50.お母さんの性分です


 ひーちゃんは昔、我が家のご近所さんだった。
 実はそちらは別宅だったそうで、中学に上がる頃、将来の為に本宅へ戻ることになった。
 俺も含めて、区内の子供は皆、公立中学へ進学する中、1人だけ私立の全寮制学校を受験したんだっけ…
 今想えば、その学校って、十八学園のことだったんだなぁ。
 引っ越ししなきゃいけない、実家へ戻らなければならない、全寮制学校に入学しなければならない…で、お別れの時は大騒ぎだったっけ…
 泣いて泣いて、抱きついたまま離れないひーちゃんを必死でなだめて、また会えるよって言いながら、俺も哀しくて。

 あの時、そう言えば……

 「俺、まだ持ってるよぅ〜」
 「!ひーちゃん、エスパー?」
 「はるちゃん限定のねぇ〜最後の日、交換した『宝物』、今も大事に持ってるぅ〜つか、今持ってるぅ〜」
 「うそ…!俺も持ってるよ!見せ合いっこ、」
 「だ〜めぇ〜!コイツらの居ない所でねぇ〜俺とはるちゃんだけの秘密でしょ〜ぅ?」
 「そ、そっか…とか言いながらひーちゃん、持ってないんじゃないの…?つか、アレのことで合ってるよね?」
 「アレでしょ〜ぅ?わかってる、わかってるぅ〜」
 「そうそう、アレアレ!」

 「「「「「アレアレ、うるせーよ…」」」」」

 わ!
 皆さまからツッコミを頂いてしまった!
 どちらに所属の皆さまも、揃って眉間にシワを寄せて、渋い顔をなさっておられる…
 けれども、なんだか、皆さま、お可愛らしいなぁ…
 例えるなら、拗ねてる、みたいな…

 「「「「「拗ねてねーし」」」」」

 左様でございますか…申し訳ありません。

 しかしながら、皆さまもエスパー???
 この学校に通っていると、そんな特殊能力までも養われるのだろうか?
 それとも、単に俺の表情がわかりやすいだけ?
 そう言えば、昔からよく、顔に喜怒哀楽が出まくってるって言われてたっけ。
 うう〜む…
 もっと、風紀さまみたいにクールな大人の男!って感じになりたいんだけどねえ。
 無理だろうなぁ…いやいや、千里の道も1歩から!
 まだ高校生なんだし、俺だってこれから大人になれる!
 地道な努力が大切ですな。

 などと想いつつ、ひーちゃんの食事に注意を払いつつ、俺は「金曜日の創作料理プレート」を完食させて頂いた。
 あ〜おいしかったぁ〜…
 春の恵みが身体の隅から隅まで行き渡り、緑が芽吹くが如く、元気なパワーへと変換されるようだ…
 料理人の心意気と覚悟が感じられる、ほんとうに素晴らしいお料理でした。
 しあわせ〜…
 おいしいものを食べると、なんでこんなにも、しあわせ〜な気持ちになるものか。
 どういった料理人さまが作ってくださったのか…俺の敬愛する御方と通じるものを、勝手に感じてしまったのだけれど。

 さて、では、この有機ほうじ茶を飲み干して、食事は終了…
 なんだけれど。
 けれども。
 気になる…さっきから、ずっとだ。
 気にしまいと、努めていたのだけど。
 ダメだ。
 無理だ。
 どうしても、気になる…!!
 一応、すべて食べ終わって、後はお茶を残すのみだから…
 非常に恐縮ながら、俺は再度こっそりと席を立ち、目的地へ足を忍ばせた。

 「お食事中、失礼致します…庶務さま、補佐さま」
 「「う?」」
 俺が向かったのは、かどなしさんの隣に座る、アイドルさまの双子さま方のところ。
 仲良くお揃いの特大オムライスを頬張っておられる、御2方なのだが…
 「口とほっぺたに、トマトソースがついておられますよ…?」
 「「むー……」」
 ナプキンを差し出すと、揃って首を振られ、拭いてと言わんばかりに頬を突き出された。
 鏡を合わせたように、対称になった動作だ。
 ソースがついている箇所も、左右対称になっている。
 双子の神秘…!

 「しょうがないですねぇ…では、失礼致しまして…おっと危ない、お2人さま共、もう少しで制服のシャツにまでソースが落ちるところでしたよ〜よかった、ギリギリセーフですねぇ」
 交互にふきふき。
 ついでに、米粒も取って差し上げた。
 お2人さま共、子猫が日だまりで昼寝をして、機嫌よく喉を鳴らしている時のように、目を細めて受け入れてくださった。
 「はい、キレイになりました。すみません、差し出がましい真似をしてしまって…気になってしまったものですから…」

 無礼を謝ったら、ふるふると首を振られ、ぶっきらぼうな声がふたつ重なった。
 「「アリガト」」
 「どういたしまして!…あ、御2方共、もしかしてお肌がすこし敏感なのではないでしょうか」
 更に気になったことを想いきって聞いたら、きょとんとお2人で顔を見合わせてから、どこか警戒している視線を向けられた。
 「「どうして、わかった?」」
 「ソースがついたところが、すこし赤くなっていますから…アレルギーとまで行かなくても、お肌が敏感な御方って結構いらっしゃるでしょう?もしくは、軽度のアレルギーなのかも知れませんが…俺が言うのもなんですが、お気をつけくださいね」

 御2方共、さっきよりも長く顔を見合わせて。
 こっくりと頷き、またぶっきらぼうな声が重なった。
 「「アリガト」」
 「とんでもない、どういたしまして!」
 それから、えーい!折角立ったんだ、もののついでだと。

 「風紀さま、生徒会長さま、副会長さま、食事中の水分が欠かせないのではありませんか?お冷やを頂きましょうか」
 「美山さん、ソースのおかわり頂きましょうか」
 「あいはらさん、2杯目をミルクティーになさるなら、ミルクを先に入れたら、よりまろやかになっておいしいと想いますよ」
 「おとなりさん、右!右のほっぺに米粒が…見事な食べっぷりですねぇ…見惚れてしまいました」
 「ひ、ひとつやさん…お顔が赤いままですが…おしぼり頂きましょうか…?」
 「かどなしさんもひーちゃんもあと少しだね。がんばって!」
 「『武士道』の皆は…ちゃんと食べてるね!偉い偉い!…あ、仁、ごはんお代わりさせてもらう?一成もお冷やもらう?」
 

 ついつい、自分の気になるままに、あれこれと口出ししてしまう俺でした…
 後でものすごく反省しました。
 初対面の方々ばかり、しかも先輩が多かったのにも関わらず、俺は一体、どれだけオカン節を炸裂させてしまったのか…
 一緒に食事してくださった皆さまが優しい方々ばかりで、俺を咎めることなく許容してくださって…ほんとうにうれしかったけれど、以後大いに気をつける所存です。



 2010-07-31 22:55筆



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