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 がくがくと震える俺を、お揃いのキャッツアイ4つが、気の毒そうに見つめておられる。

 詐欺だ…!!
 詐欺に遭いました…!!
 入学2日目にして、生徒さんの頂点に君臨なさる、アイドルさまのリーダーさまから詐欺被害を受けました…
 って、どこからどう見ても、俺が不利じゃないですか。
 勝手に敷地内を徘徊し、勝手にここを気に入り、勝手に花見をしていた、俺の罪は大きい。
 法廷にて、整ったお顔立ちがうつくしく歪み、ニヒルに嘲笑なさる会長さまのお顔が安易に想像できた。
 うう…ひどい!!
 やはり世界は、弱肉強食なんだ。
 すっかり混乱の渦中の俺は、ぶつぶつと自己弁護を呟いた。


 「だって…だって…『俺のテリトリー』って仰るから、慌てて非礼をお詫びし立ち退こうと…そうだ、俺はちゃんと撤収しようとしたんだ…そうしたら会長さまが『勝手に言ってるだけ』だって、すこしも追い出そうとなさらなかったから…俺にはちゃんと撤収の覚悟があったのに…何がおかしいのか、散々人のこと笑うし…!
 あ、じゃあ、お弁当が『美味しい』とか『メシもフツーのメシ』とか仰ってたのも、全部全部、嘘…?
 俺が外部生なばかりに、からかわれ…はっ、これが噂の、殿上人のちょっとした戯れってやつか…!!俺はしがない町娘ならぬ町息子?町男?の配役…!!なんという…なんという恐ろしい、弱肉強食ピラミッド…!!」


 急に病み出した俺を、憐れむ眼差しで見守ってくださっていた、七々原さまたち。
 所在なさげにぶらぶらと足を揺すっておられた、けれど病み呟きが後半に差し掛かるにつれ、大きな瞳がますます大きく見開かれ、驚愕の表情へと変化し。
 両隣から、ずずいっと身を乗り出された。
 これぞ両手に子猫…いや、両手に花状態に我に返り、俺も七々原さまたちのご様子に目を見開いた。
 この世で1番、信じられないものを見た。
 未知との遭遇。
 まさに、そんなお顔をなさっておられたから。


 「「前陽大、もしかして…こーちゃんに会ったの…?!」」

 
 この見事なデュエットは今まで拝聴した中でも至上、ウィーン交響楽団からオファーが来そうなほど、完璧に折り重なっていた。
 「は、はい……あの、七々原さまたちがいらっしゃる前に……この後ろの茂みから、急に登場なさって…」
 「こーちゃん、どんなかんじだった?!」
 「え、あ、あの…えーと…ものすごく眠そうでした…しきりに欠伸なさっておられました」
 「こーちゃん、イライラしてなかった?!」
 「イライラは…してなかったです、たぶん…内心はお察しできませんが…非常に笑い上戸な御方だなぁっていう印象で…」

 「こーちゃん、笑ってたの…?」
 「はい……俺がなにか言う度、理解し難いところでツボに入られるようで…お腹抱えて笑っていらっしゃいました」
 「こーちゃん、何の話した…?」
 「……話……主に学校のことですが…新聞報道部?さんの存在に、気をつけるようにとか…」
 「こーちゃん、ずっとここにいた?」
 「…ずっと…というか…ええと、お腹がへっていらっしゃるようでしたので、お花見のために持ってきてた簡単なお弁当を、差し出がましくも分けっこして食べたり…」
 「こーちゃん、あっさり帰ったの?」
 「…はい、それはもう、あっさりと。眠たいから帰るって仰ってました」

 
 「「もしかして…こーちゃんと前陽大、このベンチに一緒に座った…?!」」


 鬼気迫るとばかりに、じいっと見据えられて、俺はごくりと喉を鳴らしながら。
 黙って、うなだれるように、頷いた。

 「ゆー…!」
 「みー…!」
 俺が頷いた途端、俺を真ん中にしたまま、七々原さまたちは悲愴な面立ちで、手を取り合って視線を交わされた。
 間にぎゅうぎゅうに挟まれた俺は、御2方の邪魔にならないように、ベンチの背へしっかりと身体を預け、縮こまっているのに精一杯でした。
 ハードな詰問だった…!!
 取り調べ、とも言うのだろうか。
 内容は当たり障りのないことばかりなのに、とてつもなくハードだった。
 俺への審判や、いかに…?
 目で会話なさっている、これぞまさに双子の神秘を目の当たりにしながら、天国の父さんに祈る気持ちで採決を待っていたらば。

 
 「「明日は、大雪かも知れない…!」」

 え…?

 「「もしくは、十八でオーロラが見えるかも知れない…!!」」

 ええ…!


 戸惑い、ぽかんとしている俺に、七々原さまたちは真剣な顔で、訥々と会長さまのことを語ってくださった。
 いわく、七々原さまたち含む生徒会アイドルメンバーさま全員、昨夜は会長さまと行動を共になさっていたらしい。
 今朝方、トラブルが発生し、会長さまは非常に機嫌を損ねられ、辺り構わず八つ当たり、散々暴れてさっさと御1人でご帰還。
 1度テンションが下降すると、幼馴染みの生徒会の皆さまであっても、誰にも止められないのだとか…

 こんな時に、会長さまに出くわした生徒は、かわいそうな生け贄の子羊そのもの。
 まして、学園を牛耳る3大勢力の各自が、学園内に有する「テリトリー」、そこへ誰かが侵入しようものなら、情け容赦なくその権力のままに鉄槌を下す…
 ここ、寮裏手の場所は会長さまにとって特に想い入れが深い所、それ故、生徒は誰1人、教職員や学園関係者だって絶対に近づかない、不可侵のテリトリー。
 元々が非常に気難しく、根っからの俺様気質、自己中心主義者の、「柾グループ」のお坊ちゃま。
 そんな人が、自分のテリトリーに侵入した一般生徒と普通に会話し、笑い、他人が作ったものを躊躇いなく口にするなど、有り得ない天変地異…

 って。

 会長さま…!!

 やはりのやはり、まったく油断ならない、まったく掴めない御方だ――…!!



 2010-09-02 23:03筆


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