畳には脱ぎ散らかした着物が散乱している。 情事が終わると彼はさっさと自分だけ身支度を整える。 いつもそう。 俺は布団にくるまってぼんやりと窓の外の薄暗い空を眺めていた。 何故だろう、 彼に抱かれるようになってから 覚えた喪失感。 そんな感情そのものも、とうの昔に無くしてしまったと思っていたのに。 室内で火種を探す彼の手から煙管を奪い取る。 かなりムッとされたが、いつも言われるがまま、されるがままの俺の突然の行動に少しは驚いたようだ。 「何、煙草嫌いなの?」 そう聞いてくる声は何故か嬉しそうで、コイツは何を喜んでいるのかと眉をひそめる。 煙管を蒸かした時に出る煙と鼻につく匂いが嫌いだった。 俺が黙っていると、彼はまた少し口角を上げて「ふぅん」と呟いて腰を上げた。いつもなら何だかんだでダラダラとくだらない話をして時間ギリギリまで居座るくせに。 「帰るの?」 まあこちらとしてはお金さえ置いていってくれれば帰ってくれて全然構わないのだけれど。そう思いながらも一応尋ねる。 すると彼は上着を羽織ながら部屋の襖に手をかけた。 「今日は帰るよ。何、寂しい?」 そう聞かれて思わず持っていた煙管を投げた。何が寂しいものか。さっさと帰りやがれ。 そういう意味を込めて睨みつけてやれば、返されたのは相変わらずの笑み。 「また来るよ。」 じゃあね、と言い残して部屋を出て行く後姿を黙って見つめる。 本当を言えば、少しだけ寂しいのかも。 別に彼に限ったことではない。 いつだってそう 客が帰っていくときに閉められる襖を見つめる度、いつだって俺はまるで自分だけ牢獄に取り残されたような気分になるんだ。 痛む腰を庇いながらも布団から這い出て、着物を掴む。 その時ふと目に入った煙管。 アイツ、おいていきやがった。 それを手に取れば蘇るのは― 「…だから、嫌いだって言っただろ」 牢獄の中の僕の世界は 誰に言うわけでもなく俺は瞳を閉じた。 |