2.春を満き…ん…?!
十八町は、キレイな街だ。
理想の街と言ってもいい。
十八さんのご先祖さまも、もしかしたら、この山間に理想の街を作りたかったのかな。
整った環境で、子供たちがのびのびと勉強できる場所を。
のんびり歩きながら、景色を堪能し、激写しまくり、すっかり寮近辺に詳しくなったところで、お腹が寂しくなって来た。
桜並木が見渡せる、木材とアイアンで組まれたお洒落デザインのベンチへ、いそいそと腰かけた。
お昼は外で食べようと想って、簡単に用意して来たのです。
今朝方、ふらりと戻って来られて、それきり部屋に隠っていらっしゃる気配の美山さんにも置いて来た…余計なお世話かも知れないけれど、お揃いのお昼ごはん。
手ぬぐいで包んだ、竹編みのお弁当箱を取り出した。
粗く刻んだ梅と青じそ、香ばしく炒りつけたじゃこと人参のすりおろしを醤油で味つけしたふりかけと、2種類の混ぜごはんおにぎり。
鶏そぼろごはんのおにぎり。
シンプルな塩むすび、海苔は今日は後巻き。
菜の花のお浸しを薄焼きの卵で巻いたもの。
ウィンナーはもちろん、たこさん。
新じゃがと三つ葉のお味噌汁は、保温ポットに入れてある。
あったかい番茶もたっぷり持って来た。
うーむ…
ちょっとしたピクニック気分だ。
うつくしく咲き誇る桜を眺めながら、ひとり、静かなお昼ごはん。
皆でわいわい、にぎやかなごはんが好きだ。
でもたまに、ひとりでのんびりするのもいいものだ。
人の存在の有り難さを、しみじみ実感できるというか、再確認する行動というか…
やっぱり食事は誰かと取ったほうがたのしいって。
はらはらと舞い落ちる花びらを、目で追いながら。
気が早いけれど、来週の休日には武士道の皆を誘って、お花見したいなと想った。
しかしこの、じゃこと人参の手製ふりかけは我ながらおいしい。
武士道にも大好評のふりかけだ、またたくさん仕込もうっと。
明るい空の下、ほのぼのとおにぎりをパクつき、お味噌汁を味わいつつ、桜を楽しんだ。
誰も通らないなあ、静かだなあって想っていたら。
――ガサガサッ…――
ベンチの後ろに広がる深い茂みが、ふいに物音を立てた。
野生動物だろうか…?
雑食なら、お弁当を分けてあげるけれど。
敷地内にいるのは鳥やリスなどの小動物で、人に害を及ぼす動物はいないって、学校案内に書いてあった。
大丈夫だろうけれど…
――ガサガサガサ――
この物音、小動物のレベルじゃないような気がする。
山から迷いこんで来た、おおきな動物だったらどうしよう?
寮近辺のことだから、寮監さん…所古(いこま)先輩に連絡?
それとも二上さんに連絡?
これは風紀上の問題?
生徒会のテリトリー?
逃げたほうがいいのかな?
それとも十八町のことだから、どんな動物でも人に馴れてるかも?
無闇に騒いだら、相手もびっくりするだろう。
おおきな物音だけど、イヤな気配はしない。
姿を見てから判断しよう。
注意を向けつつ、もくもくとお昼ごはん続行。
「……あー怠ぃ……あ…?お前確か…前陽大か。何してんだ、こんな所で」
んん…?
おおきな動物だと想っていたら、目の前に現れたのは。
「アイドルさまの、リーダーさま…?」
2010-08-25 09:35筆[ 129/761 ][*prev] [next#]
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