3.茂みから猪…ラスボス登場!
昨日必死に見た、生徒会&委員会名簿の記憶を呼び戻し、お名前とお顔を脳内で照合するのに、時間はそうかからなかった。
それ程に、アイドルの皆さまや諸先輩方は1度見たら忘れられない、華やかな衝撃だったから。
中でも皆さまの先頭に立っていらっしゃった、生徒会長さま、柾昴先輩は際立って印象が強い。
皆さま押し並べて高身長でスタイルよく、それぞれ整ったお顔立ちと、個性に即したセンスを有しておられた、お1人お1人がとても魅力的だった。
そんな皆さまの中、生徒会長さまはどなたさまよりも、瞳に光と力が在った。
コンサート…入学式の祝辞、食堂と、ほんの僅かな時間のことだけれど、居並ぶ皆さまの中でひとり、時折達観したような、独特の表情が目の中に浮かぶというか。
アイドルさまたちの中で、楽しそうになさっている反面、この時間が限られていることを骨身に染みて御存知のような…何せ大人びていらっしゃるのだ。
だからこそ、生徒の上に立てる生徒会長さまなのだろう。
親しく接したわけじゃない、俺のただの邪推だけれど。
合原さんが、泣きそうに見つめていらっしゃったのも、印象深い。
たくさんの方に慕われているであろう、1国の王様みたいに遠い先輩だ。
そんな御方が、ふいに背後から現れて、俺は心底驚き恐縮した。
「……アイドル様のリーダー様ぁ…?何だそりゃ…」
生徒会長さまは僅かに目を見張られて、片眉を下げ、可笑しそうに苦笑なさっておられる。
目は口ほどに物を言う。
その言葉そのものの御方だと、一昨日以上に想った。
いっそ恐ろしいぐらいに整い配置された、寸分の乱れもない美貌、ともすれば冷たく無機質になりそうな表情を、豊かなものに彩って見せているのは、目だ。
自然に、目に引き寄せられる。
それにしても、なんだかとても眠そうだ。
黒とグレーの不規則なシャドーストライプの、触り心地よさそうな長袖Tシャツの袖を肘まで無造作にまくり、首には先にシルバーの石と革のタグが付いたチョーカー、手首にはビッグフェイスの黒いメタリック時計…恐ろしく高級そうだ…、タイトなダメージジーンズに、履きつぶして良い味が出ている、カーキブラウンのゴツいワークブーツ。
このまま雑誌の表紙になりそうな装いだ。
眠そうに欠伸を噛み殺し、コンサート時よりボリュームが押さえられた髪をかき上げる、そんな仕草すら写真になりそうで。
「……つかお前、ナニしてんの…?寮の裏なんざ、誰も知らねえ超マイナーな場所だっつの」
「そうなんですか?俺はあの、お花見を…」
「は?花見?」
「校内に桜がたくさん咲いてるなあと、入学当初から目をつけておりまして…諸事情から寮近辺しか出歩けないものですから、ちょっとした散策がてらお花見を…すみません、学校案内にはよく目を通し、散策やお花見は禁じられていないと判断したのですが、もしかして校則違反でしょうか…?でしたら、すぐ撤収させて頂きます」
あわわと、緊張と恐縮から片づけにかかる俺を、生徒会長さまはなにやら呆然と見つめ。
数秒後、噴き出された。
「花見…!校則違反…!撤収…!お前、想像以上に面白いな…学園内で桜に惹かれて花見する様な酔狂な奴、初めて見た」
くくくっと喉を震わせ、目に涙さえ浮かべる生徒会長さまに、俺はいたたまれず赤面し、おろおろと身を縮こまらせていたのだった。
2010-08-26 11:33筆[ 130/761 ][*prev] [next#]
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