71.川の字、「州」になりそう
「はると…」
わー!
現れたと想ったら、背中にぎゅうっとしがみつかれてしまった。
俺、手、手に…!!
「かどなしさん…あの、」
「コラ、大型犬、離れろや…包丁持ってっから危ないだろー?」
「そうそ〜はるるが怪我したらどうしてくれんの〜…?」
俺が言う前に、仁と一成がひっくい声を出し、かどなしさんがハッとなった。
「…ごめん、ごめんなさい、はると…おれ、おれ……うれしくて……また、会えた…。」
「だ、大丈夫ですよー!そんなに謝らないでください。こんばんは、かどなしさん」
「……コンバンハ。」
「一体どうなさったんですか?」
俺の疑問に、同じく近くまでいらっしゃったおとなりさんが、にこにこ答えてくださった。
「俺が部活終わってさ〜前、晩メシどーすんのかなーって想って、食堂また一緒するかなーってブラブラ歩いてたら、会計さんがオロオロしてたから。どうした?って声かけたら、前に会いに行きたいっつーから連れて来た」
「おとなりさん、こんばんは!そうだったんですかーお気遣いありがとうございます」
「あははっ、こんばんはー!どういたしましてー」
そこで、かどなしさんとおとなりさんの視線が、下ごしらえが終わった食材に向けられた。
「しかし、すっげーなこりゃ…食堂部って言うだけあるなー美味そー!」
「…すごい……すごい、はると。」
「いえいえ、そんな大したものじゃないんです!仁と一成に手伝ってもらったお陰で、形になってます」
御2方の視線が外れない。
そして。
――ぐ〜〜〜っ…――
見事に同じタイミングで、お腹が鳴る音。
部活の後だからーって笑うおとなりさんと、恥ずかしそうなかどなしさん。
「大したものじゃありませんが、良かったら召し上がって行かれますか?」
「「やっぱりそうなるか…」」
何故かがっくりと肩を落とす、仁と一成。
「マジで?!やったー、食う食う!!」
「…はると、ごはん…。食う。」
想いの外、無邪気に嬉しそうにしてくださるお2人に、俺の頬は緩んだ。
「そう言えばかどなしさん、ひーちゃんは真面目にお仕事していたでしょうか?」
「うん。悠、ずっと、サボり。こーちゃん、りっちゃん、激怒。今日、悠、逃げられない。おれ、がんばった。こーちゃん、行っていいって。みーとゆーも、サボり。りっちゃん、鬼。」
なんとまあ…ひーちゃんは、今頃、因果応報の言葉を噛みしめていることだろうか…
それでもすぐ、喉元過ぎれば暑さを忘れる子なんだけれど。
会長さま、副会長さま、大変そうだなあ…
夏になったら、お中元送らせて頂こうかな…?
そんなこんなで。
皆さまに手伝って頂きながら、調理再開!
温まったオーブンに、鮭ときのこを入れ、上からバターを落としてじっくり焼く。
途中、きのこだけ先に出し、そのついでに残っている漬けダレをハケで鮭に塗り、再びオーブンへ戻す。
土鍋を出し、沸かしておいた出し汁を張り、片栗粉をすこしはたき落としてから鶏肉投入。
出てくるアクをきれいにすくいながら、ひと煮立ち。
そこへ、酒、醤油、みりんを入れて煮立たせ、下茹でした大根と人参とごぼうを入れて、ゆっくり火を通す。
人参とごぼうがやわらかくなったら、かぶとしいたけも入れて、弱火でコトコト煮込む。
鶏肉につけた片栗粉が煮汁に染み込み、自然にとろみがついてくる。
温かいお浸しもおいしいから、かぶの葉は冷水に取らず、粗熱が取れたら味つけ。
ボウルに入れ、ブラックペッパー、薄口しょうゆ、ごま油で混ぜ合わせる。
キャベツとピーマンと赤玉ねぎ、りんごはそれぞれ水気を切り、たっぷりのすりごまと酢とホワイトペッパーでよく和え、冷やす。
お味噌汁はワカメと厚揚げ。
料理したことがないと言う、おとなりさんとかどなしさんは、テキパキと動く仁と一成に感嘆していらっしゃった。
「すっげー…手際良いっすね」
「…すごい。」
感心されて、まんざらじゃなさそうな2人。
「俺ら『武士道』全員、はるとに1から仕込まれてっから」
「抗争の決着が料理だったら、どこのチームにも圧勝だぜ〜!」
おとなりさん達の途中参加のお陰で、なんだかほのぼのとお料理を進められて、思いがけず楽しい一時となった。
さぁ、いよいよ盛りつけとテーブルセッティングだー!
2010-08-19 22:44筆[ 123/761 ][*prev] [next#]
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