4.お母さん、ラスボスにイラっ。
いつまでも笑っておられる生徒会長さまに、恐縮しつつ。
ほんとうに整ったお顔だ、笑っている一瞬一瞬、いつシャッターを切っても絵になるに違いないとか。
三日月のように細まる瞳は、大人びている反面、年相応に無邪気にも見えるなとか。
この御方はきっと、御自身の表情のコントロールが、故意にでも自然にでもできるのではないか…相手や状況に応じて、その場に最も相応しい表情、つまり空気を読むことに鋭敏で、人心掌握に長けていらっしゃるのだろうとか。
尚かつ、御自身の魅力の見せ方を、よく理解していらっしゃるような…それが相手を不快にさせる雰囲気ではないのは、奢らない自信と謙虚さを持ち合わせているからではないか。
やはり天性の能力と、上に立つ為の教育ないしは勉強を積まれ、身に着けていらっしゃるのだろう。
そんなことを、つらつらと考えている内、段々と…
むっと、なってきた。
生徒会長さまは、笑い上戸らしい。
音成さんだって、よく笑っておられた。
しかしながら、音成さんはいつもにこにこしていらっしゃる。
いつまでも引きずる笑い方じゃない、後腐れなくさっぱり笑ってケジメをつけられる。
それ故、爽やかだ。
周りがぱあっと明るくなる。
けれど、生徒会長さまは、ツボに入ったか何か知れないが、延々と笑っていらっしゃる。
先輩相手に、それもアイドルさまの頂点に立ち、生徒の代表として存在していらっしゃる会長さまに対し、想うことではないかも知れない。
が、しつこい。
しつこすぎる。
いつまで笑っていらっしゃるのか。
いかに整ったお顔立ち、写真に耐え得る一瞬一瞬と言えども、こちらの胸も胃ももやっとするような笑い方は頂けない。
お花見が罪ならば、俺が悪い。
学校の敷地内で花を愛でることが校則違反ならば、俺が悪い。
けれども、お花見は太古の昔から続いて来た、大和の伝統行事…本来は飲食せず、ひたすらに花を眺めて句をしたためる、雅やかな行事だったらしいものの、桜を愛する気持ちは昔も今も変わらないじゃないか。
ましてここは、人気(ひとけ)のない場所。
どなたさまの迷惑にもなっていない、迷惑ならばすぐに撤収する所存ですし、ゴミが出たら速やかに持ち帰ります、当然。
それなのに、何故いつまでも笑われなければならないのですか。
「……生徒会長さまは、一体どうなさったのですか?茂みからいきなり出ていらっしゃった際は、山の中だけに、猪かと想ってしまいましたが…」
だからつい、言葉にトゲを含んでしまうのは、仕方がないのです。
1度笑うのを止め、僅かに目を見張った後、会長さまはなんと、またも笑い始めた。
「はははっ…お前、マジ面白ぇわ。ナニ急に拗ねてんだよ?別に誰も責めてねえだろ。学園に桜が咲いてるから花見する、って自然に想いつく様な、感性豊かな生徒が居る事に驚いてんだよ。なんだ、この頬…!『皆のお母サン』でもムクれんのな」
なんということでしょう…!
会長さまは引き続き笑い始め、形の良い長い指が伸びて来たと想ったら、俺の頬を突つき始めた…!
「……やめてください、生徒会長さま…誰か来たら、」
「大福みてぇーもっちもち!つか誰も来ねえよ、こんな所。マイナーつったろ。俺しか知らねえし、俺のテリトリーだし?裏手っ側に抜け道あるんだ。あ、ここ、マジ猪出るから気ぃつけな。敷地内に入って来た事は無えけど」
なんですって…!
なんですって…!?
聞き捨てならないお言葉だらけの中、最も重要な単語を、俺の耳はきちんと聞き取っていた。
「俺しか知らねえし」は、まだ良しとしよう。
問題は、「俺のテリトリーだし」…?!
「大変失礼致しました…!こちらは生徒会長さまの管轄だったのですね…!それなのに俺と来たら、今年入学したばかりの1後輩でありながら、礼儀も弁えず想うままに言いたい事を…そればかりか、許可も得ず勝手に花見の暴挙…誠に申し訳ありません!!今すぐ、撤収させて頂きます!!
……あの、武士の情けで、校内でお花見可能な場所…ヒントで結構ですから、教えて頂ければ幸いです…」
一息で言い終えた、途端。
更に、生徒会長さまは、爆笑へヒートアップ。
………何故???
やはり、遠い存在の御方だけに、笑いのツボが理解できません…。
2010-08-27 23:01筆[ 131/761 ][*prev] [next#]
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