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 ジャージ先輩さまは、ひたすら面白そう。
 ゆる制服先輩さまは、若干、引きつっていらっしゃる。
 「入学式ではよくもやってくれたな、柾……打ち合わせにない進行しやがって…」
 「十左近先輩、その件については先程理事長にも大目玉喰らった所なんで〜勘弁して下さい」
 生徒会長さまとのやりとりに、俺はすこし目を見張っていた。
 会長さま、棒読みだけど…
 十八さんに怒られたんだ…?

 「っとに…てめぇは全然反省してねぇだろーが…」
 「反省シテマスヨー」
 「お前なぁ…1番注目浴びてる生徒代表が、騒ぎを益々大きくして煽動すんなっつってんだよ」
 「ハイハイ。…っち、小舅かっつーの…盛り上がってんならそれで良いだろうが…」
 うわ…何やら会長さまから不穏な呟きが聞こえて来たのですが!
 「十左近先輩、昴もこの通り、理事長に散々絞られて反省して居りますから、ご容赦願います」
 副会長さまがにっこり、ナプキンで口元を優雅に拭いながら間に入られた。
 さすが、アイドル仲間さんだけに、きちんとフォローしてあげるんだなぁ…
 仲間って、やっぱりいいものだなぁ。

 「どこが反省してんだか…まぁ、どーでもいーけど」
 じゅうさこん?先輩さまは、呆れたご様子だ。
 「よー仁、一成!先日はありがとなァ!」
 こちらでは、ジャージ先輩さまが「武士道」の面々に笑いかけておられる。
 おお、こちらの雰囲気は和やか…
 「辰(たつ)先輩、おととい来やがれください」
 「こちらこそ〜いつも可愛がってくださって、ありがとうございます〜?」
 じゃない…?
 仁と一成を筆頭に、皆、笑っているけど青筋が!
 ジャージ先輩さまと一体、どういうご関係?!

 「所古(いこま)、制服規定違反だ」
 「所古先輩、減点2と」
 風紀さまは冷静でいらっしゃる…!
 やっぱり、そうですよね…さすがにジャージとサンダルは着崩しすぎですよね。
 「相変わらずお堅いなァ、風紀は!俺ぁ勤務外だってぇのに」
 「「生徒総則第15条/学園内外での行動は正しく制服を着用の事。長期休暇、寮内、その他理由の如何に於いては此れに非ず。」」
 「はっは、お堅いなァ!」
 「…俺もジャージは酷いと想うぞ」
 「十左近も堅いなァ!」
 快活に笑ういこま?先輩さま、ひとしきり笑った後、ふと、真顔になられた。


 「なぁなぁ、それより、お前さん等『3大勢力』が同じテーブルを囲んで、尚かつ借り物の猫みたく大人しくメシ食って、更にその周りの生徒も静かってぇのは、どーいうこったなァ?天変地異か?嵐の前の静けさか?決戦の前の情か?……馴れ合う事にしたのかァ?」


 最後の一言が、間違いなく、皆さまの地雷を踏んだと想う。
 ぷちっと。
 なにかが切れる音が、聞こえたように感じた。

 瞬時に変わる、テーブルの空気。
 皆さま、口角は上がっているけれど、表情が窺えない。
 ジャージのいこま先輩さまは、またも面白そうににこにこ。
 ゆる制服のじゅうさこん先輩さまは、面倒そうにため息ひとつ。
 いつの間にか、再び静まり返っているレストラン内。
 この緊迫感、どうしたものか…!
 オロオロしている俺を、急に、隣の生徒会長さまがくるっと振り返られた。
 え?!
 会長さまばかりか、隣のひーちゃんも、テーブル中の皆さまが揃って、俺を見つめている。
 な、なに…?
 

