61.音成大介の走れ!毎日!(1)
きゅっ、きゅっ…
バッシュが磨かれた床の上、軽快なリズムを取る。
だんだんだんっ…
ボールが手の平と床の間を、障害なく往復する。
ゴールへのラインは見えた。
後は勢い斬り込み、走るだけっ!
手の平に吸いつくみたいな、硬いボールの感触を楽しみつつ、不意に体勢を屈めて敵も味方も後方へ、ステップ踏んでジャ〜ンプ!
ゴールへ叩きこんだ。
ぴ―――っ!
ホイッスルで、キレーに終了。
落ちたボールを、同じ1年へ渡して。
「「「きゃ―――!!音成様〜っ!!ナイッシュー!!」」」
叫ぶ親衛隊に向けて、てきとーにスマイル。
「「「きゃ―――!!爽やか…!!」」」
ひどくなった悲鳴は無視、だっらだら流れて落ちてくる額の汗を、手の甲で拭いつつ、コート外へ出た。
「次!CチームとDチーム!」
間髪入れず怒号みてーに飛ぶ、顧問の先生の声。
速やかにコートへ入る、クラブ内編成チーム。
すぐに始まる練習試合。
これはこれは…高等部3年間もなかなか楽しめそうだ。
勢いのある展開に、1人悦ってたら。
「よ!大介、お疲れ〜久々でも鈍ってねーみたいだな〜」
マネージャーが用意してるスポーツドリンクとタオルと共に、降って来た明るい声。
3年の部長だ。
ほとんど持ち上がり式のこの学園で、同じ部活を続けるとなると腐れ縁になる。
中等部以来の再会に、頭を下げた。
「あざっす。結構身体動かなくって焦るっす〜」
「またまた〜どこがだ、どこが。先生も大介が今年から入って来るって、楽しみにしてたぜ。しごいてやるからな!覚悟しろー!」
「あざっす。楽しみっす!」
「ははっ、お前は相変わらず爽やか君だなぁ!うりゃうりゃ」
「部長〜…髪、わしゃわしゃっす!」
「はははっ、お前の親衛隊がうっとり見てんぞー」
ダンクを得意とするごっつい手で、散々頭を撫でられ、親衛隊に写メられ、練習試合でもちゃんと見てろ!と先生に怒鳴られた。
渡されたドリンクを飲みながら、しばらく静かに先輩と観戦。
やっぱ、高等部ともなると、皆体格違うし…勢いが違う。
すげーなー!!
さっき走ったばっかなのに、もう疼いてくる。
俺だったら、あーいう時はあっちに走りこんでるとか、フェイクパスするとか、あの動きは見習いたいとか。
観てるだけで、かなり勉強になる。
3年引退までに、がっつり吸収しないとな!
「そういや大介…俺は行ってないんだけどさー、食堂で一騒動あったらしーな?」
試合を観ながら、ふと呟いた部長。
もうウワサが回ってんのか…
ただでさえ天然記念物ものの外部生の入学、それが更に、3大勢力や親衛隊持ちと並んでメシ食って、わーわー騒いじゃったもんな…
無理はないか。
面白そうな横顔に、けど、細かい説明はしない。
どーせ、この人のことだから、ある程度は掴んでるだろうし。
「面白いヤツが入学して来たんですよ、部長」
だから、それだけ言った。
ホイッスルが鳴る。
3ポイントのチャンス。
バッシュがきゅっと動く音。
3年先輩のゴールを睨む顔。
しゅっ…と。
両手から離れ、放物線を描くボール。
その軌跡に成功を見出す。
回転しながら、豪快にゴールを通り抜けたボール。
「へー…大介、程々にしろよー?お前はバスケ部期待のルーキーだからな!こっちを優先してくれよー?」
「もちろんっす!」
バスケもクラスも、楽しくなりそうだ!
高等部もなかなか良いんじゃね?
2010-08-10 09:46筆[ 113/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -