72.子供たちは腹ぺこです


 テーブルの上をかどなしさんに拭いてもらい、皆で手分けしてお皿を出したり運んだりと忙しく動いた。
 「ん〜会計くん、そんな拭き方じゃ、はるるに叱られるよ〜」
 「…え…え?え?」
 「気合い入れて隅々まで拭きな。角も縁もな」
 「…はい。」
 仁と一成の指導で、テーブルはキレイに拭かれたようだった。
 「キレイにしてくださってありがとうございます、かどなしさん」
 「はると…おれ、おれ、がんばった……キレイ?」
 「はい!上出来です」
 「はると…!」
 「「「ほら、見つめ合ってないでどいたどいたー!」」」

 おっと、そうそう、早く運ばないと!

 炊きあがったごはんは、底からゆっくりと混ぜて蒸らし、杉の飯切り…十八さんに頂いた、いつかのお誕生日プレゼントなんだ…へ移し替えておく。
 土鍋で炊いた煮物は、カセットコンロをテーブルの上に出し、とろ火で更に煮こみ続ける。
 煮物の取り分けはとんすいでいいか、あとアクセントにわさびを豆皿に出しておこう。
 キャベツとりんごのサラダは、楓のボウル…これは母さんからのプレゼント…にどかんと盛った。
 焼きたての鮭は、細い長方形のお皿に2つへ分けて入れ、きのことレモンをあしらい、あさつきと白ごまを上からたっぷり!
 かぶの葉のお浸しは小鉢へ。

 正方形のリネンでできた、渋い濃紺のランチョンマットを各自の前に置き、桜の花弁を模した箸置き、杉箸、取り分け用の美濃焼の小皿を数枚、十草の飯碗、汁碗を並べた。
 「できたー!!」
 「「「おおっ…!」」」
 「…おー。」
 本日のあったか晩ごはん、完成!!
 あとは美山さんのお帰りを待つばかり。
 時計は6時半を過ぎたところ、もうすぐだ。

 「「じゃ、いただきま〜す」」
 「こら!仁!一成!美山さんがまだでしょ!!」
 さっさと手を合わせる2人に厳しく注意。
 「うまそーうまそー!いっただきまーす」
 「おとなりさん!いけません!」
 おとなりさんまでもが…!
 「はると……。」
 う…!
 かどなしさんまでもが、そんな切ない目で訴えて…!

 「い、いけません…!一家の大黒柱が帰って来るまでは!」
 「「「一家の大黒柱……誰が…?」」」
 「…おれ、ミキティの子、ちがう。」
 「皆さんが何と仰られてもですね、この部屋の主人は美山さんと俺であり、この晩ごはんはお世話になっている美山さんが主賓であり…とにかく、いい子で待ちましょうね」
 「「「「…はぁい…」」」」

 チクタク・チクタク・チクタク

 「……赤いお父さんもどき、遅いね〜」
 「……な〜」
 「……腹へったぁ…」
 「……へった。」
 「しっ!他のことを考えましょう」
 「「「「…はぁい…」」」」

 チクタク・チクタク・チクタク

 「TVでも観ましょうね!」
 「お、いーなそれ」
 「さんせーい、気が紛れそ〜」
 「笑えるヤツがいーな!」
 「……あ。料理の番組…。」
 ――ぶちっ――
 ――シーン――

 チクタク・チクタク・チクタク

 時計が秒針を刻む音。
 煮物がくつくつ、煮える音。
 それだけが聞こえる、部屋の中は幸福な湯気に包まれているのに。
 早く作り過ぎちゃったなぁ…
 皆、テーブルの上を見ないようにして、それぞれ明後日の方向を向いている。
 軽くつまめるものでも、作っておくべきだったかなぁ…

 ため息を押し殺した、その時、静まり返って落ち着かない空間に、突如、玄関の鍵が解除される音が響いた。

 「……あ?人、増えて…?」

 「「「「「おかえりなさい…!!」」」」」

 待ってました…!!
 よくぞご無事で…!!
 予定より早いご帰還に全員、半ば切羽詰まった笑顔で、美山さんをお迎えしたのであった。



 2010-08-20 23:13筆


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