66.それでは仲良く〜…


 寮へとうちゃーくっ!

 部屋の鍵は、そわそわする俺を察してくださった、大人な美山さんに譲って頂けて、俺のカードで開けることができた。
 なんて度量の深い人だろう…!
 着替えてすぐ出かけると言い、まっすぐ部屋へ向かう美山さんの背中に、慌てて追いすがった。
 「美山さん…!あの、美山さんのお好きな食べものはなんですか?」
 「あ?……別に」
 「特にないですか?苦手な食べものは?」
 「……別に」
 「ほんとーのほんとーに本気で特にないですか?知りませんよ?言っておきますが、そう仰ったからには、俺が作ったものが何であろうと残さずキレイに召し上がって頂きますよ…?」

 追い討ちをかけるしつこい俺に、美山さんはちょっとポカンとしたお顔をなさって。
 複雑そうな、困ったような苦笑のような、どうしたらいいかわからないっていう表情で、呟くように仰った。
 「マジで何でもいーし…てめぇの作るもんなら……敢えて言うならなんかあったかいもんがいい」
 あったかいもの!
 なるほど、春と言えどもまだ朝晩は肌寒い。
 外出して戻って来られた美山さんに、心身ほっこり温まってもらえるごはん、ということですな!

 「了解しました!」
 びしっと敬礼した俺に、美山さんはほんのちょっとだけ、唇の片端を歪めて、よろしくと独り言のように仰った。
 「任せてください!夕方から冷えますから、暖かい格好でお出かけくださいね。何か羽織れるものでもあれば…日暮れもまだ早いですし、お気をつけて。いってらっしゃい!また後程!」 
 そう言って、手を振ったら。

 美山さんの瞳が見開かれ、びっくりした表情。
 おかしなことを言ったかな?と想う間に、あぁと頷いた美山さんはすぐさま背中を向けて、部屋へ行ってしまった。
 俺は疑問符を浮かべたまま、その背中を見送った。
 なんだか、寂しそうな……

 「はるとの部屋、こっちか〜?」
 「はるる〜、俺、喉乾いた〜」
 「うわっ」
 急に、両サイドから強く手を引かれた。
 …そうそう、手のかかる2人が一緒だったのでした…
 「はいはい…お昼寝前にインスタント・アイスカフェオレでも作って飲もうね〜」
 「「わーい!」」
 やれやれ…まったく…
 ご機嫌さんでキッチンへ向かう2人に、でもこのノリ、この感覚は懐かしくて居心地よくて、想わず頬が緩んだ俺でした。

 

 作ったカフェオレを持って、俺の部屋へ。
 「まだ完成途中なんだけど…」
 「「ノープロブレム!」」
 前置きしてから、扉を開いた。
 「おー日当り良好!」
 「はるるらし〜いー部屋じゃ〜ん!」
 開くなり、わ〜っと駆け出して、そこらをぐるぐる見渡し、我が物顔で気に入った場所へ腰を下ろす…仁は窓辺の床へ、一成は勉強机の椅子へ落ち着いたみたいだった。
 
 それぞれにグラスを渡し、俺はベッドを背にぺたんと座った。
 途端に側へ飛んで来た。
 ぎゅうぎゅうにくっついて来る仁と一成、このいつもの距離感…「ホーム」にいる時みたいで、なんだか安心する。
 「はるる〜あのさ〜…どお〜?これから十八でやっていけそ〜?」
 「クラスとかどうよ?食堂で会ったけど、変なヤツばっかだろ。馴染めそうか?」
 しばらくくっついたまま、静かにカフェオレを飲んでいた2人が、急に口を開いたと想ったら、そんな言葉で。

 視線を向けたら、2人共、真摯に心配している眼差しを向けてくれたから。

 「心配してくれてありがとう!俺なら大丈夫だよ〜!まだわからないことでいっぱいだけど…仁と一成、武士道の皆と、まさかここで会えるとは想ってなかった…だから、すっごく心強い。知らない人ばっかりじゃないって、安心するって言うか…頼りにしてますよ〜仁先輩、一成先輩!これからよろしくお願いします」

 わざとふざけて、先輩呼びした。
 2人共、目を細めて。
 「いつでも頼ってくれ給え、後輩のはると君」
 「かわいい後輩のはるるの為なら、火の中、水の中ってね〜」
 優しく微笑ってくれた。
 午後の日差しが、やわらかく、2人の金と銀を照らしていた。



 2010-08-14 23:00筆


[ 118/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -