52.ミーハーだった!


 ほ、本人?!
 ほんとうに、ほんとうに、ほんっとうに、本人…?!

 マスコミ嫌いでTVには一切出演為さらないストイックさの反面、気さくなお人柄で本や雑誌やHPで活躍しつつ、請われたらジャンルを問わず各料理店へ出張、指導、プロデュースもこなされる…
 3才の時から包丁を握り、独自の研究と勉強を積まれて、中学を卒業するや否や料理のプロへの道を迷いなく選択、各料理の名店を渡り歩き、海外へも身軽に出向き、料理の為に行った国は数知れず…
 素材を余す事なく使い、旬を活かし、構想から盛り付けまで抜かりなく、ゲストの笑顔を何より1番に考えて用意する…
 誰が、いつ、どこで、誰と、何を食べたら楽しいか。
 あらゆるシーンを想定した料理構成に、素人は勿論、玄人の舌も唸らせる、料理の芸術家。

 出すご本すべてベストセラー、けれどもアイドルさまのように、お顔や私生活の一部を公にすることなく、料理関連グッズなどを開発したりという業務も広げず、あくまで料理することだけに集中しておられる。
 今時珍しい、頑なこだわりと姿勢、思想。
 その反面、あらゆる食を愛しておられる。
 ファースト・フードもスロー・フードも否定しない。
 有機も化学も受け入れる。
 それぞれの良いところを理解し、生まれて存在することを否定しない。
 HPで紹介しておられる、インスタント食品のおいしいアレンジの記事、ファーストフードの新商品の感想にも愛読者が多い。

 短く刈り込まれた白髪混じりの髪、厳しく鋭い眼光、けれどたくさん刻まれた目元の笑い皺。
 なんでもおいしく食べて豪快に笑いそう、大きなお口は、今はきりっと引き締まっておられる。
 数え切れないぐらい振ったフライパンで鍛えられたのだろう、陽に灼けた太い腕、分厚い手の平、包丁ダコ、きちんと短く切り揃えられた爪がうつくしい指先。
 ぱりっと糊の効いた、雪原のようにまっ白なコックコート。
 身長は170ぐらいだろうか、そう高くはない目線であるのに、きりっと潔く伸びた背筋がこの御方を大きく見せている。
 いや、だって、とても巨きな人だから…料理界の巨匠ですもの!!
 お年は十八さんより随分上のハズ、けれども溌剌と元気で年齢不詳の気配。

 格好いい…
 格好いい、大人の男性だ…!!
 これぞ、男…!!
 これぞ、武士!!
 ダメだ、強いオーラに当てられて、くらくらする〜
 眩しすぎますっ!!
 折角お会いできたというのに、俺、今にもぶっ倒れてしまいそうです…

 「んん?お前がさっき、わーわー騒いでた坊主か?」
 「は、はいぃっ…!すみません、お騒がせしてしまいまして…!」
 「この学園じゃ見ねえタイプの顔付きだなあ。騒ぎそうに無えツラなのに…」
 「は、はい!!今日から入学させて頂きましたっ、新入生の前と申しますっ!一介の新入生の分際で、食事をするという神聖な場において、あのように喚き散らし醜態を晒してしまい、誠に申し訳ありませんでしたっ!」
 びしーっと想わず、敬礼してしまったガチガチな俺。
 まるで上官に対峙する、新人兵みたいだ。

 我ながら情けなく想いつつも、だって、だって、緊張と喜びで身体が震えて止まらない!!
 「わははっ!んなしゃちほこばらなくても、誰も怒りゃあしねえよ。面白ぇ坊主だなあ!そうかそうか、新入生か。いや、さっきの騒動は厨房でも拍手喝采だったぜ?俺達が言いたかった事を全部代弁してくれたんだ、有り難うな」
 う…!
 厳しい眼差しが和らぎ、目元にくしゃくしゃと皺が寄って、にっこり笑顔…!!
 大人の男の、包み込むような、それでいて快活な笑顔。
 「俺の事を知ってるって?本でも見てくれたのか。此所でそんな坊主に会うとは想ってもみなんだ、嬉しいねえ…好きな様に任せてくれる此所が好きでな、金曜限定で出向いて、ただ黙々と作って来たのがちったぁ報われたな」
 
 「本でも見てくれたのか」?
  
 いいえ…
 いいえ、山本春明料理人さま…!!
 俺は、俺は、そんなレベルじゃないんですっ…!!


 「誠に恐れながら、ファンなんです……大ファンですっ!!お会いできてとってもとっても光栄です!!」


 「……ちょっとちょっと〜、あんな桃色にホホ染めたはるる、見たことないんですけど〜」
 「すっげーうっとりキラキラしてんな〜…」
 「「「「お母さん……」」」」
 「はるちゃんは俺んだ、はるちゃんは俺んだ、はるちゃんは俺んだ…」
 「金曜日限定のシェフ、か…」
 「……はると……遠い。」
 「「ぶー」」
 「へぇー前って料理が好きなんだー」
 「……何だ、あのジジィ……」
 「萌えりー、萌えスマイル打ち上げ大会っ…萌えぇ〜!!」
 「柾様…萌え…」
 「何やら、もう一波乱ありそうですね、委員長?」
 「そうだな、凌。…しかし昴、何を微笑って居るのだ」

 「くっく…マジ、面白ぇわ、あのチビ」

 「「「「「昴、不気味…」」」」」
 「「「「「かいちょー、不気味…」」」」」
 「……ぶきみ。」
 「不気味な柾様もステキ…!」
 「萌えが止まる事を知らナイ…!!」



 2010-08-02 21:48筆


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