 「「「「「別に馴れ合ってない。お母さんに怒られたから」」」」」
 

 え?え?
 それきり黙りこみ、食事を再開する皆さま。
 きょとんとして俺に視線を向ける、いこま先輩さまとじゅうさこん先輩さま。
 数10秒後、噴き出すいこま先輩さま。
 「なんだァ…?見ねぇツラだァ、新入生?」
 「う、は、はい…はじめまして、高等部から入学した、前陽大と申します…」
 じゅうさこん先輩が、ぽん!と手を打った。
 「そう言や、今年は外部生が1人居るって話だったな…お前、初日にしてこの連中とつるんでんのかよ?」

 問われるままに、関係性と経緯を説明したほうがいいかと想い、恐る恐る告げた。
 「は、はい…クラスの…美山さんとは寮が同室でお世話になっており、あいはらさんとおとなりさんとひとつやさんは話しかけてくださって…仁と一成は『武士道』繋がりの知り合いで、ひーちゃ…天谷悠は幼馴染みで…アイドルさまと風紀さまは、そんな関係でたまたま相席しているご縁で…先程、食事中にひーちゃんがワガママを言ったものですから、つい、我を忘れて怒ってしまったところ、当人ばかりか皆さまも理解してくださった模様で…」

 先輩さま方は、お互いの顔を見合わせた後。
 周りに視線を巡らせてから、黙々と食事している皆さまを、隅々まで観察なさって。
 俺に視線を戻し、またお互いの顔を見合わせ、俺に視線を戻し…を、何度かくり返し。
 
 「「何者…?」」
 「あ、え、前陽大です…?」
 「名前はもう聞いた…つまり、お前の一喝でコイツらが黙って大人しくしてるって事だろ?」
 「しかも、食堂中を巻き込んで!かァ…実に面白い後輩君が入って来たねェ」
 えーと?
 「コイツらを纏め、馴れ合うその根性、影響力……見所あるな…あぁ、申し遅れたが俺は放送部部長の十左近文智(じゅうさこん・ふみさと)だ。前、放送部へ来ないか?これから1年みっちり鍛えてやるぞ!」
 「冗談は止せやィ、十左近!俺は生徒寮監督、所古辰(いこま・たつ)、お前さんこそ次世代の寮監だァ!ついでに『喧嘩の花道』もお前さんのものだァ!」

 え、えーと…?

 「待った待った〜、先輩方?はるるは俺らのお母さんなワケ〜ぜってぇ渡さねぇよ〜…?」
 「そのとーり、はるとは『武士道』のものだ」
 「「「「押忍!」」」」

 「残っ念っ!はるちゃんは昔っから俺のものなんだぁ〜生徒会で俺の補佐になるって、たった今決まったんだぁ〜だからてめぇら全員、お呼びじゃねぇんだよ…!!」
 「……はると、ひさしのもの、イヤ。だけど、生徒会、いっしょ。ずっと。」
 「「お母さんとこれから遊ぶんだいっ!」」
 「昴?悠と宗佑と優月と満月がこう言ってますが?」
 「そりゃぁ、俺様の愉快な仲間が満場一致なら仕様がないなー?莉人、てめえも異存は無えんだろ。生徒会として面白ぇ人材は見逃せねえし?」

 「馬鹿な。前陽大は我が風紀にこそ相応しい人物だ」
 「そうですとも、委員長。育てばより磨かれるタイプです、彼は」

 「……っち、どいつもコイツもいい加減な…前、帰んぞ」
 「柾様、生徒会想いな所がステキ…!でも、前陽大は親衛隊にも欲しい…!」
 「ひゃひゃひゃ!前、モテモテじゃーん!すげーなっ」
 「萌えりー、人生最大モテ萌え期到来、萌えぇ…!!」
 「「「「「お母さんはA組なのに…」」」」」

 わああ…!!
 お、俺はどうしたら!!
 俺は、俺は…


 「……俺は食堂部があるので、ちょっと…皆さまのご期待には添えかねます……」


 「「「「「だから何だよ、食堂部って」」」」」
 いやぁ…俺にもなにがなんだかよくわかりません…。



 2010-08-05 22:24筆


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