Mistake of the night
「ご注文は何にしますか?」
笑顔でそう言う店員さんは可愛い。
「ん、じゃあエスプレッソ」
そう言いながらタバコをふかすトムさんはかっこいい。何てゆーか男の色気ってゆーの?漂ってますあちこちから。男の俺から見てもかっこいい。
あ、いや断じてそっちの意味ではない。俺はホモじゃない。
「紀田何にする?」
その声にはっと我に返った俺は、慌ててメニューを見る。まず目に入ったのはイチゴパフェ。
・・・・・・・
いやいやいや。
ここはひとつ、ダンディーな男を見習ってだな・・・
「俺もエスプレ・・・」
「イチゴパフェ1つ」
「かしこまりました〜」
そう言ってニコヤカに去っていく店員さん。
撃沈。
そして項垂れる俺を見てニヤっとするトムさん。
くっそ、読まれてる。
俺の思考回路。
×
そもそも何故ここにいるのかといえば、まあ言わずもがな原因は静雄さんなんだけど。
いつも通り、取り立て中にキレた静雄さんをいつもならトムさんが止めに入るそうなのだが、今回は間に合わなかったらしくそして運の悪いことに俺がその場に居合わせ、巻き込まれたってわけだ。
目の前のイチゴパフェはそのお詫びにってことで奢ってもらった。やっぱ甘党な俺にはこれが一番。エスプレッソなんて飲めねえ。
「ふは〜、いや旨かったっす!ご馳走さまです」
「もともとこっちが悪いんだし当然だ。しかしうまそーに食うなお前」
そんなけうまそーに食ってもらったらご馳走しがいがある、そう言いながら目を細めるトムさん。あれ、なんか温かい目で見られてる?これじゃ、ダンディーな男なんてまだまだ無理だな。そこでふと、店の時計が目に入った。俺の目線に気づいたトムさんもチラと目をやる。針は午前0時を指していた。
「すっかり遅くなっちまったな、送るわ」
「そんな、いーっすよ。こっからなら道もわかるし」
伝票をもって席を立つトムさんの後ろについて行きながら、そう返事を返す。ここから家までそんなに遠くはないはずだし、さすがに送ってもらうのは悪い。
俺だって遠慮くらいできる。
しかし結局俺の遠慮は、まだ学生だし夜道は危ないと一蹴されてしまった。
×
車の中から池袋の町を眺める。
キラキラと光るネオンを眺めながら、少しウトウトしている自分に気づく。そんな俺を見て苦笑を溢したトムさんに、寝てもいいぞと促され、悪いと思いつつも俺はそのまま夢の中へ―
そして次に気づいた時には見知らぬ部屋のベッドにいた。
あれ、俺どーしたっけ?
確かトムさんとファミレス行ってそっからの記憶がない。ああ、俺が寝てしまったんだっけ。
ぼんやりそんなことを考えていると、ガチャっと扉が開く音がして目を向ければそこにはバスローブを羽織ったトムさんが立っていた。風呂に入っていたのだろう、髪がまだ濡れている。
「起きたか、すまねえな。家に送ろうと思ったんだがよ、お前があんまりにも気持ちよさげに寝てるもんだから起こすに起こせなくてなぁ。」
「あ、すいません。何かご迷惑かけちゃって。もしかしてここってトムさんの家っすか?」
何から何までしてもらってさすがに申し訳なく思いつつも、ここがどこなのか尋ねて返ってきた言葉に思考が停止した。
「ん?ここか?ラブホテルだよ。」
「・・・はい?」
さも当たり前のように返されて思わず聞き返す。え、え?ラブホテル?なんで?
それが素直な感想だった。
が、それも次に見たトムさんの欲情した顔を見て愚問だったことを思い知った。
「いや、何かお前見てたら理性きかなくなってなぁ。すまん」
その瞬間に頭に浮かんだのは“食われる”の4文字だった。
×××
身動きする度にギシッとベッドのスプリングと、頭上で纏められた手首にはめられた手錠がジャラと音を立ててさらに俺の羞恥を煽る。
中途半端に脱がされた服が余計に卑猥だ。舌と右手で乳首を愛撫され左手が太股の際どいところを撫でる。
なんでこんなことになってるんだろう。
そんな疑問が浮かんでは、与えられる快楽で消える。
「は、ぁっ」
執拗に弄られた乳首はビンビンで、情けないがそれに反応した下も勃ちあがっていた。
が、トムさんは一向に触ってくれず際どいところを執拗に攻めてくる。
決定的な刺激が欲しくて思わず足を擦り合わせる俺に気づいたトムさんはニヤリと笑う。
「やらしい顔。そんなに触ってほしいの?」
「んっ、ぁっあ!」
そっとそこに手を添えられただけで、大袈裟に震える体。完全に期待してしまっている自分を嘲笑いたくなる。が、もはやそんな理性も僅かにしか残っていない程に俺は感じていた。
しかし添えられた手はそのままでもどがしい刺激に耐えられなくなった俺は気づけば自らトムさんの手にすり付けるように腰を動かしていた。
「っもぅ、ゃ、ぁん・・・!」
「ははっ、人の手でオナニーか?」
「ふっぅ、ちが、ァンっ!」
「何が違うんだ?こんな腰振っちゃって、淫乱。」
「ぁっ、ぅあ・・・ァアッ!」
口では否定しておきながらも腰の動きは止まるどころか早くなっていく。そんな俺を見ていたトムさんがいきなり添えていただけだった手でゆるゆると扱き出した。
それだけで上がる高い喘ぎ声。
そっちに気をとられている俺を尻目にトムさんは後ろの穴に指を突っ込んだ。
「っ?!ひぁあっ!ぁ、ダメッ!そこ、ぁんッ」
思いがけない衝撃にあられもない声が出る。しかしトムさんは気にした様子もなくそのままペニスを扱く手を早める。途端に与えられる快楽にすっかりメロメロの俺はそのまま軽くイった。
ピュっと精液が飛び散る。
「は、ぁっ、んぁ?!」
イった余韻に浸る暇もなく今度は後ろに突っ込まれた指がすごい早さで出し入れされる。奥のしこりを突かれる度に厭らしい声が上がり、イったばかりのペニスからはだらだらと先走りが溢れる。
「ぁん、ァアアっ!ト、ムさっ、ダメっ!まだイって、るか、らぁっ!」
ビュッビュ
止めどなく溢れる精液、しかし俺の言葉は聞き入れて貰えず、ずんずんと出し入れされ続けて頭が可笑しくなりそうだ。
ズチュッズチュグチュッ
「あはぁっん、も、だめ、でちゃっ!また、でちゃ」
「ん、どんなけイけるか見ものだな」
「ぅ、も、むりぃ」
×
「―…だ、紀田!」
「―んぁ?」
誰かに呼ばれて体を揺すられて目が覚める。寝ぼけ眼に映ったのは見知らぬ天井に、トムさん。
そして思い出した、昨日のことを。
「ぎ」
「ぎ?」
「ぎゃあぁあああ!」
お、俺!俺、昨日トムさんとっ!!!
やっちゃったー
いろんな意味でヤっちゃったー
1人頭を抱えていると、ポンと肩に置かれるトムさんの手。
力なく頭を上げると、そこにはニッコリ笑ったトムさんが―
「そう落ち込むなよ。気持ちよかっただろ?」
ダンディーな顔でそんなこと言うから、俺はまた赤面して頭から布団を被る。
言われたことが図星すぎてもう当分トムさんの顔は見れないなと思った。
end