長さまは、俺などには到底計り知れない深い御方なのだとお察しします」
「「うんうん。こーちゃん、複雑!」」
「今後、もう関わることはないでしょうけれども、多忙な会長さまの日々が穏やかでありますように…」
心から願っております、それでは会長さまのテリトリーから辞去させて頂きます…と、言おうとした俺を止めたのは、揃ってぶんぶんとかぶりを振る、七々原さまたちの仕草だった。
「「チチチ!前陽大、それは違うぜ!」」
う?
違う…?
人指し指を唇の前で振り、男らしく言ってのけた御2人さま。
「「前陽大、こーちゃんに絶対、気に入られた」」
は?
「こーちゃんのテリトリー、入って許されたの、前陽大だけ」
「ええっ?!そんな、まさか…実はお腹立ちだったかも知れませんし!」
「ノーノー!こーちゃん、怒ってたらその場で言う人だから」
「え、う、あの、隠していたとか…」
「ノーノー!こーちゃん、怒ってること、絶対に隠さない」
「しかも、こーちゃん、テリトリーのことなら譲らないよ」
「なのに、前陽大、ここに居たでしょ」
「出て行け!って言われてないでしょ」
「「前陽大、こーちゃんに気に入られちゃった」」
ご愁傷様、と言わんばかりに、俺に向けて手を合わせ拝む御2方。
呆然とする俺に、更なる追い討ち。
「「しかもこーちゃんは、我が『男のロマン同盟』の研究対象だ」」
なんですって…!
「十八でいちばんの男前はこーちゃんです」
「めちゃくちゃな人だけどこーちゃんです」
「顔良しスタイル良し頭良し!」
「スポーツ万能、ケンカ強い!」
「しかもヤツは腹筋が割れている!」
「身長だって180オーバーだぜい!」
「「これほど研究対象として魅力的な人物は他に居ません」」
お、仰る通り…!
会長さまは誰の目から見ても男らしいし…
同盟基準を満たしている!!
「「……ゆーもみーも前陽大が気に入っちゃった」」
動転する俺に、ぽっと頬を染めた御2方から、ぽそっとか細い呟きがもたらされた。
「ゆーもみーもこーちゃんも生徒会」
「アホひさしは、前陽大の幼馴染み」
「りっちゃんも前陽大、チェックしてる」
「そーすけは、食堂から前陽大に懐いた」
「「だから前陽大は、これからずっと、生徒会と縁がある運命なんだぜ」」
なんですって…!
これから、ずっと…?!
あの複雑怪奇な会長さまが率いられる、キラキラ眩いアイドルさま集団・生徒会さまとご縁が…ご縁が…ご縁……
「……えぇと……ふつつか者ですが、よろしくお願い致します…?」
「「わあい!ヨロシクオネガイイタシマス!」」
とりあえず、新な縁がもたらされたことに、感謝してみました。
2010-09-03 23:37筆[ 138/761 ][*prev] [next#]
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