57.風紀委員長の風紀日誌―外部生考察―


 所古と十左近をやり過ごした後、昼食終了。
 全員、解散。
 風紀委員会の緊急集合メールを送信。


 午後2時、委員会棟の最上階、風紀室に凌と戻る。
 自席へ向かわず、応接室のソファーにて、凌と会話。
 留守を守って居た1年委員、遠山が紅茶の手配。
 少し気分が落ち着く。
 「……しかし委員長、十八学園創立以来の出来事でしたね…」
 遠山を下がらせ、先程の事態の整理を開始。
 凌、ため息の連続。
 
 「深呼吸は健康に良いが、ため息は鬱を呼ぶ。控えろ」
 「はい、失礼致しました。余りの事態だったものですから、つい…今更実感が湧いて来ました」
 然も非ん。
 今頃、連中とて同じ筈。
 我々ばかりか、周囲に居た生徒、食堂の運営に携わっている人間、総てが先程の事態に驚愕の筈。
 
 単独行動を好む美山が同室でありながら、昨日の今日で存外に親しい。
 親衛隊の確信犯・合原、バスケ部ルーキー・音成、彼等の親衛隊や同類等、1年A組の過半数が同席の事実。
 希有な思想を有する不審者、一舎にとってはネタ元か。
 いずれにせよ、初日にて、厄介者ばかりの同級生と会食達成。

 武士道から仲間…と言うか、「お母さん」との呼称。
 ゲームを主催していた武士道自体がゲームの撤回を宣言。
 仁、一成の長2人は無論、幹部共も心酔、依存の傾向が窺えた。
 南地区ナンバー1を誇る武士道が、全力で護り、全力で甘える希少な存在。

 生徒会の素行不良問題児、風紀ポイント・500点を記録する天谷の幼馴染み。
 年間通して躁鬱の傾向にある天谷が、過度に依存する存在。
 知ってか知らずか、天谷への叱責の厳しさは他に類がない。
 対象外の周囲の生徒をも黙らせ、行動へ導く叱責の根幹は何か。
 同じく、度を超えた人見知りの無門、愛想が良い反面、心を許さない七々原双子も、依存する傾向を見たり。
 莉人は未知数、しかし状況に愉悦の気配。
 昴は食えない、生徒会へ勧誘の懸念有り。

 食堂関係者、大いに興味持つ。
 生徒に媚びないプロ集団、ウエーターを先ず攻略。
 プライド高い厨房の人間も、此れに従う。
 元より顔馴染みか、食堂関係者の聖域へ立ち入りを許される。
 不可思議な部活動の認可は不可能。
 
 以上の面々を取り従える様に、所古、十左近の興味を大いに煽った。
 それぞれの領域へ半ば本気で勧誘の声。
 本人、意に介さず。
 飄々とあしらい、双方苦笑い。

 最上級生、上級生、同級生、食堂勤務従事者、知己、総て平等に相応に接し礼を尽くす。
 人心の機微を察し、低姿勢、謙虚な応対、しかし譲れぬ自己主張は正々堂々と表現、緊張と緩和を操る、故に人心掌握の才有り。


 前陽大、要注意人物。
 凡庸な容姿が危険。
 3大勢力と要注意人物達を同席させ、周囲を黙らせる、恐るべき影響力の持ち主。
 本人、無自覚。
 奔放を許すと、依存者激増、いずれ混乱の核へ成長の見通し。
 また、反対勢力が育つ懸念有り。


 「……前陽大…まさに風紀が欲する、絶対戦力ですね」
 「あぁ、その通りだ」


 危険、故に、我が掌中へ握り込む。
 彼の父性ないし母性は、学園の風紀を守るに足る、絶大な力也。

 だが、しかし。

 「あの眼差しは危険だ。招集時、委員全員へ眼鏡の着用を徹底する様に伝えろ。っく…想い返すだけで身震いが止まらん…俺の家はペット禁止だと言うのに、まして寮では論外の事、なのにヤツは子犬の如き眼差しで、食堂部をどうのこうの…クンクン、クゥンクゥンと…!何て恐ろしい外部生だ…!」
 「委員長…!首を縦に振らず、耐えられた委員長はとても立派でしたよ…!流石でした…!」
 「凌……済まない、俺とした事が、少し取り乱してしまった…直に時間だな。体裁を整えよう」
 「はい!」


 前陽大、要注意人物。
 俺が年端も行かない頃、雨の公園で拾った、狐色の子犬「クンちゃん」にそっくりな、外部入学の新1年生――…



 2010-08-06 22:39筆



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