53.フィーバーフィーバー!


 想わず言ってしまった!
 溢れ出る感動を、抑えることができかねた…!!
 俺ったら、今日はほんとう、うっかり日和!!
 剛田先生と(作者注:おーい、はるとくん…漢字が違うよ!)漫画の話をしてしまったからだろうか、ノビノビくんの魂が乗り移ってしまったに違いない!
 でも、悔いはないです!!
 すこしでも伝えられて、俺、しあわせです!!

 「んー…?」
 しあわせに浸っていたら、山本春明料理人さまが、顎に手を当てて訝しそうに唸られた。
 は…!!
 俺ったら、浮かれすぎ!!
 不快に想われていたら、どうしましょうか…
 オロオロと、解決策を練ろうとしたら。
 「おい、坊主」
 「は、はいっ!」
 「だから、敬礼は要らねぇぞー。俺は上官か」
 やっぱり同じことを感じておられましたか!

 「は、はいっ!」
 「わっはっは、面白ぇなあ!いや、これは褒め言葉だからな?」
 「あ、ありがとうございます!」
 「そうかしこまらんで良い、一介の料理人に。それより、坊主のフルネームは何だ、聞いても良いか?」
 俺の名前…?
 「はい、前陽大と申します!」
 首を傾げつつ、憧れの御方へ恐縮しながら、名前を即答したら。
 


 「すすめ・はると…やっぱり、そうか!坊主、昔1回だけやった『一汁三菜道』っつー本のサイン会に来たちっこい坊主だろ?!」


 なんですって…!!

 
 「は、はいっ…母にせがんで、小学生の時に連れて行ってもらって…本とTシャツにサインして頂きました…お、覚えておられるんですかっ?!」
 「あぁ、あぁ、忘れねえよ。母ちゃんがエラく別嬪さんだったしなあ!てっきり親に連れられて来ただけかと想ったが、坊主が俺の熱心な読者だったもんだから、印象に強く残ってたんだ。また『一汁三菜道』だろ?渋い趣味してんなあと感心したもんだぜ。そうかそうか、あの坊主がもう高校生か!」
 「はいっ…!『一汁三菜道』は、今も俺のバイブルでっ…載っているお料理は隅から隅まで作りました!あの時にサインして頂いたTシャツは、今でも家宝ですっ!!」

 「は…全部作ったのか?!」
 「はいっ!!山本春明料理人さまのご本はすべて読破、雑誌やHPも完全制覇、お料理もすべて試作済みですっ!!」
 「はー…本気か。我ながら結構なレシピを発表して来たつもりだったが…坊主、やるじゃねえか。大したもんだ、坊主も料理が好きなんだな」
 「はいっ!!俺も、俺も…プロになりたい!!…んです…」
 「そうかそうか」

 うっわ…!!
 山本春明料理人さまの、神聖な御手が…!!
 数多(あまた)の人々を笑顔へ導いて来た、数々の料理を愛で生み出した、神聖な右手が…!!
 俺の、俺の頭に!!
 ふわふわ〜っと、料理人の力強い手で撫でられて。
 見上げた眼差しは、とても深く、優しくって。
 俺、はっきり言って、涙腺が決壊寸前ですっ!!
 俺の今までの料理に対する想いが、報われたような気持ちで、胸がいっぱいいっぱい…


 「嬉しいねえ…骨のありそうな坊主を読者に持って、俺は果報者だ。気に入った!どうだ坊主、おめえさんもプロに成りたいってえなら、厨房に興味があるだろ?此所の厨房は中々勝手が良いぞ?見て行くか」


 な…

 な…

 なんですって…!!
 
 「み、見たい…!!見たい、見たい、見たいですっ!!チラっとで十分ですので見たいですっ!お願いしますっ」
 想わず興奮倍増の俺を、落ち着かせるように軽く背中を叩き、山本春明料理人さまは豪快に笑った。
 「おぅ、坊主ついて来な。ゆっくり見て行けよ」
 わーわーわー…!!
 わっはっはと笑う料理人さまに連れられ、いざ…

 壁を超えて!!

 神聖なる、厨房へ…!!

 「お、お邪魔します…お仕事中に申し訳ありません!」
 聖域へ入る前に、一礼!!
 「さっきの威勢良いヒーローだ、プロ目指してんだとよ。いろいろ見せてやってくれ」
 ヒーローって、山本春明料理人さまったらー!!
 厨房で忙しく働いていらっしゃった皆さまは、1度手を止めて、俺を目に止めてくださった。
 「「「「「さっきの良かったぜー!いらっしゃい!ゆっくり見て行けよ!」」」」」
 わーわーわー…!!
 「ありがとうございますっ!!」

 お忙しいのに、なんて温もりのある厨房なんだろう…
 溢れる感謝の気持ちのまま、邪魔にならないように極限まで注意を払いつつ、見学させて頂いた。

 「ひーろーいー…ものすごく広いっ」
 「お野菜が元気!緑が活き活きしてる…」
 「電磁調理器&ガスのダブル使い…どちらにも魅力がありますものね…ふむふむ」
 「石釜だーすごーい!!」
 「え、勝手口裏にはスモークの設備までも?」
 「南部鉄器はやっぱり万能ですなぁ…こんなどデカイお鍋…いいなあ…煮込みまくりたい…」
 「なんと憧れのヘンケルスのツヴァイリング最高峰、ツイン1731…!」
 「雅シリーズもある…!う、うつくしい…」

 「どこもかしこもピカピカ…お鍋も鏡みたい!」
 「はっ…宗理さまのキッチンツールが山ほど…やっぱりキレイ…」
 「ロイヤルコペンハーゲンだー…デッドストックだー…ロイヤル!」
 「喜多村陶芸家さまの作品もたくさん…他も名作だらけ…」
 「ゴミ箱がキレイ…!やっぱり根も葉も皮も余すところなく使われておられる…!」
 「ひゃー、伝説の塩田の塩…!」

 なるべくちいさく歓声を上げつつ、皆さまにやさしく接して頂き、時には簡単な説明までして頂いて、俺は厨房見学を満喫したのでありました。



 2010-08-02 22:42筆


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