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慣れた様子の2人に導かれるまま、いざ、ショッピングモール内部へ…!
2人がいてくれて、ほんとうによかった…!
1人だったら心細すぎて、敷居の高さに尻込みしてたと想う。
だってだって、ハイブランドが入っていそうな、ハイクラス感が漂っているんですものー!
「まだ始業してないっつーことで、ほとんど休みなんだけどなー」
「スーパーとコンビニは常に開いてるけどね〜」
「そ、そうなんだ…2人共、慣れてるね?」
そう言ったら、不思議そうな顔をされた。
「俺らはそんなに利用しねぇよ?」
「下界に降りちゃったのが便利いーからね〜」
そうなんだ…!
ガラス扉を隔てた、中はやっぱりお洒落なショッピングモール、そのものだった。
ベージュと濃いブラウンのシックな色調でまとめられている。
所々にそびえ立つ、モザイクタイルの柱がいい味を出している。
ショッピング中のお客さんで溢れていそうなものが、ほとんどがお休みということで、俺たち以外の気配は感じられなかった。
「レストラン系は一応、ジャケット着用的なマナーがあるよ〜ま、制服着用でノープロブレム!」
「けど、他の店は基本自由な。寮のテリトリーだし」
きょどきょどしている俺の手を引きながら、この建物のドレスコードを教えてくれる2人。
あまりに普段着で来てしまったことに引け目を感じていた俺は、次からは常に制服着用で来ようと決意した。
スーパーマーケットとコンビニエンスストアは、1階にあった。
あったけれど。
「簡易」だって学校案内パンフレットも、2人も言ってたよね…?
すこしも「簡易」じゃないのはどうしてでしょう…?
むしろ、本格的と言うべきじゃないでしょうか?
俺は甚だ遺憾に想います!
これだけ立派に面積を取った、ゆったりしたフロアー展開、外から見ただけでもわかる充実の品揃え…
たぶん、家族単位で住んでも何ら不自由しない筈だ、この「街」は。
「十八町・住人心構え」と、パンフレットは称すべきだと想います!
ぼんやりと見ているしかできない俺を、仁は背中を、一成は手を引いて、2人で優しくエスコートしてくれた。
入ってすぐ、レジカウンターにいらっしゃった、これまた優しそうな雰囲気の男性…恐らく店員さんだろう…が「いらっしゃいませ」とにっこり。
お辞儀をお返しつつ、俺の驚愕は止まらなかった。
買いものカゴはもちろん、カートまである…!
デザイン性の高いシックなそれらをテキパキ用意し、仁がカートを押し、一成が俺に付き添う形になった。
「はるる〜何から攻める〜?」
「つかー今日の晩メシ、なんだろうなー」
「…ええと…じゃあ、先ずは野菜から……ってうっわ、採れたてみたいに新鮮…!!わー、ハーブ系もしっかり揃ってる!!」
たちまち、夢中になった。
品揃えが半端ない…!
どの売り場も半端ない…!!
野菜、魚介、肉類など生鮮品すべて、今卸して来たばかりのように新鮮そのもの。
調味料、缶詰はベーシックなラインを抑えつつ、マニアックなセレクト。
加工品、菓子類も高級スーパーでしかお目にかかれない、変わった種類のものが置いてある。
「うっ…見事なアーティチョーク…!」
「ディジョンの粒マスタード…どうしよう…」
「有機納豆…このメーカーの、美味しいんだよねー…」
「うー…ボンヌママンのマロンペースト〜…」
「東京フラ印の新しい味だ〜…」
「骨付きラム肉か〜…うーむむむ…」
いちいちアクションを起こす俺を、2人は嫌がることなく、最後までにこにこと付き合ってくれた。
もっとじっくり見て回りたいのは山々だったけど。
今日の献立は決まっている。
それに、多彩な品揃えの罠にハマって、想うがままに購入してしまったら、家計に大打撃だ。
十八さんに負担をかけ過ぎるわけにはいかない。
結局、葛藤の結果、迷妄漂う心を厳しく律し、お目当てのものを購入するだけで終わった。
また、ゆっくり…!
じっくり熟考してから、いろいろ買いに来よう!
「お願いします」
「いらっしゃいませ。ありがとうございます」
レジへカゴを持って行くと、店員さんがにっこりと笑って受け取ってくれた。
「突然失礼ですが、もしかして前様でしょうか」
うえっ?!
バーコードを通しながら、店員さんに話しかけられて心底驚いた。
仁と一成があからさまに警戒するのを抑えながら、首を傾げた。
「はい、本日入学しました、前と申しますが…どうしておわかりになられたんですか」
「やはりそうでしたか。失礼致しました、ある方から前様の事を事前にお窺いしていたものですから、お声を掛けさせて頂きました。こちらの生徒様が本格的に当店を利用為さる事は珍しいものですから、恐らく前様だろうと想った次第でございます。料理が大変お好きだとか…」
ある方…?
そう言えば昨日、十八さんが、「話は通してある」って言ってたっけ…
十八さん、スーパーマーケットの方に話して下さっていたんだ。
「はい、そうなんです。こちらのレストラン施設も堪能させて頂くつもりなのですが、自炊も心がけようと想っておりまして…こんな立派なスーパーマーケットがあって、品揃えが豊富で、個人的に好きな食材ばっかりで…すっごく嬉しいです!」
「左様で御座いますか!お気に召して頂けて光栄です。こちらは食材倉庫の様な役目を果たして居りまして、生徒様が自炊為さる事は滅多にないものですから、各レストランで使用する食材をここで管理している次第で御座います。ですから品質と品揃えには自信があります」
食材倉庫…!
なるほど、だからちょっと変わった食材なんかが置いてあるんだ…
しかも、こういう食材をレストランで使っていますよ、っということがここへ来たらわかるって、とても安心だ。
すごいな…よくできている。
支払い代わりのカードを通したら、手際良く包んでくださって、瀟洒な紙袋に入れて渡してくださった。
最後にまた、店員さんはにっこり。
「私、こちらを管理統括して居ります、兎田(うさだ)と申します。前様、御要望の食材等御座いましたら、いつでも気兼ねなくお申し付け下さいませ。少量でも手配させて頂きます。前様の豊かな自炊生活のお役に立てます様に、是非お手伝いさせて下さい」
「ありがとうございます…!すごく嬉しいです。これから頻繁に利用させて頂きますが、よろしくお願い致します」
「こちらこそ宜敷くお願い致します。本日はご来店有り難う御座いました。またいつでもご来店下さい」
丁寧にお辞儀して下さる兎田さんに、慌てて頭を下げた。
仁と一成も揃って頭を下げていた。
わーい!
いいお買いものできた…!
しかもこれから、何不自由なく自炊生活を楽しめそうだ…!!
なんていい街だろう、十八町。
住み心地がよさそうな所で嬉しいなあ。
俺はすっかり有頂天で、ショッピングモールを後にした。
2010-08-17 09:32筆[ 121/761 ][*prev] [next#]
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